BlackMagic♡

清野天睛

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「一体青華はどんなおまじないを教えてくれるの?」

私、天海美空の通っている中学校では、恋のおまじないが流行っている。そのおまじないの内容は、簡単な物から本格的な物まで多種多様だった。

そんな中、私の親友である亜久里青華が何やらすごい恋のおまじないを教えてくれるらしい。

「ふふーん、これは本当にすごいおまじないなんだから!…絶対他の人に言っちゃダメだから…約束ね?」

「うん、分かったよ。それで早く教えて!」

「まあまあ、そんなに慌てないでよ。…和馬くんに使うの?」

和馬くん───赤城和馬くん。私の好きな人。私はこの事を親友である青華にだけ話したため、これは2人だけの秘密。

「う、うん。和馬くんに振り向いて欲しいもん」

「…そっか。じゃあやり方を教えるわね───」

青華の話によると、必要な物は生米、赤い糸、布、空き箱、そして…縁を結びたい人の髪の毛と自身の血。そして手順は、

1.布を人型に2枚切る

2.1で切った人型の中に生米を詰め、赤い糸で縫い合わせる。

3.2の人形に赤い糸で縁を結びたい人のフルネームを赤い糸で縫う

4.人形のどこかに縁を結びたい人の髪の毛を縫い付ける

5.自身の血を一滴、人形に垂らす

6.その人形を箱に入れたら完成

という物だった。

正直、少し不気味だった。特に血を使うところとか、、、

でも、それ以上に効果がありそうで、とりあえずやってみる事にした。

学校からの帰り道、必要なものを一通り買い揃えて家へ帰る。因みに、和馬くんの髪は今日学校で話してた時、こっそり拝借した。

なんかしれっと怖い事やってる気もするけど、気にしない。

自宅に到着し、早速準備を始める。因みに今日は両親共々出張で明日まで帰って来ない。つまり、このおまじないをするのには最適の日だ。

「えっと、、、確か最初は人形を作ってと…」

布を人型に切って、中に生米を詰め、それを赤い糸で縫っていく。

「…よし。次は…」

赤い糸で和馬くんの名前と、和馬くんの髪を縫う。

「…できた。そしたら最後に血を……これが一番嫌かも。」

正直痛いしあんまりやりたくない。でも、やるしかない。さっき縫うのに使っていた縫い針をゆびに軽く刺す。

「──痛ッ」

そんなこんなで血を人形に垂らす。

「…このあとどうすれば良いんだろう?このまま放置かな?」

この後の手順は特に聞いていない。あれこれ考えた末、ひとまず空き箱にでも入れておく事にした。

「うーん、明日青華に聞いてみようかな」

とりあえず今日は寝る事にした。それにしても、効果は表れるのかなぁ?なんて考えていると、気づいたら眠っていた。

翌日、学校に行くと青華が学校を休んでいた。

「折角昨日のおまじないについて聞こうと思ってたのに…」

そんな時、和馬くんに声をかけられた。

「天海ー、先生が放課後2人で職員室に来いってさ」

「う、うん分かった。ありがとー」

「あいよー」

早速2人で話せるチャーンス!もしかして昨日のおまじないのおかげかな?なんてね。

兎にも角にも、放課後が楽しみで仕方ない私なのでした。


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放課後、私は和馬くんと一緒に職員室へ向かっていた。

「にしても、2人で来いだなんて一体何の用なんだろうな?」

なんて和馬くんが話しかけてくれる。こんな他愛の無い会話だけれど、和馬くんと話せる。それだけで幸せに感じてしまうなんて私は変なのかな?まあ、でもとりあえず話せている今この瞬間を楽しもう。

「ねー?なんだろうね?何か頼み事かな」

何て話しながら職員室へと向かう道中の階段で、突如として身体が動かなくなった。

(──あれ?身体が動かない。マズい、このままじゃ落ちちゃう)

そして、今正に落ちる瞬間、和馬君が手を引いてくれた。

「おい、大丈夫か?」

「う、うん。ありがと…」

(助かった…それもそうだけど何よりも、和馬くんが手を握ってくれた…)

「体調でも悪いのか?」

「ううん。本当に大丈夫」

「そうか…なら良いんだけど」

再び、職員室へ歩き始める。

(それにしても、さっきのは何だったんだろう…?)

さっきの身体の固まり方は、明らかに不自然だった。

(…昨日の人形のせい?…まあ、とりあえずしばらく様子を見てみようかな)

そんな事を考えていたら、気づけば職員室に着いた。


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(結局、そんな大した事じゃなかったな)

結局、先生に呼ばれたのはちょっとしたお手伝いだけだった。そのお手伝いも終わって私は、帰路についていた。

和馬くんと一緒に帰ろうにも、逆方面なのだから仕方ない。そんな事を考えている内に、気付けば家に着いていた。

「ただいまー」

返事はない…まあ、今日の夜に帰って来るのだから当たり前だけれど。

(そういえば昨日の人形、どうなってるんだろ?)

そう思って空き箱の蓋を開けてみてみると、昨日垂らした一滴の血がだんだんと全身に広がってきている。

「あれ?なんか血の染みがだんだん広がってきてるような…」

少し気になりはしたものの、その日は疲れもあってか気付けば寝てしまっていた。


翌日も、青華は学校を休んでいた。


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「今日も学校休んでるなんて、青華大丈夫かな…」

なんて友達と話していると、和馬くんが話しかけてきた。

「天海ー、先生がまた頼みたいことがあるから2人で来いだって」

「うん、わかった。今行くー」

(それにしても、またお手伝いか…まぁ、和馬くんと一緒だからいっか)

「にしても天海、亜久里は大丈夫なのか?もう2日も休んでるみたいだけど…」

「うーん。私も心配だから、今日お見舞いに行こうかなって」

すると、和馬くんが不思議そうに尋ねてくる。

「あれ?天海って亜久里とメッセージとかやってないのか?」

「あー、うん。私、スマホ持ってないの。私の家、そういうのに少々厳しくて…」

そんな家だから、未だに遊びに行くのにも一苦労だ。

「それは…色々不便そうだな…特に女子は」

「まあね。女子はそういうの男子よりも面倒だからね」

そんな話をしている内に、職員室に着いた。

ノックして失礼します。と言って中に入る。

すると、担任の鈴木先生がちょうど待ち構えるように立っていた。

「おお、天海に赤城、昨日に引き続き悪いな。これを教室に持って行って欲しいんだ」

そう言って手渡されたのは、今日提出した英語のワークブック。

「分かりました」

そう言って2人で手分けして持って教室へ歩き出す。


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「そういえばさ」

急に和馬くんが話題を振ってくる

「俺、今日天海の家の方向に用事あってさー、今日一緒に帰らない?」

「うん、いいよー。用事って?」

「あー、ほら、天海の家の方向って駅方面じゃん?俺今日ちょっと買いたいものがあって…」

「そっかー、何買うの?」

「あー、それは…秘密だな」

「えー?何でさー」

「…なんでも」

そんな風に楽しく話しながら、2人仲良く歩き出す。


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家に帰って、人形の入っている箱を開けてみる。

「あれ?」

人形がない。

自分の部屋をくまなく探してみるが、一向に出てこない。

「ほんとにどこいったんだろ?」

あれこれ考えてみたものの、とりあえず青華のお見舞いに行く事にした。


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「えっと…確か青華の家は…」

前に遊びに来た時の記憶を辿って、ようやく青華の家に辿り着いた。でも…

「───ッ」

ない。青華の家が、無くなってる。

正確に言うと、建物はあるものの、表札がない。

呆然と立ち尽くしていると、近所のおばちゃんが声をかけてくれた。

「あら、そこのお家に住んでいた亜久里さん。1週間くらい前に引っ越したわよ」

「…え?」

「突然のことでねぇ。理由は分からないんだけど…」

「…」

それはおかしい。2日前まで学校に来ていたはずなのに…

「それってどこへ引っ越したか分かったりしませんか?」

「うーん、そうねぇ…あ、でもこれは聞いた話なんだけど…」

そういっておばちゃんは声を潜めて話し出す。



───亜久里さん家、夜逃げしたって言う噂よ…



頭を金属バットでガンと殴られたような衝撃が走った。

そのあとの事はよく覚えていない。その後もおしゃべり好きなおばちゃんは色々話していたような気がしたけれど、そんなことは今の私の耳には入らない。

青華の家が夜逃げした?それも1週間も前?じゃあ、2日前まで会っていた青華ちゃんは───私に恋の"おまじない"を教えてくれた子は……誰なの?




───そうして、その日を起点に段々和馬くんがおかしくなっていった。


※※※※※※※※※※※※※※


翌日

朝、学校に着くと、珍しく和馬くんから話しかけてきた。

「おはよう!美空ちゃん」

おかしい。そもそもテンションが違うし、何よりも普段の和馬くんは下の名前で呼ばない。

そしてその笑顔を見て分かった。その笑顔の眼の奥にはドス黒く渦巻いたおぞましい"ナニカ"がいる。ソレは純粋な笑顔なんかじゃない。どこか狂気に満ちていた。

けれども、挨拶は返さないわけにはいかない。

「うん、おはよう。和馬くん」

その日、一日中和馬くんは私のそばを離れなかった。いつもだったら胸がときめく彼の笑顔も、今日は何だか恐ろしく感じた。

その日の放課後、私が1人で帰ろうとするとやはり、和馬くんがついてきた。

「一緒に帰ろ!」

やはり様子がおかしい。しかし、それを断る気にもなれず、一緒に帰ることにした。

しばらく歩くと、私の家の前に着いた。

「じゃあ和馬くんまた明日───」

そう言おうとした瞬間、バチバチッというスパーク音と共に私は意識を失った。


※※※※※※※※※※※※※※


次に目が覚めると、どこかの家の一室にいた。

手足はロープで縛られ、口には猿ぐつわ?らしき物を付けられて、ベッドの上に寝かされていた。

「────」

口が塞がれていて、うめき声しか出ない。そして目の前には────

「あ、美空ちゃん。起きた?」

「────」

「あ、ごめんごめん。苦しかったよね。今話せるようにしてあげるよ」

「はぁはぁ、和馬くん…どうして…?」

「どうして?それは僕が美空ちゃんを愛しているからだよ好きなところ?言い出したらキリがないけどその可愛らしい顔にその声一つ一つ、友達思いの優しいところとか困った時に首をこてんとさせる仕草とかあああああ本当に大好き────」

和馬くんがいっていることが頭に入ってこない。

和馬くんは元々こんな性格じゃなかった。何よりも、一人称が違う。

和馬くんのいつもの一人称は"俺"。"僕"なんて使っていたことなんかない。

と、考えるとこうなった原因は────あのおまじないしかありえない。

とりあえず何とかここから脱出しなきゃ…でも、その前に───

「このロープとか、さっきのスタンガンっていつ準備したの?」

「うん?ああ、昨日美空ちゃんと一緒に帰った時だよ」

一緒に帰った日───人形が無くなった日だ…

やっぱりあのおまじないのせいだ…とにかくここから逃げなきゃ。

…どうやって逃げよう?とりあえず、このロープを解かないと……そうだ!

「和馬くん、私、お手洗いに行きたいんだけど…」

「分かった、お手洗いは一階にあるよーあ、そのままじゃ動けないね…ハイ、ロープ切ったよ行ってらっしゃい」

…やけに素直にロープを解いてくれたね…まあこの隙に外に逃げよう。

私はトイレに急ぐふりをして1階の…玄関へと向かった、、、が、玄関へ繋がる扉は釘で打たれていて出ることができない。

…なるほど、自由にさせるにはそれ相応の理由があるわけだ

とりあえず、私は疑われないようにトイレに入ることにした…そこで気づいた、トイレには換気用の小窓がついている。そこから出られるのでは?

いざ入ってみると、期待通り、私1人ギリギリ抜けられそうな小窓があった。私は小窓のよじ登り、躊躇うことなくそこから飛び降りる。

そして、和馬くんがいる2階の窓から見て死角になるであろうルートを通って和馬くんの家から逃げ出す。

もしかしたら、監視カメラとかgpsとか付けられているかもしれないと考え、一直線に近くの交番に駆け込む。

「助けてください!!!」

その後、交番に常駐していた警察の人が、本部に連絡をしてくれたらしく、パトカー数台が和馬くんの家へ向かい、和馬くんは拉致監禁の罪で警察の人に連行されていった。

私は警察の人に取り調べを受けて、おまじないの話をしたけど、まともに信じてもらえなかった。

きっとパニック状態で現実があやふやなんだろうと思われたに違いない。和馬くんは精神鑑定の結果、異常が見つかり、未成年なのも相まって保護観察処分という形になった。

私は家に戻ってから、家族共用のパソコンを使って例のおまじないについて調べていた。

ほとんど検索には引っ掛からなかったけれど、1件だけ気になるサイトを見つけた。

サイト名は…"black magic"?日本語で…"黒魔術"か────

そこには私が行った手順がそのまま書かれていた。けれど…

「恋のおまじないじゃなくて…相手の人格を歪めて自分に依存させる呪いの儀式?」


──Fin──


※※※※※※※※※※※※※※


おまじない


オマジナイ


まじな


御呪おまじな


おまじないは、漢字で書くと「御呪い」と書きます。この漢字から見てわかるように、元を辿れば「呪い」そのものです。

確かに「おまじない」は「呪い」と比べると多少プラスの意味を持ちますが、今回の主人公のように友達に勧められてもやるべきではないでしょう。

その「おまじない」にどんな悪意が込められているか、分かりませんから…


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