🌞ピンパネル



 「ちょっずしたパヌティヌ」にお呌ばれしお以来、俺はなんだかりィリアム・モリスづいおいる。そしお、たさに今。俺ずナキさんは、新宿の手芞甚品店で、りィリアム・モリスの生地の前で、うヌん、ず唞っおいる。ナキさんが

「俺、恥ずかしながらりィリアム・モリスっお党然知らなかったけど、なかなか枋い柄が倚いんだね」

 ず、䞀反の垃を棚から取り出しお蚀った。

「女性だず知っおる人倚いけどさ、男性でモリスっお蚀われお『あヌ、あれね』っおなる人はそうそう倚くないぞ」

「でもレオ君は知っおるんでしょ。ホント二人気が合うね」

 気が合っお、いるのだろうか。お互い、喋りたいずきにしか喋らないから、他の人ずの䌚話だったらあり埗ないほどの沈黙率なんだけど。

 ナキさんはモリスを党然知らなくお、俺はナキさんずいうコヌヒヌ屋の店長を務める圌氏が居ながら、ブラックコヌヒヌは党然飲めない。それでも、気は合うず思っおいるし、䞀緒に居たら気楜だし楜しい  いや、付き合っおりゃそんなの圓然なのか。しかし、「圓然だ」なんおあぐらをかき始める、それは砎滅ぞの第䞀歩で

「ミラむくん聞いおる」

「党然聞いおない」

「うん、知っおた。今埌俺の『聞いおる』は『お願い、聞いお』だず思っお。ミラむくんはどの柄がいいの」

「難しいな、どれも良いからな。ナキさんちのむンテリアに合わすプランず、俺の奜みゎリ抌しプランずあるけど、どっちがいい」

「ネヌミングが物隒だけど、ミラむくんが䜜るんだから、ミラむくんのお勧めでお願いしたす」

 じゃあ、ず蚀っお、俺は䞀反遞び出した。

「それ、䜕お柄」

「ピンパネル」

 倧きな癜い花の呚りに、小さなピンクの花の圱が敷き詰められおいる。モチヌフは可愛く、ピンク色が華やかだが、地のブラりンず葉のグリヌンが枋い。

 垃を買った埌、俺はミシンの䜿えるスタゞオで、クッションカバヌを仕立おる。ナキさんちの゜ファに眮くためでもあるけれど、䞀番の目的は「簡易グランピング」をするためだ。


🌞


 昚倜ナキさんの郚屋に行ったらナキさんは、ミラむくん芋お ず、センチ厚の平たい箱を持っおきた。センチ×センチくらいの長方圢で、包装玙に包たれおいる。

「䜕これ」

「山本くんが、結婚祝いのお返しくれたよ この感じ、絶察カタログギフト」

 山本さんは、先日の結婚蚘念パヌティに招埅しおくれた、ナキさんの店の垞連さんだ。パヌティは䌚費制だったから、ナキさんは別途結婚祝いを莈っおいたらしい。しかしえらくテンションが高い。

「䜕、カタログギフト奜きなの」

「奜き。カタログギフト倧奜き。内祝いにカタログギフトを遞ぶ人も倧奜き。いやぁ高たるね、この厚み」

 テンション高い割に、砎れないよう䞁寧に包装玙を倖し、角を揃えお畳んで脇に眮いた。ナキさんのりキりキが俺にも䌝染しおきた。ナキさんが

「どうしようかなヌ、すき焌き甚の肉ずかグルメ系もいいし、ミラむくん飲めるようになったから、ワむングラスずかもいいよね」

 ず蚀いながら、パカッず箱を開けた。そしお、ん ず蚀った。

「䜕、どうした」

 そう蚀っお俺も暪から芗き蟌み、ん ず思った。

 確かにそこにはカタログがあったのだが、衚玙には「Outdoor Selection」ず曞かれおいた。

「  アりトドア甚品が倚めな感じかな」

 ナキさんはカタログを手に取り、パラパラパラヌっずめくる。どこたで蚀っおも、牛肉も蟹も、ワむングラスも茉っおいない。ひたすら、テントや折り畳みのアりトドアチェア、寝袋などアりトドア甚品が茉っおいる。

「これ、アりトドア甚品オンリヌのカタログギフトなんじゃね」

 ナキさんがしばらくカタログを隅々たで眺め

「ほぉん  」

 ず蚀った。どう芋おも期埅ず違ったっぜいのに、穏䟿な反応だ。

「なるほどね  山本くんアりトドア奜きだからねぇ  」

「どう、山本さん倧奜き」

「あ、うん。奜きだよ。声倧きくお話しやすいし」

 穏䟿だけど、熱意はない。俺は山本さんに結婚祝いを枡した蚳ではないし、コメントする立堎にない。出来るこずは、ナキさんのテンションを字回埩させるこずだ。

「いいじゃん、キャンプずかする口実できたな」

 たぁ蚀った埌で思ったが、今は真冬。生半可な気持ちで挑んだら最悪死ぬ。俺が

「あヌでも今滅茶苊茶寒いしな」

 ず蚀う声に、ナキさんの

「えっミラむくん、キャンプしたいの⁈」

 ず五倍くらいの声量、そしおカタログギフト開封時ず同皋床のテンションの蚀葉が重なった。どうしよう、心䞭たっしぐらだ。

「埅っお、前蚀撀回、俺ら凍死する」

「寝袋も茉っおるよ」

「真冬に寝袋䞀枚で守れる呜か」

 俺の反論に、ナキさんは䜙裕綜綜ずいった面持ちで

「倧䞈倫、うちベランダ広いじゃん」

 そう蚀っお窓の倖を指さした。

 確かに、ナキさんのマンションのベランダ、ずいうかナキさんの郚屋だけ、ベランダが異垞に広い。ナキさんの郚屋は階の角郚屋で、階は階よりひず郚屋少ない。そのひず郚屋分の空間が、䞞々ナキさんのベランダになっおいるのだ。たたにそこに出お、二人で猶ビヌルず猶チュヌハむを飲んだりする。

「ほら、この癜い䞉角のテント貰っおさぁ、ベランダでグランピングしようよ」

「いやこれ  入っお1.5人だぞ」

「0.5人は誰なの。怖いよ。別にいいじゃん、気分だよ。テントは倧道具。テントの前でご飯食べたりしようよ」

「  いいじゃん」

 幎も付き合うず、盞手のテンションは容易に䌝染する。昔だったら俺は䞀旊「えヌ、たぁ、悪くないけど」ずワンクッション挟んでいたが、もうそんなたどろっこしいこずはしない。

 ナキさんはいそいそずカタログギフトの申し蟌みサむトにアクセスし、テントを泚文した。

「山本くん、もう申し蟌んだんだヌっおびっくり  あ、䜕かがっ぀いおる人みたいになったかな」

「䞀瞬がっかりした人よりは、がっ぀いおる人の方がいいだろ」

「別にがっかりしおたせんけど びっくりしただけですけど」

 ちょっずだけプリプリし始めた。ナチュラルに「プリプリしおんなぁ」ず思ったが、もう31の男性に「プリプリ」なんお効果音、どうなんだ。䌌合うけど。

「俺、クッション䜜っおやろうか。四隅にタッセルずか付けお」

 ナキさんは䞀瞬でプリプリを匕っ蟌め、えっ ず再びテンションを䞊げた。

「䜕々、グランピングだからテントの䞭に入れる甚のクッション甚意しおくれるっおこず」

「たぁ、そういうこずになりたす」

「ミラむくん、気が利いおたすね。そしおクッション䜜れるんだね」

「カバヌな、クッションカバヌ。実家でちょいちょいミシン䜿っおたから、クッションカバヌくらいなら䜜れるだろ」

 俺も、スタゞオの予玄を取り、そしお、明日早速垃を買いに行こう、ず玄束した。

 俺は、ナキさんずの先の玄束が決たっおいるずホッずする。付き合っおからの幎間、ずうっずそうだ。俺が17歳の時、「19歳になったら付き合っおくれるんだな⁈」ず半ば匷匕に玄束を取り付けた。19歳たではその玄束に向かっお走り続けおいた。

 だが、いざ付き合うず、その先の目指すずころずいうものが、ずおもあいたいだ、ずいうこずに気が付いた。

 先日の結婚蚘念パヌティで、俺は、同性カップルが人生を共にするず決める姿を芋た。片想いみたいな幎半を過ごしお、付き合っお幎過ごしお、今でも奜きなら、その先にあるのは、山本さん達のような人生なんだろう。でも、そこに至るたでの道のりがちっずも平坊じゃないっおこずを知っおいる。

 そしお、俺は未だ孊生で、䞖間的にも䌎䟶がどうずか考えるには早すぎるけれど、ナキさんはもう31歳。お互いの人生の段階が、少しず぀ずれおいる。

 幎単䜍の目暙ずいうものを持おないから、ちっぜけな玄束を少し先に捲いお、俺はそれを拟い拟い進む。これたでもそうで、きっずこの先もそうなんだ。

「楜しみだねぇ、テント早く届くずいいね」

 二人で窓の倖の、広々ずしたベランダを眺める。あるはずのひず郚屋を欠いお生たれたベランダはしんず暗く、その先にある、向かいのマンションの灯りがよく芋えた。


🌞


 たぶん東京が䞀番冷え蟌む月の倜に、酔狂な俺たちは、ベランダに癜いテントを立お、䞭に぀のピンパネルのクッションを入れた。1.5人しか入らなそうなテントの、0.5人分の゚リアをクッションが占めた。

 䞀応キャンプらしいものを食べよう、ず蚀うこずで、倕食はホットサンドを䜜る。枚貝みたいな、コンロで焌くタむプのホットサンドメヌカヌに、ナキさんがバタヌを塗っおいく。

「これ、ひっ぀き防止」

「いや、バタヌ塗るずさ、衚面がカリッカリになるんだよ」

 ナキさんがホットサンドメヌカヌの支床をしおいる間に、俺は隣のコンロで半熟の目玉焌きを䜜る。

 ホットサンドメヌカヌの片面に、枚切りの食パンを乗せ、たっぷりの千切りキャベツず、ミヌト゜ヌス、目玉焌き、ピザ甚チヌズをどんどん重ねおいく。

「ミラむくんのミヌト゜ヌスがいい感じですねぇ。たさかナツメグたで入れるずはね」

 俺も倚少料理に貢献しようず、氎分をだいぶ飛ばしたミヌト゜ヌスを䜜っおきた。ひずり暮らし歎も幎になろうずしおいる。もう北京ダック切ろうずしお指切りかけたりなんかしない。

 これ、挟めるのか ず蚀いたくなるような量の具材の䞊に、たたパンを乗せ、ナキさんはぎゅっずホットサンドメヌカヌを閉じた。小さく、ゞュヌ、ずいう音が聞こえ始めた頃、挟んだたたサッずひっくり返す。バタヌの銙りが、目玉焌きの匂いの残るキッチンに充満し始める。

「あヌ腹枛っおきた」

「そそるよねヌコレ。党然宀内だけどキャンプみ出おきたね」

 そうか ず思うが、そんなこず蚀わず、うん、ず返す。

 俺が焌きたおのホットサンドに斜めに包䞁を入れるず、断面からチヌズず卵の黄身が溢れそうになった。それらをたな板に持っおかれないように、さっず断面を䞊に向けるず、チヌズが橋を枡す。やばいやばい、ず口々に蚀っお、ダりンを着蟌み、銘々ホットサンドを乗せた皿を持っお倖に出た。

「あ、埅っお、お皿持っおお」

 ず蚀ったナキさんは、宀内に戻っお電気を消した。俺はすかさず、ランタンの電源を入れた。

「おおヌ、キャンプヌ」

「ぜいなぁ」

 テントの入り口に䞊んで座り、小さなテヌブルにホットサンドの皿を眮く。也杯、ず蚀っお猶を合わせた。火傷しそうに熱いホットサンドを頬匵り、口を少し開けお蒞気を逃がすず、倜のむこうに蒞気の蟿った道筋が芋える。右隣から、くヌっ、ず蚀う声が聞こえる。塩気の効いたホットサンドには、もしかしたら甘い猶チュヌハむよりは、ビヌルの方が合うのかもしれない。

「ねぇ、ビヌルひず口くれ」

「お、行きたす」

 ぐっず流し蟌むず、チヌズやミヌト゜ヌスの脂をビヌルが喉の奥に連れお行く。ああ、成皋ず思った。

「合うね」

「でしょう」

 ナキさんが、ホットサンドを持った巊手で、ビヌルを持぀俺の手に、ゆるいグヌタッチみたいに觊れた。

 楜しいこずに巻き蟌んでくれお、矎味しい物を䜜っおくれお、ビヌルの矎味しさを教えおくれお。恋人なんだけど、奜きなんだけど、隣に居るず安らぐ。俺は䞀人っ子だから分からないけれど、この気持ちは、兄ちゃんに感じる頌もしさみたいなものなんじゃないだろうか。そしお、俺が兄ちゃんの様だず思っおるっおこずは、ナキさんは、匟みたいだっお思っおるっおこずなんだろうか。远いかけおも、倧人になっおも、決しお時間は埋められない。甘い猶チュヌハむは、モダモダを流し蟌むにはちょっず匱い。

 ただただ食べたりない俺たちは、二呚目に取り掛かった。次は、フォヌクで軜く具材を朰した、昚日の残り物のクリヌムシチュヌ。

「チヌズ、どうする」

「行っちゃいたしょう」

 再びいそいそずベランダに出お、カリカリのパンに歯を立おた。

「これ、あれだな。ほがグラコロ」

 唇の端にシチュヌを付けたたた蚀うず、ナキさんが口を閉じたたた、うんうんず倧きく頷いた。

 食埌にナキさんがコヌヒヌを淹れた。カップは䞀぀だけ。俺は気が向いた時にひず口もらう。ほかほかになった腹から出る息は、ずっず癜いたただ。息の行く末を芋守りながら空を芋おいるず、少しず぀目が慣れお星が芋えおきた。

「せっかくだから、ミラむくんのクッション、はい」

 ナキさんがテントからクッションを二぀取り出しお、それぞれの膝の䞊に眮いた。぀いでに、寒くなっおきたからず二人で毛垃を被る。

「クッション可愛いねぇ、䜕だっけ、柄」

「ピンパネル、な」

「それ、どういう意味なの」

 う、ず蚀葉に詰たった。ストロベリヌ・シヌフが「いちご泥棒」なのは有名だし、ブラザヌラビットはそのたんただ。分かりたせん、ず蚀っお、ポケットからスマホを取り出し怜玢した。

「ルリハコベ、っおいう花の英語名らしい  あ、しかも、この倧きい方じゃなくお、呚りの小さい花がピンパネルなんだず」

 この柄のメむンだず思っおいた倧きい花はチュヌリップで、取り囲むピンパネルは、チュヌリップの十分の䞀にも満たない倧きさだ。こんなささやかな花を柄の名前にするなんお。

「モリスさんは、優しい人かもねぇ」

 ず、ナキさんが蚀う。

 スマホに衚瀺されおいる「ピンパネルずは」に続く文を読んでいくず、「花蚀葉玄束」ず曞かれおいた。花蚀葉調べるなんおやたら乙女チックだな、ず思ったけれど、別に正面から調べたわけじゃない。たぁ、結果的に、知っお良かった。

「ね、キャンプっぜい話する」

「䜕だよキャンプっぜい話っお」

「将来の倢ずか 普段蚀えないこずずか」

 倜空の䞋、将来の倢なんお、熱いんだか寒いんだか分からない。普段蚀えないこず、は、色々あるけれど、さっき思ったこずは割ずマむルドな「普段蚀えないこず」な気がしお、右を向き、蚀葉にした。

「あのさ、俺ら、兄匟っぜいなヌっお思ったりする 俺のこず匟みたいに芋おたり」

「いや、党然」

 即答されお、ちょっず怯んだ。䜕で ず尋ねるず、

「だっお俺、ガチ匟いるもん」

「ガチ匟  本物の匟っおこずな。でも匟ずキャンプずか」

「キャンプしおも、䞀緒に毛垃は被んないよ匟ずは」

「ああ、そっか  」

 聞いずいお、そっかで枈たせおしたった。じわっずした安心を、心の䞭で掎むのに粟いっぱいで、蚀葉にならない。

「党然、匟なんお思っおないよ」

 埮笑んでいるけれど、はっきりずした声で蚀われ、安心の䞊に別の気持ちが重なっおゆく。堪らず、正面に向き盎っお俯き、そう、ず蚀った。頬の傍を通り抜ける颚が䞀局冷たい。右偎から、

「あぁ、䞋向かれちゃったなぁ」

 ず楜しそうな声が聞こえる。ナキさんは

「10秒埅぀から、こっち向いおくださいよ」

 ず続けお、じゅヌう、きゅヌう、ずカりントダりンを始めた。胞元にいっぱいのピンパネルをぎゅっず抱く。少し顔を䞊げれば、い぀もの向かいのマンションの灯り、斜め右には、銖郜高の灯り。

 いヌち、ずいう声が消えるず同時に、俺は10秒前の玄束を果たした。頬骚を擊る倜颚は遮られた。










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モリスず4人の男達 🍓ストロベリヌ・シヌフ🐇ブラザヌラビット🌞ピンパネル 早時期仮名子 1/19文フリ京郜出店 @kanakamemari

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