第2話



 前世の記憶を取り戻し、「Reincarnation Start Over」の世界だと確信してから数ヶ月が経った。


 この世界がゲームと同じだと確信した理由は明白だ。我が国ガストラ帝国は、侵略予定の地域に区域番号を付けて管理している。現在侵略中のナズリア公国――これは原作のタイムラインから見ても確かに一致している。もはや疑う余地はない。


 そして今、私はセバスに格闘技を教わっていた。


「ネロ様、殴る瞬間に力を込めてください。それと相手の重心を見て動きを予測することが重要です」


「……はー、疲れた。セバスのやつ、スパルタすぎやしないか?」


 汗を拭いながらぼやいていると、父上から呼び出しを受けた。


「最近変わったことはないか?」


 父上の問いに、一瞬、心臓が跳ねる。


「特にありませんが?」


 この質問は何を意図しているのか――前世の記憶があるのがバレたのか?それとも別の理由があるのか?慎重に答えながら、内心で考えを巡らせる。記憶の存在を知られるのは、この世界でのアドバンテージを失うことにつながる。気を張りながら父上の言葉を待つと――


「最近、セバスが『鍛錬や勉学にこれまで以上に励んでいる』と聞いて嬉しく思うぞ」


「は、はあ……」


 杞憂だったようだ。思わず肩の力が抜けた。前世の記憶がバレたなどというのは自分の考えすぎだったらしい。


「最近頑張っている褒美に、何か欲しいものがあれば言ってくれ」


 突然の申し出に、私は少し驚いた。もしかして、この父親は相当に親バカなのではないか?原作でネロが甘やかされた性格だった理由も、これなら納得がいく。


「今のところ欲しいものはないので、欲しいものができたらお願いします」


「そうか。欲しいものができたらすぐに言うんだぞ」


 父上は満足げに頷き、話はそれで終わった。


 父上との会話を終えた後、私はセバスが見守る中で家の騎士と模擬戦をしていた。


 対戦相手は身長190センチほどの大柄な男。私はまだ10歳。リーチの差は歴然だ。しかし、この世界には魔力や気力という力があり、それを駆使すれば年齢や体格の差を覆すことができる。


「勝者、ネロ様!」


 セバスの声が響く。私の木剣が相手の首元に触れていた。


「さすがネロ様。お見事です!」


 首元を押さえながら騎士が称賛の言葉をくれる。しかし、そんな中でもセバスは容赦なく指摘をしてきた。


「坊ちゃん、魔法と気力の技術は及第点です。しかし、攻撃した後の防御に頼りすぎです。次の課題は、攻撃の後にどのように動くべきかを考えることですね」


「……はー、疲れた」



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    高山 @mitsuitoshiaki

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