第14話 炎の貴公子
「ハルカ、体調はもういいのかい?」
「
「ハヤトでいいよ。同格のランクなんだしさ」
「あ、あはは」
日乃宮ハルカに近づく金髪に髪を染めた優男。
高級そうな装備と、腰に吊り下げた真紅の刀身の剣が印象的な探索者だった。
だが、火崎ハヤトという名前。
私はこの男を知っている。
といっても、表面的な情報だけだが。
私と同じ高専生2年。
日乃宮ハルカと同じダンジョン配信者。
火属性魔術を扱う剣士であり、その火力は探索者の中でもトップクラス。その整った顔立ちから、主に女性層からの支持が厚い人気配信者――――――らしい。
別名【炎の貴公子】と呼ばれている。
そして、ランクは日乃宮ハルカと同格であるS。
つまり国内最高峰の探索者であると日本探索者協会が保証する実力者というわけだ。
人気は日乃宮ハルカほどではないにしろ、とんでもない大物である。
「本当にすまない。あの場にいれば、きっと君を守って見せたのに………!」
「………いえ、ダンジョンには危険はつきものですから」
「っ! だが!」
「お気持ちだけでも、有難いです」
「1年生の君は、少し頑張り過ぎだ。もう少し先輩に甘えてくれてもいいんだよ」
「年上のカザネさんとクロガネさんには、十分助けて貰ってますから」
「っそれでも! 君を守りたいんだ!」
しかし、盛り上がるなこの男。
なんか言動がいちいち臭いというか。
会話を邪魔しちゃ悪いと思って黙っているが、目の前で結構なセリフを吐いてくれちゃっている気がする。
いや、ぼっちの私の感覚が変なだけで、世間じゃ案外普通なのだろうか。
ふとアストリスのメンバーを見れば、弓月はウンザリした表情を浮かべているし、黒鎧のクロガネにいたっては地面に指で落書きをしている。
どうやら火崎ハヤト。
なかなかな曲者であるらしい。
とはいえ、これは好機じゃないだろうか。このドサクサに紛れて、さっさと帰るのもありなのでは?
なんて、考えていたせいだろうか。
日乃宮ハルカが火崎ハヤトから距離を取り、私の後ろに回り込む。
ちょ、巻き込まないでくれません?
火崎ハヤトの視線が私を捉える。
「そ、そうだー、紹介します! この方が恩人の伏見アリカさんです!」
「…………ふうん?」
火崎ハヤトが目を細める。
暑苦しい雰囲気とは打って変わって、どこか値踏みするような態度だ。
「キミ、
「………一応、ヒーラーだよ。Fランクね」
「へぇ、他のパーティメンバーは?」
「ソロだから、いないね」
そう答えた瞬間に、鼻で笑われる。
「いや、ごめん。あまりにも馬鹿馬鹿しくてね」
「はあ、ですかね」
「――――――で、どうやってハルカに取り入ったのかな、噓吐きさん?」
言葉の意味を捉えかねる。
どういう意味だ?
「ダンジョン探索において、ヒーラーとは治療というサポートに特化した支援役。つまり非戦闘職だ。直接的な戦闘能力がなく攻撃力がない、故に探索者ヒーラーは非常に珍しい」
「まあ、そうだね」
パーティの基本は2前衛1後衛。
回復というライフ管理ができるとはいえ、攻撃面からいえばヒーラーという存在は一人分の火力を出せない事になる。
戦闘を長引かせること自体がデメリットになる迷宮で、火力を出せないヒーラーというのは、本来は致命的だ。
故に大抵の場合、中層までは需要が高いが、下層になるとヒーラーはほぼ存在しないらしい。
「なら、おかしいと思わないかい? ハルカと同じ下層に到達するだけの能力を持ったヒーラー? しかもFランク? ありえないね」
………ああ、なるほど。
そもそも日乃宮ハルカを死に掛けまで追い込んだのはお前じゃないか?
暗にそう言われているわけだ。
理由はあの【日乃宮ハルカ】に恩を着せるためとか、まあいろいろ考えられるか。
事実は違う。
だが、日乃宮ハルカのピンチに都合よく駆け付けた、下層に現れるFランソロヒーラーとかいう身分が怪しすぎるというわけだ。
「………………ふっ」
やべ、言い返せねえ。
Fランクなのは単にランク更新してなかっただけだが、言われると確かに怪しすぎる存在ではあるな。
どうしよう、ソロヒーラーになった理由から説明するべきだろうか。でも、そうなるとぼっちであることから話さないとダメだしな………。
「――――――やめてください」
「日乃宮さん?」
怒った表情で日乃宮ハルカが私の前に立つ。
「私はアリカさんを、火崎さんに恩人として紹介しました。適当な憶測で彼女を陥れるのは看過できません」
「……………だが」
「彼女の実力はSランク【アストリス】が全面的に保証します。――――――信じてくれとは言いません。ただ、無暗に疑ったことについては謝罪を求めます」
日乃宮ハルカの魔力が高まって光となって溢れ出す。
ピリピリと震える空気が痛い。
この娘って怒るとこんな怖いのかよ。
絶対に逆らわないようにしよう。
だが、火崎はどこ吹く風だ。ハルカの怒気を受け流して飄々と話だす。
「Sランクパーティ【トライエッジ】のリーダーとして、気安く謝罪は出来ないね」
「っ! なら――――――」
「だから、こうしよう。栄えある迷宮高専の探索者らしい決め方だ」
炎の貴公子は語る。
火崎ハヤトは伏見アリカが弱いと判断している。
【アストリス】は伏見アリカが強いと証明している。
相反する思い。
矛盾する事実。
なら、解消するべきだろう。
「――――――決闘をしよう。出るのは【伏見アリカ】、そして対戦するのはこの僕【
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