第3話 部活辞めた!

 先輩に振られてから一週間後の放課後、私は部活を辞めた。

 失恋において悲しみの次には怒りが来るとはよく言ったものである。最初の数日は先輩の顔を見ると軽く胸が痛んだり、二人きりにならないように気を遣ったりもしていたのだが、山本君の証言を思い出すにつれて「私が傷つくのはおかしくないか?」「何でそんな奴のために気をつけてあげないといけないのか」なんて段々と怒りが湧いてきた。なので部活にそう真剣に打ち込んでいたわけでもないし、すっぱりと退部してしまった。

 退部するまでは何だか逃げるようで不安もあったが、いざ退部してしまったら気分が晴れ晴れとしてとても爽快だった。青空の下、私は大きく息を吸い込んでぐいっと伸びをしてみた。


「何しゆうが?」

「んーーー!って山本くん。帰るとこ?」

「おん。おまん部活行かんでええがか?」

「辞めた!」

「は?」


 唖然としている山本くんを尻目に私はやってやったぜという気持ちを込めてもう一度言った。


「部活辞めたーーー!」

「だああ!分かったきでかい声だしな!……あん先輩のことか?」

「うん、もう気を遣ったりするのが面倒くさくって!」

「そう言うたちおまんが辞めることは…部活、よかったがか?」


 部活を辞めて後悔していないかということだろう。確かに友達もいたし、部活は楽しかった。でも行くたびに嫌な気分になるのはごめんだし、後悔は全くない。


「うん!そんなに打ち込んでたわけじゃないし、放課後遊んだりできるって考えたらむしろラッキーみたいな?」


 明るく言うとやっと山本くんはほっとしたような表情になり………、何だか奥歯にものが挟まったような、百面相をし始めた。


「??山本くん?どうしたの?」

「………いやその」

「?」

「……おまん…部活やめたがよな?」

「そう言ったよ?」

「…放課後暇ながか?」

「うん」


 そう答えたあと、彼はたっぷり十秒は悩んだあと覚悟を決めた顔をして言った。見た事はないが、戦に赴く武将の顔のようだった。


「わしと遊ばんか?」

「え?いいよ」


 何の予定もないのでオッケーを出すと山本くんがひざにてをついて大きく息を吐き出した。


「ーーーっはー!おまん、もうちいと悩むとかしいや…、こっちがどればあ緊張しちゅうと…」

「え?何で?」

「……はぁ、もうえい。で、どこへ行く?」

「んー駅前でぶらぶらしよう!本屋とか雑貨屋とか寄りたい!それでいい?」

「ええよ。本屋はわしも好きやき」


 そう言って私達は駅前へ行き、まず大きな本屋へ向かった。


(山本くん真面目そうだから赤本とか参考書のあるところに行くのかな?)


 ひっそりとそう思っていたが、意外にも二人の行くところはほぼ同じ場所だった。私はライトノベルや漫画のある区画、彼はその隣にある文庫本や単行本が置いてある小説の棚で足を止めた。

 じーっと二人して顔を見合わせる。何となく、相手も私と同じことを思っているのが分かった。


「井上(私の苗字である)は、参考書を買いにきたがやと思うちょった」

「私も山本くんは赤本とか買いにきたんだと思ってたよ…」


 二人でふふふと小さく笑うと、私は山本くんが足を止めた小説のコーナーに行った。


「山本くんも本読むんだね、一緒に見て回ろうよ」

「ええよ。井上はどんなん読むが?」

「今はライトノベルとか漫画とかが多いかな。中学の時は海外の児童文学とかいっぱい読んだよ」

「そいたらわしと一緒じゃな。わしは今はコナン・ドイルの小説を読みゆうけんど、中学の時はナルニア国物語とか海外の児童文学が多かった」


 山本くんはそう言ってシャーロック・ホームズの文庫を手に取ってパラパラとめくった。巻数を見る限り、結構読み進めている。


「ホームズは緋色の研究しか読んだことないなー。久しぶりに読んでみようかな」

「それやったらわしの家にあるき貸しちゃろうか?」

「え?いいの?」

「買うがは大変やろう。」

「ありがとう!」


 一頻り本屋を回った後、私たちは喫茶店に入って今まで読んだ本の感想を語りったり、おすすめの本を教えあったりした。私はとても楽しくて、山本君も笑っていて、後から考えれば、今まで誰かと出かけたどんな時よりも楽しかった。

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山本君といっしょ @sabure2

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