7 カイくん

 帰ってきたリコちゃんは久しぶりに笑顔を見せてくれた。届いたのか、オイラの祈りが。効果早いな。だけどそれは、オイラの予想の斜め上を行っていたのだった。

「あ、くまきち元の場所に戻すの忘れてた」

 と、言いながらベッドにいるオイラを持ち上げたリコちゃんは少し考えて、タンスの上ではなく枕の上にセットした。どうやらお話してくれるらしい、今日の出来事を。

「今日はねー、いいことがあったの」

 それはよかった。リコちゃんの幸せはオイラの幸せでもあるからね。話してごらんよ。

「カイくんがねー、味方してくれたの!」

 オイラは落胆してしまいそうになった。リコちゃんにとって遠い憧れ的な存在だと思っていたのに、カイくんもリコちゃんのことを見ていたのか。

「カイくん部活休みでね、いや、それより家が同じ方向にあることにびっくりしたんだけど、カイくんが後ろから来てね、一緒に帰ろうって。でね、一緒に帰ったんだけど、あの三人の話、あ、サチちゃんアイちゃんルリちゃんの話になって、辛いなら先生に相談すればって。俺にも相談していいよって! 私、来年部活辞めて、先生に相談して来年違うクラスにしてもらおうかなって言ったら、いいじゃんって」

 オイラは耐え難い苦しみに襲われた。それ、カイくんもリコちゃんのこと好きなやつじゃないか。でなければ、一緒に帰ろうなんて言わないだろ。

 神様は親切にもオイラの願いを叶えてくれたらしかった。けど、オイラのことは微塵も考えちゃくれない。オイラはこの場から消えてしまいたくなった。逃げ出したくなった。それすらできないのが量産型なんだ。

「カイくんめっちゃいい人。優しいだけじゃなくて安心感もあるの。くまきちみたいに。あっ、見て見て、カイくんからメッセージ来てる! 『辛かったらいつでも言って』だって! 嬉しい! ありがとう、っと」

 あああ、もう、聞きたくない。最悪だ。オイラはこんなこと祈ってない。こんなことになるのならオイラは……いや、それは最低だ。オイラは間違っても言ってはいけないことを言いそうになる。

 そうだ、オイラはどっしりと構えてなければいけないんだ。リコちゃんが辛い時、話を聞いてあげられるように。オイラはそれだけの役目をこなしていればいいんだ。オイラは。ああ、でも、オイラは辛いよ。

 昨日、リコちゃんはこんなことを言っていた。

「くまきちは、私の精神安定剤だ」

 精神安定剤は必要がなくなれば捨てるだろう。そんなつもりで言ってないにしても、今は何もかも悪い意味でオイラに伝わってしまう。見返りが欲しくて優しくしていた訳ではないのに、どうしてなんだろう。オイラだけに見せた弱さ。涙。勝手に信用してた。

 いや、もう考えるのを辞めよう。オイラはただのぬいぐるみだ。無感情でいることくらい朝飯前さ。

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