第16話 ぼっちVS炎の貴公子①
観客の歓声が会場を満たす。
SランクとFランク、釣り合う筈のないランク帯の決闘。
物珍しさで集まったこの状況で、伏見アリカに味方はいない。大半が火崎ハヤトのフォロワー、あるいは視聴する生徒だろう。
完全にアウェーな状況である。
伏見アリカと火崎ハヤトが向かい合う。
両者が構えたと判断し、試合場のアナウンスが開幕を告げる。
【
両者の姿が共に駆けだした。
魔力を巡らせる身体強化で、二人の身体能力はけた違いに跳ね上がる。
「シィイイイイイイ!」
「あぶなっ」
瞬時に間合いを詰めたハヤトが、剣を振るい斬撃を繰り出す。
ダンジョンのモンスターなら、一撃で両断される速度と威力。
『いっけー! ハヤト!』
『そんな女たおしちゃえ!』
『やっぱ実力はあるんだよね』
だが、伏見アリカには当たらない。
身体をずらして、それをギリギリのところで回避する。
追いかけるようにハヤトが剣を振るう。
アリカが避ける。
避ける。
避ける。
避ける。
並みの探索者であれば、一撃で決着が着くであろうハヤトの猛攻を、Fランクの少女は躱し続ける。
「っ! 思ったよりも動けるようだ! だが逃げているだけでは勝てないぞ!」
「うーん、まあそうなんだよね」
ハヤトがさらにギアを上げて加速する。
伏見アリカが悩ましい表情で対応する。
戦場はハヤトの一方的な攻勢で幕を開けた。
***
「――――――始まっちゃったね」
【アストリス】の弓兵、弓月カザネが溜息を吐く。
「やっぱ、火崎の実力は本物だね、剣士としては一級品だ。ムカつくけど」
「あの癖のある性格が、マシになればな」
カザネとクロガネが言葉を交わす。
ランク自体はあくまで総合的な探索者の階級だ。
純粋な実力の指標にはならないが、ベテラン達を押しのけて10代の若さでS ランクに到達する実力は本物だ。
探査者協会の広告役として優遇された、なんて噂もあったが剣術、身のこなしも含め剣士として高水準だ。
「その剣士の攻撃を避けてる人間も大概だけどね」
「剣の軌道のぎりぎりを見切っているな。前衛並みに肝が据わっている」
あらためて、目の前で戦うソロヒーラーの規格外さが理解できる。
ここまでの動きができる非戦闘職なんて聞いたこともない。
だが、そのおかげで伏見アリカと火崎ハヤトの状況としては拮抗できている。
「………………おかしいです」
日乃宮ハルカは不安げな表情を浮かべる。
「何がおかしいの、ハルカ?」
「アリカさんの迷宮の動きはもっと速く、力強いものでした」
迷宮を乱反射するように疾走する機動力。
そしてモンスターを一撃で屠る破壊力。
彼女の実力はこんなものではない筈だ。
だが、いまのところアリカが反撃するような素振りはない。
あくまでもハヤトの攻撃を躱し続けているだけだ。
「コンディションの不調、でしょうか?」
「体調不良や、緊張というわけではなさそうだが」
探索者の切り札である【魔術式】を使っていない以上、火崎もまだ本気を出してはいないだろう。アリカとしては手の内を探っている可能性は十分にある。
だが、ハルカにはアリカの動きがどこか遠慮しているようにも映る。
まるで、何か別のことを気に掛けているような。
彼女と出会った経緯と、現在の状況。そこまで考えて、ハルカは気づく。
「もしかして――――――」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます