第20話 ぼっちVS炎の貴公子⑤





 一切を焼却する斬滅の剣が振り下ろされる。間合いに入っただけで身を焼く熱量、その元凶たる炎の刃を迎え入れる。


 私がしたのはそれだけだ。



 観客席が静まり返っていた。



 あれほど騒がしかった、野次馬も黙り込み、目の前の結果をただ茫然と眺めている。


 じゅうじゅうと、度を越した炎熱が私の肉と骨を焼く音だけが響いていた。


 炎剣の一撃は私を捕らえた。


 だが


「――――――捕えたよ」

「………冗談だと言ってくれ」


 火崎が剣を押し込みながら、引き攣った笑い声を上げる。

 

 ぎちぎちと私の両手に挟まれ、炎剣が悲鳴を上げる。


 あらゆる魔物を一撃で両断する【紅蓮剣】の威力は本物だった。私の肉を消し飛ばし、骨を焼き、私の制服をほぼ焼き払っていた。


 だが、それでも私の身体を両断することはなく。純然たる事実として寸前で止まっている。


 

 【真剣白刃取りエッジ・キャッチ

 


 普通の人間がこれをすれば炎熱で両手が爆散して失敗していただろう。


 だが、私は【癒術師ヒーラー】だ。

 炎で焼かれた全身を焼かれたそばから修復すれば、私の肉体強度込みで受けられないこともない。


「止めたぁああああ!?」

「焼かれたそばから治してるのかコレ?」

「受け方が脳筋すぎる。紅蓮剣は一撃必殺だぞ………!?」


 観客席で何度目かわからない驚愕の声が上がる。

 

「必殺技を受けきった上で倒す、これなら文句ないでしょ」

「正気か君は!?」

「正気でソロができるかよ。あまりぼっちを舐めるなよ人気者!」


 ばきん


 と、両手の力に耐えかねた火崎の剣が砕ける。


 真っ二つにへし折れる。


 最大の危機の後に訪れた、最大の好機。即座に体勢を崩した火崎に組み付き、両手を掴んで強引に抑え込む。


「クソッ! しまった!」

「次はこっちの番だね」

「はなっ、はなせぇぇェェエエエ!!」

 

 必死の形相で火崎が蹴ってくるが、その程度の攻撃では私を崩すことはできない。むしろ、地味に痛いだけ私を逆上させるだけだ。


「ちょっと頭が高いな………、ほーら、跪こうか」

「ぐ、お、おお!?」


 ぎりぎりと腕に力を込めて、無理矢理に膝をつかせる。


 諦めずに抵抗するのは流石はSランクといったところか。身を捻ったりして逃れようと模索しているが、多少の技術では私の腕力から逃れるのは不可能だ。


 視点の下がった火崎に、にっこりと微笑む。


「遠慮なく術式をかましてくれたからね、私の技も見せてあげるよ」

「っ………!?」


 火崎の顔から血の気が引く。


 私が強力な人型モンスターを狩る時に使用する必殺技。発動条件は私が両腕で相手を捕まえていることのみ。


 火崎を捕まえたまま、全力で身体を逸らす。


 防御不能


 回避不可


 ギリギリと筋肉が軋み、骨が撓む。

 これは人体においてもっとも重いとされる頭部を、対象を引き寄せながら叩きつける。ただそれだけの人体運用奥義。


 チェックメイトだ。


 火崎ハヤト。


 お前は強かった。


 だが、私の方がもっと強い。


「ま、まてこうさ――――――!」

頂点破槌ヘッドバットォ!!」

「はぶっ!?」

 

 どごんと、大砲が放たれたかのような爆音が大気を震わせる。私の額が火崎の顔面にめり込み破壊する。


 身体強化によって生み出されたエネルギーは、火崎を捉え、そのまま彼を地面に叩きつけ、地面に抉り込み、クレーターを生み出し、爆心地のように粉塵を巻き上げる。


 粉塵が収まったころ。


 観客が見たのは、地面に逆さまに突き刺さり、ぴくぴくと足を痙攣させている火崎と、勝鬨のポーズとして拳を突き上げている私だった。



 ぼっちVS炎の貴公子


 

 今回の勝負は私の勝ちだ。




 

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