5 七月
カレンダーは七月になっていたけど、オイラはリコちゃんに夢中で日を追うのを忘れていた。から七月某日。この日は家に、というか部屋に珍しくお客さんがやって来た。
「ここが私の部屋」
「うわ、広ーい。いいなー」
確か六畳あるリコちゃんの部屋。昨日片づけていたのは友達を招待する為だったのか。
部屋にはリコちゃんの他に、三人が入ってきた。多分、前に言っていたサチちゃんとアイちゃんとルリちゃんだ。各々が鞄やトートバッグを身に着けていた。
「勉強終わったら午後から駅前ね」
「カラオケ行く?」
「夏休みだし、楽しまないとね」
「うん、確かに」
そうか、もう夏休みに入ったのか。四人の話からオイラは夏休みの勉強会だと推理した。
それよりリコちゃんがさっきからクローゼットに目をやっているのが可愛かった。恐らく、部屋の片づけと言ってもクローゼットに詰め込んだだけの荒療治みたいな状態だから、バレないか危惧しているのだろう。そんなことならもっと前から片づけておけばよかったのに。
オイラが内心で呆れ笑いしていると、いつの間にかリコちゃんはどこかへ行ってしまっていて、友達三人の注目がオイラに集まっていた。
「なんかタンスの上にぼろいぬいぐるみあるんだけど! ウケる!」
「ほんとだ。趣味悪いね」
リコちゃん、早く帰ってきて。オイラは願うけど叶わず、三人はオイラの容姿いじりで盛り上がっていた。
「今どきテディベアとか! リコってセンスもないよね」
「確かに! まじウケるわー」
オイラの文句は我慢できるけど、リコちゃんの悪口は辞めてくれ。オイラが好きな人の悪口は、自分の悪口よりも胸がずきずき痛む。量産型とは言っても心はあるんだから。
きちんと満遍なく傷つけられた後で、やっとドアが開いてリコちゃんが帰ってきた。
「飲み物とお菓子持ってきたよ」
そう言ってリコちゃんはお盆に乗ったお菓子と飲み物をテーブルに置いた。リコちゃんがコップに飲み物を注いでいる時も、三人はそれを眺めて話をしているだけで気が利かない。なんで偉そうなんだよ。同級生なのに上下関係で成り立つなんて変な話だろ。オイラは第一印象から嫌な気配を察していたけどね。
それから四人は雑談をしながらも宿題を進めていった。主に話題はサチちゃんかルリちゃんが出して、アイちゃんはイエスマン。リコちゃんも聞くに徹していた。本当はリコちゃん、話をするのが大好きな子だとオイラは知っているから可哀想に見えた。
三人の性格は徐々に分かってきた。
まずサチちゃん。この子は前にリコちゃんが言っていたように男勝りな感じがあった。例え彼女の敵が男だろうと物怖じせず、他の男子を味方につけることもなく、一人でも突き進むような、そんな女の子だった。だからこのグループのリーダー的な役目を担っていて、オイラ的に最も敵に回したくないタイプだ。
続いてアイちゃん。この子は分かりやすい。多数に所属していたい、強い者に付き従うタイプだ。だからサチちゃんの言いなりではあるんだけど、リコちゃんより地味で目立たないからサチちゃんの邪魔にならない。
そしてルリちゃん。彼女がオイラは一番苦手だ。甘やかされて育ったのか、わがままで強引。さらにこの中で一番可愛いリコちゃんの容姿を嫌っている。しかもサチちゃんと一番仲がいいから、意見は難なく通る。多分、リコちゃんが下っ端に見えてしまうのはこの子が原因だ。リコちゃんも苦手なのか、あまりリコちゃんから彼女へ話しかけることはなかった。ルリちゃんがこのグループを裏で支配していると言える存在だった。
時計は見えないけど、午前中の間四人は勉強に集中して、午後から遊びに行くらしく、この中で一番駅前に近いリコちゃんの家に集まったとのことだった。
窓からの日差しが高くなり昼に近くなった頃、真面目に勉強に取り組んでいた四人の中で最初に声を上げたのはサチちゃんだった。
「はーもう無理! お昼ご飯食べに行こうよー」
「賛成! 早く片づけて行こ行こ」ルリちゃんが大きく頷いて賛成を示した。
リコちゃんはいいとこだったのか、少し不満そうな顔を見せたがすぐに切り替えて「さんせー」と言った。
そう決めてからは早くて、すぐに荷物をまとめて四人は行ってしまった。オイラの彼女らへの分析はなんの役にも立たないのだった。でもこの中でリコちゃんが一番可愛いのは他人から見ても明白だろうと思えた。
そんなことより、誕生日を最後にして、リコちゃんはオイラに話しかけてくれなくなった。毎日が忙しいのもあるだろう。オイラはずっと、今日は話しかけてくれる気配がする、とか毎日考えていたけど、もう何か月もリコちゃんがオイラを手に取ってくれることはなかった。
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