第4話 カノン

 もちろん、私たちは正式な夫婦ではない。女性が結婚できるのは十六歳以上だから。

 さすが、大賢者だと思う。たとえ嘘でもその時いちばん欲しい言葉をくれたのだから。

 私は、あの日、ただのアステロッテからグランフィール家のアステロッテになった。

 そして、リーデン様亡き今、あの指輪は私のもの。王都に入るためには、身分証が必要だけど、捨て子なのでそんなものは存在しない。

 ブランが届けてくれた宝物は、ひもを通して首にかけている。

「ブラン。先に村に寄ろう」

 ほっほー。

 森と村を繋ぐ一本道。見慣れた女の子がひとり。どこか所在なさげだけど……。

「カノン」

 ふわりと舞い降りる。泣きっ面で駆け寄ってくる。抱きしめ、短い黒髪をなでる。

「あのね。鐘が鳴ったの。風も無いのに……。だから、お母さんが教えてくれたの。きっと大賢者さまがお隠れになったのだって」

 鼻をずびずび言わせている。

「丘の見張り台の鐘だよね」「そう」

 二人して、見上げる。

「うちも鳴ったよ。鈴」

 力ある者が亡くなると、鈴や鐘が鳴る。リーデン様なら、きっと王都の時計台のベルだって奏でただろう。でも、誰が亡くなったのかまでは分からない。

 なので、わざわざ伝えに行く。

 カノンと手を繋ぎ、歩き出す。

 カノンとは、乳呑み姉妹だ。森で赤ん坊の私を拾って、リーデン様はどんなに困ったことだろう。それまで一人きりで森にいたのに、私のために村まで足を運んでくれた。

 ちらりと隣を見る。私より小さなお姉さん。

「カノン。ごめんね」

「えっ?」

 首を傾げる。

「だってさ、春真っ盛りだよ」空いた片手を広げる。「ピクニックしに都会から人がたくさん来るよね。去年は、手伝ったのに……」

 そうか。永遠に続くみたいな春はもう来ないんだ。

「アズ。いいんだよ」

 ぎゅっと手を握られ、にらまれる。

 不穏な空気を悟ったブランが飛び立った。


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