第8話 強制マッチング

「柊木くん。千歳さんと随分仲良さそうだったね?」


 昼休み。一緒に弁当を食べていると、姫川からそんなことを言われた。結局、できるだけ一緒に行動してほしいという約束は、未だに続いている。


「あぁ。千歳さん、高嶺の花って感じで怖いのかと思ってたけど、意外にフレンドリーな人でさ」


「そう。じゃあ付き合っちゃえば? どうせ、『俺の前でなら好きなだけ泣いていい』発言も、色んな人に言ってるんでしょ?」


 誰にでもそんなこと言う奴、そうそういないだろ。俺がどんなキザ男に見えているんだよ。


「まさか姫川さん、嫉妬してるのか?」


「嫉妬? 身の程を弁えなさい?」


 若干オーバーキルモードになった姫川さんに叱られ、俺の浮かれた頭は冷静になった。そこで千歳との会話内容を話してみると、姫川は苦い顔をした。


「マジで信じてる?」


「やっぱそんなうまい話ないよなぁ」


「陰キャにも優しい女ですアピールに決まってるじゃん! 騙されちゃダメだよ?」


 はっきり陰キャと言われると地味に傷つくな。


「でも、そこまでするか?」


「あのねぇ、私たちは勝手に『三美神』なんて呼ばれて、周囲からの期待に迷惑してるの。高嶺の花扱いされるからには、それに相応しい振る舞いをしなきゃいけないってね」


 姫川の口の悪さは、『三美神』に相応しいものとはとても思えない。それでも、人知れず気苦労が絶えないのだろう。


「まさか、優しさアピールのために、俺に彼女をあてがおうとしているのか? いくらなんでもやりすぎじゃないか?」


「それくらいやらかねないと、私は見た! というか、いきなりマッチングさせられる相手の女子も可哀想だね」


 そうだよな。俺みたいな陰キャをあてがわれて、なんて不憫な女子なんだ。


「まぁ、そう言う雰囲気になったら断るよ」


「どうかな? 柊木くんは真面目一辺倒だけど、彼女ができるとなったら弱そう」


 意外と信頼ないんだな。ここは気を確かに持たねば。

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