第17話 ぼっちVS炎の貴公子②
「おい、火崎の攻撃が当たらねぇぞ」
「Fランクの動きじゃねぇ!?」
「どこの高ランクパーティのメンバーだ?」
「それがソロらしい」
「ソロ!? 頭おかしいんか!?」
戦闘が開始して10分は立っただろうか。
火崎ハヤトと私、SランクとFランクの戦いが始まってしばらく、会場がざわつき始めていた。
SとF、その実力差故に、観客も試合はすぐに終わると思っていたのだろう。
だが、未だに決着はついていない。
依然として、私は防戦一方。
だが、振るわれる刃を潜り抜け、あるいは連撃の隙間を縫うように、火崎ハヤトの剣撃を躱し続けている。
Fランクの、それもヒーラーが。
もしかすると、傍から見れば異様な光景なのかもしれない。
だが、私にとっては、そんなことどうでも良かった。超高速の連撃を躱しながら、私はただ一つの事について考え続けていた。
「そろそろいいかな………?」
――――――どのタイミングで負けよう。
いや違うのだ。
いや違わないが。
だって考えても見て欲しい。
Sランクは国内でも最強クラスと称される探索者なのだ。
決して相手を思いやっているわけではないが、Sランクの面子をぶっ潰すなんてマネは、国内じゃ大ニュースになるだろうし、マスコミも動くだろうというのは私でもわかる。
相手は国内でもトップの人気を誇るダンジョン配信者だ。そんな火崎ハヤトをぶちのめしてしまったら、絶対に面倒臭い事になる。
諸々を想像すればするほど、嫌な未来が思い浮かぶ。
だが、本当に嫌なのは【アストリス】に迷惑が掛かることだ。
あの白髪の聖剣使いの少女の顔がよぎる。
私一人なら、別にいい。
ぼっちだから。
唾を吐かれようが、罵声を浴びせられようが、所詮は私だけのことで済む。だが、アストリスにまで、飛び火する可能性が出るのは嫌だ。
一瞬ではあったけれど、私はダンジョン攻略に誘ってもらえて嬉しかったのだ。
不愛想かつ口下手な私に付き合ってくれた、あのパーティに迷惑を掛けたくない。
だから、私は丸く収めたい。
下層か中層にいてもおかしくなさそうな程度に実力を示したうえで、火崎ハヤトに良い感じに負ける。これがベストだろう。
無理に勝つ必要はない。
故に、ここら辺が潮時だろう。
Sランクから一太刀も浴びずに、攻撃を躱し続ければ実力としては十分だろう。しばらくは何か言われるかもしれないが、そこは我慢だ。
ぼっちは我慢になれている。
なので、そろそろ降参しよう。
そう思ったところで、火崎ハヤトが剣を振る動きを止めた。
なんだろう?
「………どうしたの?」
「いや、もう十分だろう? 動けることは認めるが、所詮キミはその程度だ」
「えっ、あ、まあうん」
「逃げ足だけが取り柄の、ソロらしい立ち回りだ。まあ中層くらいなら潜れるのかもしれないね」
呆れたように、こちらを見るハヤト。
なんか偉そうな態度にやや引っかかりを覚えるが、概ね私の理想通りだ。
さっさと降参しよう。
「――――――キミは、Sランク探索者の意義を知っているか?」
おいおい、なんか語りだしたぞ。
説教なら他所でやれと言いたいが、変にヒンシュクを買うのもアレなので、話は聞いておくことにする。
「単純に強いってことなんじゃないの?」
「教養のない回答をありがとう。Sランクはね、希望なんだよ」
「はあ、なるほど………?」
もしかして、これって長くなるのか?
「この世界には脅威が満ちている。魔王の出現、外神格の降臨、超越者の覚醒、古代兵器の再起動、そして
かつて、一部は不明だが、世界史とかで聞いたことのある単語がいくつか出てくる。どれも世界で起こった惨劇や戦争にまつわる存在だ。
「Sランクはそれらの脅威に対応し得る、人類の最終戦力なのさ」
「つまり自分はすごいってこと? 尊敬するよ実際」
「日乃宮ハルカ」
火崎の告げた名前に反応する。
「Sランクの彼女は現在、墓標迷宮を攻略中だ」
「………知ってるよ、有名だからね」
「現在は地下資源として活用しているとはいえ、迷宮もそれらと同格の脅威だ。魔物の蔓延るダンジョンは、一歩間違えれば
【迷宮厄災】
暴走したダンジョンから、モンスターが溢れ出す大災害。下手をすれば都市を滅ぼし、国家が壊滅することもあり得る最悪の現象だ。
「ただでさえ危険なダンジョン攻略。これ以上、彼女には余計なことで煩わせるわけにはいかない。だから、キミは邪魔なんだよ」
「………………」
「彼女を助けた件には礼を言う。だが、彼女とおなじSランクとして言わせてもらう――――――金輪際、日乃宮ハルカには関わるな」
言いたいことを言われてしまった。
だが、言いたいことは解った。
「弱い人間が、足を引っ張っていい存在じゃないんだ。彼女は」
火崎は嫌なやつだが、言っていること自体は正しいのだろう。
たしかに、ぼっちヒーラー如きが関わるべきではなかったのだろう。人気者に声を掛けられて、舞い上がっていたのかもしれない。
確かに、それは反省だ。
ぼっちにあるまじき行動だった。
まあ次から気を付けよう。
負けを認めて、日乃宮ハルカには近づかない。それを気をつければいい。
だから私はさっさと降参を宣言しかけ―――――――
「――――――ふざけないでください!!」
日乃宮ハルカの怒鳴り声にかき消された。
観客が静まり返る。
注目が彼女に集まるが、そんなことは知らないとばかりに銀髪の少女は言葉を続ける。
「私は強い弱いで人を選んでいません! 火崎さんが関わらなくても、自分のことは自分で決められます」
「は、ハルカ………?」
「日乃宮です。前から思っていましたが少し馴れ馴れしいです」
「!?」
日乃宮ハルカの剣幕に火崎がたじろぐ。
やっぱ怒ると怖いよこの娘。Sランクは怒ることに掛けてもSランクなのか。
「それとアリカさん」
「ええ!? 私!?」
「変に気を回して、わざと負けようなんてしないでください!」
ば、バレている。
私の完璧な計画がバレている!
「私たちのことは気にしなくていいんです! アリカさんの好きなように戦ってください!」
「は、はい。ゴメンナサイ!」
思わず謝ってしまった。
本当に年下なのか? うちの母ちゃん相手にしてるかと思ったわ。
だが、これで手は抜けなくなってしまった。
「は、はは、戦う? 彼女の実力じゃ僕には――――――」
「ごめん、今から本気出すわ」
「ぐぇ!?」
瞬時に火崎との距離を詰め、服を掴んでぶん投げる。
剣士は轢かれたカエルみたいな声を上げながら、凄まじい勢いできりもみ回転して試合場の壁に叩きつけられる。
静寂。
直後に観客席から絶叫のような悲鳴が上がる。
「まあ、あそこまで熱いエールを受けたら頑張るしかないか」
こうなっては、本気で挑まざるを得ない。
丸く収められないなら、誰にも文句が出ないような結果を出すしかないだろう。
プランBだ。
瓦礫の中から、火崎がよろめきながら立ち上がる。
「な、なんだその、異常な身体強化は!?」
「日頃の鍛錬、かな」
地面に転がっていた、赤剣を拾い上げてなげ渡す。ちゃんと万全な状態で戦わなければ。
「キミはFランクの、ヒーラーの筈だろう………!?」
「少し、違うかな」
自身にヒールをかけ、軽く疲労と緊張を癒す。
軽く伸びをしながら、ゆっくりと火崎に歩み寄る。
日乃宮ハルカに関わる人間が弱い事に問題があるというのなら、 証明してみよう。
目標は、完膚なきまでの勝利。
「私はFランクで、ヒーラーで――――――ただのぼっちの人間だよ」
―――
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――――――しかし、クリスマスの夜になぜ私はひとりで執筆活動を…?
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