第5話 マーサおばちゃん
「あんたたち! この忙しいのに、何じゃれてるんだい!」
ブランは二人の母親マーサを呼びに行ったのだった。
「マーサおばちゃん! 聞いてよ、カノンがほっぺたぐにーってした」
「お母さん、アズがお姉ちゃんの言うこと聞かないの~……」
マーサはため息を吐いた。
「あんたたちが遊んでいるうちに、観光客向けの菓子や弁当は全部作っちまったよ。さっさと顔を洗ってきな。馬車で町まで乗せていってあげるからさ」
二人は、小川まで直行した。
馬車の上で、二人してマカロンを食べる。
「マカロン教えてくれたの、アズのおじじ様だったね」
「うん。私は、マーサおばちゃんとカノンのおかげで、お乳にありつけたから。お礼だよ」
カノンはぐすんと鼻を鳴らした。
「勉強も教えてくれたよね。町に学校はあるけど、大きい子向けだものね」
「そうだ、カノン。お葬式が済んだら、本は全部カノンの好きにしていいって」
カノンは本が大好き。カノンが小さい頃、マーサおばちゃんは娘に料理を教えようとして諦めたのだった。カノンは、あまり「生活」ということに興味がない。
そういう意味で、リーデン様とは大変気が合った。「あの子はいずれ王都の学校に行くよ」とも言っていたっけ。
カノンは難しい顔をしている。
「どうしたの?」
顔を覗き込む。
「だって、アズが王様に会いに行くんだよ?」
「違いない」
前でマーサおばちゃんが肩を落とす。花畑ではしゃぐ人の声が聞こえる。春爛漫。
「大丈夫だよ。リーデン様も心配だと思ったから、ブランを付き添いにしたんだろうし」
私は、不満だったけど。本当は、嬉しかったけどね。
笑って、アステロッテ 神逢坂鞠帆(かみをさか・まりほ) @kamiwosakamariho
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