第4話 誠実すぎる二人

「ごめんなさい、言い過ぎた」


 俺が圧倒されていると、姫川はすんなり謝ってきた。


「いや、姫川の言うことはもっともだ。俺は、嫌味な連中と戦うのが怖くて、勝手に見下していたのかもしれない。考えを改めるよ」


「いや、でも、柊木くんの言うことにも一理あると思うな。高校生にもなって、幼稚園児とガチ喧嘩する人もいないし」


 確かに、悪口を言ってくる連中なんて幼稚園児レベルと見下し、割りきった方が良い。そんな奴らとガチでやり合うなんて、大人げないしバカげている。


 だが、曲がりなりにも、奴らは同世代の人間なのだ。それなりの誠実さを以て対峙するのが筋というものだろう。


「そうだが……でも人間、ぶつかり合って、傷つき傷つけ合いながら成長していくものだとも思うし」


「柊木くんの信念に迷いが出てる……! 意外と芯がブレやすい性格なの?」


 姫川はそんなことを言って茶化してみせた。場の雰囲気のことも考えられる奴なんだな。


「ブレやすいっていうか、フレキシブルだと言ってくれ。俺にも思うところがあったんだよ」


「どうだか。私とぶつかり合いたくなくて、物分かりの良いふりしてるんじゃないの?」


 俺がそこまで平和主義者に見えるのか。


「それはないよ」


 俺はきっぱりと言っておいた。


「理解できない考え方に賛同したりはしない。分からないことは分からないと言う。それが、俺の考える誠実さの一つだ」


 姫川は安心したような顔で頷いた。


「良かった。適当に流さないでいてくれて。案外私たち、似た者同士なのかもね。真面目すぎて、いい加減なコミュニケーションが取れないのかも。通りで友達いないわけね」


「確かに。根っこは一緒なのかもな」


 俺はくそ真面目すぎて敬遠され、姫川は誠実すぎる体当たりコミュニケーションで敬遠されている。


「じゃあ不器用同士ってとで、これからもよろしく」


「あぁ、よろしく」


 握手を求めてきた姫川の手を、俺は強く握り返した。

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