婚約破棄されましたが、慕ってくれる部下と共に妖を討伐する毎日です！

第18話 綾子（side桜）

（鈴原くんと、どんな風にお付き合いしてるのか聞きたいわ）

そう思って話題をふってみたものの、友人の綾子は困ったように首をすくめた。

（これは、妹の佳代ちゃんにも話していないってこと？）

　私は少し驚いた顔をして、綾子の袖を引っ張って耳打ちした。

「驚いた――まだ言っていないの？　鈴原くんのこと」

　綾子は「しー」と口に指を置いて、頷いた。

「佳世ちゃんとあなたのことだもの。何でも話していると思っていたわ」

「たいていのことは何でも話すけど……」

　綾子はうつむいた。

「彰吾くんのことは、まだちょっと話辛くて」

「――何で？」

「――何で、かしら」

　綾子は自問自答するようにそう呟くと、しばらく間をおいて小さい声で言った。

「佳世は黙っていられないだろうし、お祖母さまの耳に入るでしょうから」

「耳に入っちゃ悪いの？　あなたのお祖母さま、あなたに結婚してほしいのでしょう？」

「それは、そうなんだけれどね」

　綾子は視線を床に落とす。

「お祖母さまは、私が自分で決めたことは嫌がると思うの。――反対されたら、嫌なんだと思う」

　そんな友人の様子に、私は思わず語気を強めた。

「放っておけばいいじゃない。あなたはもう大人なのだし、藤宮の今の家長はあなたでしょう。何でも自分で決められるのだから、そんなことを気にする必要はないと思うわよ」

　けれど、綾子は首を振ってうつむいたまま呟いた。

「そうね。桜の言う通りなのだけど――」

（ああ――、もうっ）

　私は綾子の肩を両手で掴んで顔を覗き込むと、さらに言葉を強くした。

　友達として、ここははっきり言っておかなくちゃ。　

「私、幸さんのこと、嫌いよ――こんな言い方して悪いけれど」

　私は綾子の家に遊びに行った時のことを思い出していた。

　学生時代の綾子は私の家に遊びに来ることはたまにあったが、私を家に招いてくれることがなかった。綾子の家に遊びに行ってみたいと思った私は、旅行の土産を渡すのを口実に藤宮家の門をたたいた。

『まぁ、綾子にもお友達がいたのね』

　私を客間に通しながら、綾子の祖母の幸さんは本心から驚いたようにそう言った。

　そう言われた綾子は居心地悪そうに少し背を丸くしていて、学校で見る姿とはまるで違っていて、驚いた。

『――綾子さんは、友達です！』

　その時も、私は思わず語気を強めてしまったっけ。

『いつもいろいろ助けてくれて……』

　そう言うと、幸さんはばつが悪そうに肩をすくめた。

『そうなんですか。それは良かったわ。この子は家だと何も話さないのだもの。学校でもだんまりなのかと思ったわ』

『すいません、お祖母（ばあ）様』

　老婆に『すいません』と繰り返す綾子の姿を見ているのが辛くなって、私はお茶を飲み終わるとすぐに帰宅した。それ以来、前よりも頻繁に綾子を自宅に呼ぶようになった。

私はすっと伸びた綾子の背筋が好きなのに、自宅にいる綾子の背は丸まっている気がしたのだった。

「綾子に縁談を持ってきたと思ったら、神宮司さんとのお話だったでしょう。綾子ならもっといい人がいるでしょうにとあなたの話を聞いていて思っていたのよ、本当はね」

　ため息交じりに言った。

　婚約破棄云々の話の前からもともと、綾子の元婚約者・神宮司　修介に対しての印象は悪かったのだ。

　私は神宮司さんと直接会ったことはなかった。――実は会う予定があったのだけど、綾子が私の店に神宮司さんを連れてくるという話になって、張り切って準備をしていたのに、直前に『俺の知り合いの店の方が良い』と断られたのだ。それもあって『神宮司　修介という男は綾子の事を大事にしていない』と常々思っていた。

「鈴原くん、あなたのことを尊敬して大事に思っているの伝わってくるもの。公にしても良いんじゃないの？」

　あれから綾子は鈴原くんとたびたび私の店を訪れてくれていた。

　鈴原くんといる時の綾子は、私が知っているいつもの飾らない綾子で、私はその様子を見て安心していた。

　綾子は神妙な顔で考え込んでから、顔を上げて、頷いた。

「――お祖母（ばあ）さまに話すわ」

それから、いつも私を見つめて言った。

「桜、いつも有難う」

「何が？」

　私は大げさに首を傾げた。

「お礼なんて言われることはしてないけど。今度、あなたのところの隊員さん連れてきて宴会でもしてちょうだい」

　 綾子は「みんなに聞いてみるわね」と笑った。