第23話 勧誘
どうやら【アストリス】のリーダーは、私をパーティに誘いたいらしい。
Sランクパーティからお誘いとか、どんな冗談だよと思うが、しかしメンバーに突き出されて観念したような表情を浮かべる日乃宮ハルカを見れば、私も流石に本気だと解る。
「………まずは、私を誘いたいと思った理由を知りたいかな」
「それは、もちろんです」
ハルカも当然と頷く。
迷宮探索は命懸けだ。だからこそ探索者達はパーティを組み、連携を高め、お互いの弱点を補い合ってダンジョンに挑む。
パーティ編成とは自分たちの切り札であり生命線なのだ。
だからこそ、増やすにしろ減らすにしろ、自分たちのパーティ編成を変更するのはかなりの大ごとだ。
それ相応の理由が必要になる。
「アリカさんは、私たち【アストリス】が何を目的にダンジョンへ潜っているかご存じですか?」
「たしか、迷宮の完全攻略だっけ?」
「はい、そのとおりです」
うろ覚えだったアストリスの活動目標に、ハルカが頷く。
ダンジョンとは人類にとって不可思議の存在だ。解っていることは突如として出現すること、内部には一定の資源や宝物が存在する事。
迷宮から採取可能な資源は、有用な既存資源から未知の物質、あるいは攻略報酬まで多岐に渡る。もはや国家の運営でも重要な位置付けにあると言われているほどにその存在は大きい。
「ただし、ダンジョンには無視できないデメリットが存在します」
「
迷宮に潜むモンスター群、その大氾濫現象。
ダンジョン内部の環境変化、モンスターの突然変異等、理由は様々だが迷宮から地上へ現われるモンスターによる人類圏の破壊と浸食。
その結果は悲惨の一言だ。
「一度起きれば国すら滅ぼしえる大災害。防ぐ手段は一つしかありません」
「だから完全攻略なんだね」
迷宮の最深部には【
ソレを破壊すれば、ダンジョンは消滅すると言われている。ダンジョンがなくなればスタンピードなんてものは起こり得ないというわけだ。
「ん? という事はアストリスが攻略してる迷宮って………」
「はい、墓標迷宮は厄災が起きる可能性が高いと思われます」
「ひえっ」
「もともと千年規模のダンジョンですから、十分にあり得る話ではあるんです。少なくとも日乃宮家と土御門家の専門家はそう判断しています」
おもむろにファイルで渡される資料。
強調されているのは、いつスタンピードが起きてもおかしくないとの旨。
見れば迷宮内部の大気魔力、モンスターの凶暴化などが丁寧に年数ごとに並べられ、年を追うごとに数字の悪化が見られる。素人に判断は難しいが、ここで英雄血統の日乃宮家、五大名家の土御門家の名前が出てくるのなら、まあほぼ確定なんだろう。
だが、だとすると腑に落ちない事がある。
「極東探索者協会って、そんな事を言ってたっけ?」
「いえ、厄災の兆候なしと判断しています」
「ええ、なんで………?」
「いろいろ理由はありますが、資源採掘を主導する極東探索者協会としては、好ましくない内容でしたから」
情報握り潰してるってか。
真っ黒じゃねぇか。
たしかに極東探索者協会は、利権やらなんやらで暗い噂がちらほらあるらしい。急に胡散臭い話になってきたな。
「ですが、今のところ表立って妨害はありません。可能であればこの間にダンジョンを攻略したいのですが――――――」
「探索を見直す必要が出てきた、と」
「はい………」
アストリスの配信事故、および日乃宮ハルカの負傷。ともすれば全滅もありえた最悪の事件。
「たしか、現場は最前線だったよね?」
「はい、アリカさんと出会ったのは中層ですが」
現在、墓標迷宮は第六層まで攻略済み。
最前線は第七層だ。墓標迷宮は千年前から続くダンジョン。その特徴は下層に潜るほどに難度が上がる階層形式であること。
第七層はAランク難度と言われているが、アストリスが一度敗北をしていることを踏まえると、さらに上もあり得るだろう。
少なくと一度壊滅している以上、アストリスは別のアプローチが必要だ。
それが戦力確保。
そのためのパーティ勧誘というわけだ。
「戦力なら、他のパーティと
「考えましたが、なるべく外部が関わる要素を減らしたくて。………探索者協会の件もありますし」
「ああ………」
組んだパーティが協会の息の手がかかっている可能性か。たしかに十分にあり得る話だ。 たしかに迷宮の完全攻略は協会が望まないものである以上、その可能性は捨てきれない。
「助けてくれたアリカさんなら、信用できますから」
「なるほどね、大体わかったよ」
こちらを窺う白銀の少女を見つめる。
アストリスの目的はダンジョンの攻略。そのために必要なモノは大きく3つ。
最前線である第七層でも十分に戦える戦力。
次に下層の知識だろう。
最後に信用できるかどうか。
まあ確かに私なら、三つの条件に当てはまっている。
下層のモンスターでも基本的に一撃で倒せる力があって、下層を活動圏にしているのである程度地理にも詳しい。おまけに最後に無名のぼっち底ランク探索者なので協会の息が掛かっている心配がない。
なんだこいつ、都合よすぎるだろ。
アストリスのメンバーになるために生まれてきたとしか思えない存在である。
悩む。
他の人間なら間違いなくイエスと言っているだろう。
悩むが仕方ない。
意を決して、日乃宮ハルカにはっきりと答える。
「ごめん、パーティ組むのは無理だとおもう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます