らぶ ふぉーる
すーぱーのゔぁ
らぶ ふぉーる
隕石が堕ちた。
スマホを持つ手にじわりと汗が滲む。
見たくも受け入れたくもないのに、なぜか目を逸らすことができない。
『そういえば俺、彼女出来たんだよね』
彼の何気ない一言が、私の恋という小さな惑星を破壊した。
始まりはいつだっただろう。
何が決定打だったのだろう。
正直、覚えていない。
休み時間の、あの屈託のない笑顔だったか。
あるいは、授業中に時折見せる真剣な表情だったか。
本当にきっかけは曖昧なのだが、彼に惹かれているということだけは私も気づいていた。
それからの日々。
私の心に生まれた小さな光の核は徐々に熱を帯び、その光は私の何気ない生活さえも照らしてくれるようで。
日付を重ねるたびに彼を目で追う回数や、彼のほんの些細な仕草で胸が締め付けられるような心地がする回数が増えていく。
まるで流星群のようだ、
…もしも、彼と手を繋いだら。
無意識にそんなことを考え、そのたびにまた現実に戻ることを繰り返す日々が増えた。
(いつか現実に…、いや、そんなことない)
…一瞬、ほんの一瞬だけだ。
あるはずもないことを期待し、そしてすぐに否定して眠りに落ちる。
そんな夜を何度も繰り返した。
だが、それでも、それでも、小さな光の核は心の隅でいつもていた。
あんまりだ。
以前、地球と世界、そして人類の滅亡をテーマにしたSF小説を読んだことがある。
読んだ当時はある日突然自分達の暮らしの終末をなんの予告もなしにその現実だけを突きつけられ、「理不尽だ」と嘆く作中の少年少女たちを哀れに思いながらも、完璧に共感をすることは出来なかった。
しかし今は彼らの気持ちがよくわかる。
突然彗星の如く現れた想い人と、彼に対する激しい恋情。
その日から私の恋という惑星は少しづつ彼に対してのときめきや嫉妬から形成され続けた。
近くの席になった。
共通の話題ができた。
連絡先を交換した。
それらは本当に限りなく小さなことかもしれないが、私にとってはとても大きなことで。
こうして私の惑星はゆっくりと少しずつ、だが確実に発展していった。
それなのに。
彼の何気ない悪気のない一言によってそれは終末を迎えた。
今までの行動を振り返ってみる。
私は何も悪いことをしていないし、彼を怒らせたことももちろんない。
でも、だからといって彼との関係を発展させるために何をしたか、と言われても特に何かをしていたわけでもない。
「これから行動起こそうと思ってたのに…」
誰かに聞かれたわけでもないのに少し呟いてみる。
目尻に涙が浮かんできた。
もういい、どうせなら今日はこのまま満足が行くまで泣いてやろう。
少しだけ悩んでいた彼への返信。
『おめでとう、お幸せに』
この一言を送信した途端私の感情の堰が切れ、ベッドに倒れ込んだ。
朝はやっぱり気温が低い。
下駄箱で立ち止まり、百均で買った折りたたみミラーで顔を確認する。
寒さで悴んだ赤い鼻と同じくらい赤いだろうと思っていた目はそこまでの程度ではなく、心の中でため息をついた。
「あ、おはよう。」
聞き覚えのある、どこか青さの残る低音。
驚いて振り返ると、そこにいたのはやはり昨日隕石を落とした張本人だった。
彼の鼻も、私と同じように赤く色づいてる。
「ああ、おはよう。」
それだけ交わした後、彼はすぐに靴を履き替え歩いていった。
現実を改めて突きつけられ、また涙が出そうになってしまう。
思えば、私のこの恋は惑星なんかではなく、名もない小さな星に過ぎなかったのかもしれない。
彼と星座を作ったのは違う星で、私は所詮何かに破壊されて砕け散る運命だったのだろう。
だが、星は砕け散ってもなお、光を放つことはできる。
星座の周りを囲む星屑は、いつも星座の美しさを引き立て、見守っているように思える。
昨日散々泣いたはずなのに、また涙が溢れて止まらない。
彼の幸せをそっと遠くから祈ること。
それだけが今の私にできることだから。
らぶ ふぉーる すーぱーのゔぁ @virgogk0913_kh
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