第18話 ぼっちVS炎の貴公子③

「こいよ、Sランク。ソロヒーラーの実力を見せてやる」

「くっ! 一撃を当てた程度で調子に乗るな!」


 剣を構えた火崎の姿が掻き消える。

 先ほどのまでよりも数段上の身体強化。圧倒的な速度でSランクの斬撃が襲い掛かる。


 先ほどまでは躱していたその斬撃。



 私は、



 ガキ、と硬質な鈍い音が響く。


「な、なぁぁぁあああああ!?」


 私の肩に当たった剣を見て、火崎が目を見開く。


 火崎ハヤトの真紅の剣。おそらく業物であろうその刃が私の服を裂き、肉に喰い込み、しかし骨で止まっている。


 つまり斬れていない。


「なんで?????」

「何アレ、知らん………こわ」

「人って剣で斬られたら死ぬ生物なんですけど………、なんですけど!?」


 私の肩で静止する剣に、観客が悲鳴を上げる。


 火崎が目に見えて狼狽する。 


「いったい、どんな手品を………!」

「別に大したことはしてないよ」


 ダンジョンで戦闘はつきものだ。探索者は負傷するものだし、怪我をすればポーションなどで治療する。


 当然、私は一人で戦うし、負傷すれば自力で治す。他の探索者と違うのは、一人で戦うせいで、


「ソロだからね。怪我をして、治してを繰り返しただけだよ」 

「まさか………!?」


 相手は凶悪極まるモンスターたち。

 私の身体は戦うたびに肉は裂かれ、骨は砕かれ、冗談みたいな負傷を治していく日々のなかで、より強く適応していった。


 超回復、とでもいうのだろうか。


 トレーニングで傷付いた筋肉がより強靭になるように、修復を繰り返す中で私の身体も強くなった。


 もう二度と負けないように。

 

 もう二度と負傷することがないように。

 

 負傷する度により強く。


 引き裂かれた肉体はモンスターを一撃で屠れるほどに強力に、砕かれた骨は砕かれることがないようより頑強に。


「キミの剣じゃ、私を斬れないみたいだね」


 防具なんて必要ない。

 砕かれ治し鍛え続けた私の骨は、生半可な鎧の強度を遥かに超える。


 名付けて鎧骨格スカル


 私の最強の盾防御は、Sランクの斬撃を持って証明された。


「そして構えなよ――――――ここは私の間合いだぜ」

「っく!?」


 ゆっくりと拳を握り込む。


 例によって、武器は必要ない。

 モンスターを砕き続けた私の拳は、他の武器のなによりも硬く重い。


 武術のような技術なんてものは、私は学んでいない。故にその力を最短、最速で撃ち放つ。


「ごぇ…!?」 


 火崎が咄嗟に剣で防御する。


 その剣ごと拳を押し込み、目の前の剣士を殴り飛ばす。


 再度、凄まじい勢いで試合場の壁に叩きつけられる。壁が崩壊し瓦礫と粉塵をまき散らしながら火崎が埋もれた。


「嫌ぁあああああ!?」

「ハヤトがやられてる!?」 

「冗談だよね!? 遊んでるだけでしょ!?」


 想定外の惨状に試合場が悲鳴で染め上げられる。


 客観的に見ても私のペースだ。あのSランクを相手に、私は十分に戦えているように思う。


 だが、同時にまだだと直感が囁いている。


 Sランクの人間を圧倒したというにはまだ早い。


「………少し、拳を逸らされたかな?」


 砂煙の中をじっと見つめる。

 崩壊した壁の瓦礫から立ち上る魔力が消えていない。


 火崎ハヤトはまだ戦える。


 その答えを裏付けるように、瓦礫から冷え切った声が響いた。



「術式発動――――――【紅蓮剣ファイアソード】」



 炎の貴公子が動き出す。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る