第36話 お膳立てはしたぞ、アサミ!
落下するメテオ型と、砲丸となって突き進むヴェス・パーとの間の距離はみるみるうちに狭まる。
メテオ型を包む炎も、速度が抑えられたせいか消えつつある。
コアは必ず胴体にある。
勢いをつけて胴体部分を貫いてやれば、コアも破壊できるはずだ。
しかし、敵がこちらを察知した。
羽根の部分が蠢き、触手となって俺に襲い掛かってくる。
さっきのミサイル攻撃もこの触手で打ち落としたわけだ。
「このっ!」
ジェットパックを操作して何とか方向転換はできるが、大きく回避できるわけではない。
あまりにも軌道を変えると、弾丸としての威力を殺してしまう。
ヴェス・パーに触手が群がる。
機体の各部が抉られる。
アラート音が鳴り響き損傷率が跳ね上がっていく。
更に攻撃を受けることで推力が減衰していく。
このままでは貫くだけの加速エネルギーが確保できない。
俺は様々な方向から襲い来る触手を回避しながら、腕を引き絞り、
推進力が出せないなら落下前に取り付くまでだ!
「届けぇ!」
空中で右腕がぐんぐんと伸びて、手刀がネフィリムに突き刺さんと迫る。
だが、手刀は触手の群れに弾かれた。くそ!
モニターに赤い表示が出る。ジェットパックが限界を迎えていた。
爆音と共にガクンと揺れて、急激に高度が下がる。
リミッターを解除して酷使したから、限界が来てしまった。
「ここまで来て……!」
このまま触手に貫かれるか、押しつぶされて終わる。
もう手遅れなのか――そう思った瞬間。
『まだです!』
下から押し上げるような衝撃があった。
俺はモニターで足下を確認する。
マリアが乗っていたVTOLが、ヴェス・パーを押し上げながら上昇していた。
そうか、VTOLは垂直離着陸機。上昇する推進力を出せる。
だがレイン・キグバスの攻撃で、エンジン部が損傷していたはずだ。
想像通り、VTOLの翼端から黒煙が上がっていた。
「マリア!? やめろ! お前の方が爆発するぞ!」
『いいえ、あなたを届けます!』
ヴェス・パーは再びネフィリムと接近していく。
触手の群れが襲ってきたが、俺は必死に延伸攻撃や変性攻撃で触手を弾いていく。
そして、俺が伸ばしたヴェス・パーの腕が、メテオ型の胴体に突きささった。
『行ってください! デュラン様!』
マリアが叫ぶ。
俺は即座に共振を発動。
触手の動きが目に見えて鈍った。
伸ばした腕の筋肉を急激に縮小させることでネフィリムに急接近する。
俺の足下では、黒煙を上げたVTOLが旋回しながら落下していった。
『デュラン様――お役にたて――よか――』
マリアからノイズ混じりの通信が入る。
数秒後の彼女の姿が脳裏をよぎる。
後ろを振り返りたい。助けに行きたい。
だが、それはできない。
「ああああああああああ!」
俺は張り裂けんばかりに咆哮した。
肉薄した胴体部に、円錐状に変性させた右手を突き刺す。
その右手の尖端から回転させ、掘削機のようにして巨体の内部を穿っていく。
この技はシンヨウが編み出したものだ。借りるぞ、主人公!
速度を乗せたドリルによって胴体を掘り進み、反対側まで突き破る。
敵の背面に出て、真っ青な空が映し出された。
振り返る。空に放り出されたヴェス・パーめがけて、触手が一斉に向かってきた。
まだ動いてやがる。
(コアに当たらなかったか……!?)
アテが外れた。胴体が大きすぎてコアの位置からズレてしまったか。
共振で止めようにも、腕はもう離れてしまっている。
絶体絶命――そんな中、視界の端に赤い軌跡が見えた。
思わず、笑みが浮かんでくる。
「――お膳立てはしたぞ、アサミ!」
上空から垂直落下してきたサンナイト・ミッドが俺の前を通り過ぎる。
爪先が
ジェットパックを反対向きにして推力を上げたサンナイト・ミッドが、そのままメテオ型の胴体へと衝突した。
この攻撃こそ、原作でシンヨウがやってのけた方法だ。
『でぇりゃあああああああああ!』
裂帛の声と共にサンナイト・ミッドの跳び蹴りがメテオ型の胴体を貫き、勢いそのままに飛び出ていく。
赤い機体は垂直落下して地面へと激突し、砂漠の束が舞った。
地表まで到達する寸前だったメテオ型は、ボコボコと身体が膨れあがり爆発四散する。
地面直前だっただけに、爆発の余波を思い切り受けた砂漠が凄まじい勢いで抉れ、粉塵が雲のように舞い上がる。
クレーターができていたが、砂埃混じりながらも赤い機体が見えた。
アサミは無事だ。ネフィリムは居ない。
俺達の勝利だった。
(――マリアは!?)
余韻に浸る間もなく、俺は空中を落下しながらVTOLが落ちていった場所を確認する。
そこにVTOLの残骸は――無かった。
青い機体がVTOLを抱きかかえていた。
VTOLはかなりボロボロだが爆発することなく、まだ原型を保っている。
『少佐、オフェリウス艦長はご無事です』
「イリエス……! マリア……!」
『少佐、呼び捨ては軍規で禁じられています。厳重注意で済むかもしれませんが、あなたの経歴に傷が付く恐れがあります』
相変わらずのツッコミに俺は笑ってしまう。
良かった、マリアが無事で。あの絶妙な援護がなければ敗北していたかもしれないが、彼女を犠牲にして勝ったところで何も嬉しくはない。
と、喜んでいる場合じゃなかった。こっちも落下しているんだった。
俺は思念を送り、人工筋肉を両足に100%送る。
ヴェス・パーの脚部がボコリと盛り上がり、上半身が急速に痩せ細る。
そのまま落下して、砂の大地に着地する。砂塵が舞い上がる。
凄まじい振動が襲いアラート音がけたたましく鳴るが、ヴェス・パーは落下の衝撃に耐えきった。
とはいえ立っていられず、そのまま仰向けに倒れる。
モニターに映し出される晴天は、どこまでも広く晴れ晴れとしていた。
それを見ていると、段々とムカついてきた。
「……マリア。聞こえているか」
『はい、なんでしょう』
「帰ったら説教だ」
『!?!? なぜ!? 私はなにか間違いをしでかしていたでしょうか!?』
本気で分かっていない彼女の声に、俺は苦笑いする。
自分の命を粗末にするな、なんて当たり前のことを伝えるのにも、随分と苦労しそうだ。
※書き溜めに入りますので、次回更新は1ヶ月後くらい空きます。よろしくお願いいたします。
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天牢のマギ・ログリス~前世の記憶を持つライバル、主人公がいないアニメ世界を救うため暗躍する~ 伊乙式(いおしき) @iotu_shiki
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