高山

第1話

 「はーあー」


 「どうしたんだよ、綾乃」


 「どうしたもこうしたも、ゲームを徹夜でクリアしただけだよ」


 「よくやるよ。明日、期末テストだろ。テスト、大丈夫なのかよ」


 「大丈夫、お前とは頭の出来が違うので」


 「そうかそうか。じゃあ、テストの点数で勝負して、負けた方がジュース奢りな」


 「良いだろう。今、ゲーム買って金欠だからありがたい」


 「絶対勝つ」


 二人は互いに挑発しながらも笑い合い、「じゃあまた明日」と別れた。宮城とはクラスが違うので、放課後はそれぞれの教室へ向かうことになる。


 チャイムが鳴り響く。担任の野崎先生は厳しいことで有名だ。この遅刻のタイミングでは確実に怒られるだろう。焦った綾乃は階段を駆け上がった。


 しかし、その途中で――


 足を滑らせた。


 一瞬の浮遊感。そして視界がぐるりと回る。次に感じたのは激しい痛みと――意識が遠のく感覚だった。


 気が付いたとき、私は全く知らない場所にいた。


 「知らない天井だ」


 呟いた私の耳に、少し緊張した声が届いた。


 「大丈夫ですか、ネロ様? 階段から落ちて気を失っていたんです」


 ネロ? ネロって、あのゲーム「Reincarnation Start Over」に出てくる悪役貴族じゃないか?

 混乱しながら横を向くと、執事服に身を包んだ壮年の男が心配そうにこちらを覗き込んでいた。彼の顔にはどこか見覚えがある。


 ――セバスだ。この執事、ゲーム内でネロに仕える元騎士団長じゃないか。


 状況を整理しようと、私はとりあえず安心させるためにこう答えた。


 「大丈夫だ」


 「なら良かったです」

 セバスはほっとした様子で、微笑みを浮かべた。


 「安心しました。ただ、今日は安静にしているようにしてください」


 「セバス、暇なので話し相手になってくれ」


 この世界が本当にゲームと同じなら、ネロというキャラクターの立場や状況を把握する必要がある。そのために質問を始めることにした。


 「セバス、今から質問することに答えてくれ」


 「はい、どんなことでしょう?」


 「我が国は今どこを侵略している?」


 この質問には、ゲームをやり込んでいた私だからこその意図があった。返答次第で、この世界が本当にゲームそのものかどうかを確認できるはずだ。


 「ナズリア公国を侵略中でございます」


 その答えを聞いた瞬間、全てが確信に変わった。


 ――ここは紛うことなき「Reincarnation Start Over」の世界だ。

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