第14話 幻影の森
教団の本部に戻り、アランはひと時の休息を取ることになった。仲間たちとの再会を喜び、彼を迎える温かな空気に包まれる中、アランの心には安堵と共に、新たな使命への静かな覚悟が芽生えていた。
数日後、教団の上層部から緊急の招集がかかり、アランとマルティナは再び本部の会議室に集められた。そこには、教団の指導者である大司祭や精鋭たちがずらりと並び、張り詰めた空気が漂っている。
「アラン、マルティナ、よくぞ無事に戻ってきてくれた」
大司祭が静かに声をかけ、二人の功績を称えると共に、感謝の言葉を述べた。だが、その顔には深刻な影が落ちている。
「実は…新たな闇の脅威が確認された」
その言葉に、会議室全体がざわめき始める。闇の王を倒し、シャスカーをも討ったばかりの二人にとっては、休む間もなく新たな任務が待っているという知らせに一抹の不安が走った。
「場所は『幻影の森』だ。そこにはかつて、我々の先代が封じた『闇の門』が存在する。しかし最近、その封印が緩み、森全体が再び闇に包まれつつあるという報告が入っている」
大司祭の声には、今の事態がどれだけ深刻かを物語る重みがあった。
アランはその話を聞き、心の中に再び静かな炎が灯るのを感じた。闇の門…それは伝説の一部であり、教団が最も恐れていた存在でもあった。そこから溢れる闇が再び活発になれば、この世界が危機に陥るのは確実だった。
「俺たちが行く必要があるんですね」
アランは冷静な口調で大司祭に問いかけると、その視線にはすでに覚悟が宿っていた。
「そうだ。だが、今回は他の精鋭たちも同行する。単独行動ではなく、協力して対処に当たってもらいたい」
教団は闇の門に立ち向かうため、総力を結集する覚悟を固めていたのだ。
その夜、アランとマルティナは準備を整えつつ、静かに作戦の計画を練っていた。幻影の森は、その名の通り人を惑わすような魔法に満ちた場所であり、通常の地形や常識が通じない特殊な空間であることが知られていた。そこでの戦いがどれだけ過酷なものになるか、二人とも理解していた。
「アラン、気をつけてね。森の中では何が起こるかわからないし、幻に惑わされることもあるかもしれない」
マルティナが静かに忠告すると、アランは小さく頷いた。
「幻影に惑わされるような隙は作らないさ。でも、お前も自分を守ることを忘れるなよ。どんな状況でも、俺たちは互いを支え合う」
アランの言葉には、仲間を思う強い意志が込められていた。
出発前夜、アランは静かに星空を見上げ、胸に誓いを立てた。新たな闇の脅威に立ち向かうため、彼は再びその力を解き放つ準備を整えていく。
「闇の門…絶対に封印し直してみせる」
その静かな決意を胸に、アランは冷たい夜風を受けながら、次なる戦いへの覚悟を固めていた。
第十七話: 幻影の森への誘い
翌朝、アランとマルティナは教団の精鋭たちと共に、幻影の森へと向かう準備を整えた。装備は慎重に確認され、護符や魔法道具も手にする。森の深部へと進むにつれ、異常な気配が漂うため、念入りな準備が求められた。大司祭からの指示が強く響く。
『森の奥に足を踏み入れる前に、最後の確認をおろそかにしてはならない』
教団の前衛部隊には、経験豊富な戦士や魔法使いが揃っている。その中で、アランは若手ながらも高い評価を受けており、仲間たちからの信頼も厚い。彼がいるだけで、部隊全体に安心感が広がった。
森の入り口に到達した一行は、その静寂と奇妙な空気に足を止めた。霧が立ち込め、薄暗く重い空気が漂っている。まるで森そのものが彼らを拒むかのようだった。
「いよいよだな…」
アランは静かに吐息をつき、隣のマルティナに目をやった。彼女もまた、緊張と決意を込めた表情で森の中を見つめている。
「大丈夫、私たちならやれる。今までだって、どんな試練だって乗り越えてきたわ」
マルティナはアランの肩を軽く叩き、力強く微笑んだ。その言葉がアランに力を与え、彼は頷く。
「その通りだ。どんな幻影が現れても、俺たちは惑わされない」
アランの言葉に力がこもり、他の仲間たちもその決意に感化され、各々が戦闘態勢に入る。心の中で覚悟を決めた一行は、ゆっくりと森の中へと足を踏み入れた。
森の中は異様な静寂に包まれていた。風の音さえも聞こえない。ひどく不安を誘う沈黙が辺りを支配していた。進むにつれて、奇妙な幻影が現れ始めた。
「これはただの幻影だ!冷静になれ!」
アランは警告を飛ばすが、幻影はまるで実体があるかのように現れ、生々しく彼らの進行を阻もうとする。森に迷い込んだ人々の悲鳴や、かつての教団戦士たちの死に様が次々と浮かび上がり、彼らの前に立ちはだかる。
突然、マルティナが一瞬、足を止めた。目の前には幼い頃の彼女自身が立っていた。幻影が、失った家族の姿をとり、手を差し伸べて彼女を呼び寄せようとしている。
「マルティナ、駄目だ、幻影に惑わされるな!」
アランはすぐに気づき、彼女の肩を強く掴んで声をかけた。マルティナは一瞬、吸い寄せられそうになったが、すぐに我に返り、動揺を抑えた。
「ありがとう、アラン…。危うく、引き寄せられるところだった」
彼女は深呼吸をして心を落ち着け、再び決意を固めた。二人はお互いに背中を預け合い、慎重に進むべき道を確認しながら歩みを進めていった。
やがて、一行は森の奥深くに到達し、古びた石碑が現れた。そこには教団の言い伝えに語られる『闇の門』の封印が施された痕跡があり、石碑は長い年月を経てひび割れていた。
「これが…『闇の門』の封印か」
アランはその石碑を見つめ、背筋がぞくりと冷たくなるのを感じた。封印は今にも崩れ落ちそうであり、そこから漏れ出す暗い気配が森全体に影響を与えているのは明らかだった。
「封印が崩れる前に、我々で強化し直さねばならん」
大司祭が緊張した面持ちで言葉を放つと、教団の精鋭たちは即座に準備に取り掛かる。それぞれが魔法陣を展開し、石碑の封印を補強する儀式を始めた。
しかし、儀式が始まった瞬間、森の奥から轟音が響き渡り、地面が激しく揺れ始めた。アランはその揺れに耐えながら、再び周囲を警戒する。何かが封印の強化を妨害しようとしているのは明らかだった。
「みんな、気をつけろ!何かが来る!」
アランの警告と共に、森の奥から異形の影が現れた。それはまるで闇そのものが具現化したかのような存在であり、巨大な目がぎらぎらと彼らを見据えていた。
「これが…森の守護者か?」
マルティナが息を呑み、闇の塊を見つめる。その影は何度も形を変え、周囲に幻影を次々と放って一行を惑わせようとしていた。
「幻影に負けるな!相手の本体を見極めろ!」
アランは冷静に指示を飛ばし、闇の影に焦点を合わせた。彼の目はすでに、闇の魔物のわずかな動きや揺らぎを捉えており、それが本物の標的であることを確信していた。
「見つけた…!」
アランは杖を振りかざし、集中した力で光の魔法を放った。その光は闇を貫き、闇の影の核心を打ち抜いた。影は苦しげに叫び、形を崩しながら消え去っていった。
「やったか…?」
一瞬、安堵が一行を包み込むが、すぐにその表情には警戒が戻る。闇の門の封印が完全に修復されるまでは、森の力が再び牙を剥く可能性があるからだ。
「急げ!封印の儀式を再開しろ!」
アランは叫び、仲間たちは再び魔法陣を展開して封印を強化するための儀式を続ける。アランとマルティナは周囲を警戒し、他の闇の勢力が近づいてこないように警戒し続けた。
禁忌の書 蛇足 @mikan22310
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