私の発狂日記

藤泉都理

私の発狂日記




 素晴らしい夜空だった。

 澄んだ空気の中で、華々しい煌めきを放つ星々に。半月。

 そう。半月だ。片割れだ。ひとりぼっちだ。


 異常気象や異生物襲来などによる人類の存亡の危機が描かれた映画やドラマを鑑賞している時、常々考えていた。

 生き残る為に必要なのは何なのか。

 脚力と腕力である。

 自身の身体を鍛えるもよし、最新技術を用いて得るもよし。


 私は前者であった。

 兎に角、鍛えて鍛えて鍛えて鍛え抜いた結果。私は超人の腕力と脚力を得た。

 これでゾンビに襲われようが宇宙人に襲われようが、超人の腕力で捻じり千切る事は可能であるし、津波に襲われようがハリケーンに襲われようが、超人の脚力で逃げ切る事も可能である。

 そんな超人の腕力と脚力を手にした私に恋人ができた。

 君と一緒に居れば世界の果てまで生き残れそうだと、私をとても頼りにしている弱弱しい男性であり、恋人同士で行う行事に目がない男性でもあった。


 今日もそうだ。

 十一月十一日。

 何の日かお分かりだろうか。

 そう。ポッキー&プリッツである。

 ポッキーオアプリッツゲームである。

 二人がポッキーもしくはプリッツの両端にくわえて同時に食べ進めるゲームである。

 きゃっきゃうふふと恋人同士の距離を縮める為のお楽しみゲームらしい。


 旨サラダ、トマト、ロースト塩バター、超カリカリプリッツハーブ香る香味チキン味、超カリカリプリッツ和風だし香るホタテ醤油味。


 私も彼もプリッツ派である。

 そこまではよかったのだ。

 問題はそこからである。

 どの味がいいかで揉めたわけではない。

 私は一本一本ぽりぽり食べる派であったが、彼は十本一気に口に入れてぼりぼり食べる派であった。

 なので、彼はプリッツゲームも十本のプリッツを口にくわえて、同時に食べ進めたかったらしい。

 いやいや。私は嫌だと言った。

 いやいや。彼は譲らないと言った。

 だったらプリッツゲームはしなくていいじゃない。私は言った。

 プリッツゲームをしないなら別れる十本でないと別れる。彼は言った。

 全く譲る気のない彼に愛想を尽かした私は、別れると言った。

 いいよ別れてやる。彼も言った。

 こうして私たちはあっさり別れる事ができた。

 何の問題もない。はずだった。

 いいや。違う。問題が起こった。彼にではない。私にである。


 何故か彼と別れて以降、買ったプリッツを粉砕してしまうようになってしまったのだ。

 ぽりぽり触感が好きだったのに。

 買っては粉砕。買っては粉砕。買っては粉砕。買っては粉砕。買っては粉砕。

 買わなければいいのに、プリッツを目にした瞬間。どうしても手が伸びてしまう。買ってしまう。粉砕してしまう。拳をたった一発当てただけで容易く粉砕。

 もう、私はぽりぽりを楽しめない。ごじゃごじゃしか楽しめない。

 私は発狂し。











(2024.11.11)




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私の発狂日記 藤泉都理 @fujitori

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