4 六月十一日
オイラは夢を見た。そこでは、オイラがこの世に一つしかないぬいぐるみになっているんだ。そしてまたリコちゃんに出会う。オイラは量産型じゃなくてオーダーメイドみたいな、リコちゃんの為だけに作られた存在だから、リコちゃんはもっと大事にしてくれる。今までよりももっと、辛い時だけじゃなくて幸せな時もオイラに話してくれる。自分が幸せな時もオイラのことを考えてくれる。とても自分勝手な夢だった。
今日は六月十一日。リコちゃんの誕生日だ。そしてオイラとリコちゃんが出会って……いや、なんでもない。リコちゃんから言ってくれないなら、オイラが自分から知らせる必要はない。その術もない。
誕生日くらいはゆっくり過ごしてほしいと思うけど、リコちゃんは相変わらず忙しそうだ。朝早くに起きて眠たい眼をこすって学校へ行く。部活が終わって帰ってきたら勉強。自分の為に一日は使えなかった。
晩ご飯を食べにリビングへ行ったリコちゃんが帰ってきた時、何やらお洒落な紙袋みたいなのを手に持っていた。お母さんかお父さんから誕プレを貰ったらしい。リコちゃんは嬉しそうにしていた。一体、何が入っているんだろう。気になっているオイラに気づいたのか、リコちゃんはオイラを持ち上げていつもの枕の上に置いた。
「今日は私の誕生日だよ。くまきちも祝って祝って」
誕生日おめでとう。素敵な一年になりますように。オイラは祝うと同時に少し悲しくなった。やはり、オイラと出会った日であることは覚えていないか。そう思った時、
「あ、今日ってくまきちを買った日か。私たちが出会った日だ」
奇跡が起きた。てっきりオイラはオイラが言ったことが伝わったんじゃないかと思って、少し恥ずかしくなったけど。オイラのことを覚えていてくれた。それはとてもありがたいことだった。
「九年くらい? の付き合いってことになるね。いやぁ、長いな。うん。どの友達よりも長い。家族で親友だよ」
オイラは嬉しいと共に、その言葉を聞いて悲しい気持ちにもなる。オイラは家族であり親友である。それはぬいぐるみにとって一番言われたい言葉の筈だ。でもオイラは、恋愛対象として見られていない。そのことが辛かった。
「くまきち、これからも好きだよ」
好きと、そう言われて簡単に舞い上がってしまうのがオイラくまきちさ。オイラは恋をしてから随分ともろくなった。傷つきやすく繊細になった。でも、この気持ちは、この心はオイラだけのものだ。もしかすると、オイラは既に量産型ではないのかもしれない。
「そうだ、見て。お母さんから化粧品を貰ったの。お化粧練習できるよ! それからカイくんからもお菓子貰ったし、皆からもプレゼント沢山貰ったの」
カイくんめ。お菓子でリコちゃんを釣るなんてずるいぞ。オイラみたくどっしり構えて正々堂々男らしく勝負しろよ。カイくんがただ優しい人物で、傷つきやすいリコちゃんと相性がいいなんて、考えたくもなかった。
楽しそうにプレゼント紹介をするリコちゃんはやっぱりとても優しいんだと思う。いらないプレゼントなんてないんだ。プレゼントをくれる、という行為そのものに喜んでいる気がする。オイラはこんな風にリコちゃんのいい所を見つけてまた好きになる。でも。
ああ、辛いことを発見した。この気持ちはオイラだけのものだけど、それを知らせる力、手段がないのなら、結局は皆同じように見られてしまうのかもしれない。心があることを伝える能力がないオイラたちは所詮、量産型の域から出ることは叶わないのかもしれない。
そんなことを考えていると、いつもは楽しいリコちゃんの話はあまり耳に入ってこなかった。
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