第13話 お誘い


 配信はつつがなく終了した。

 途中、やや暗い雰囲気が出てしまったが、それ以外は私も配信中に異常な行動はしなかったはずだ。


 たぶん。


 …………してないといいな。


 なにはともあれ、【アストリス】との合同配信は終了。現在は墓標迷宮の中層から地上へ戻ってきた所だ。


「お疲れ様です! 無事に戻ってこれましたね!」

「うん、リハビリとしては丁度いいんじゃない?」

「同意だ。調子は少しずつ戻せばいい」


 地上へ出てハルカがグッと伸びをする。


 アストリスのメンバーである弓月カザネと土御門クロガネも、心なしか柔らかい雰囲気になった。


 まあ当然ではある。

 一歩間違えれば死の危険が溢れる迷宮から、地上へ戻って来た時の解放感は格別だ。


 私も息抜き変わりに軽くストレッチをすることにする。


「あの、ハルカさん」

「ん? どうしたの日乃宮さん」 


 身体を伸ばしてほぐしていると、アストリアに声を掛けられる。


「その、今日はありがとうございました!」

「お礼を言うのはこっちの方だよ。久しぶりに誰かとダンジョン潜れて楽しかったし」


 嘘である。


 ごめん、正直なんか失礼なことしてないか気が気じゃなくて、それどころじゃなかった。


 なんというか、アレだ。

 高級料理店に言ったはいいけど、緊張しすぎて食べ物の味が分からないみたいな、そんな感じの状況だった。

 

 とはいえ、ここで差し障りなく話を転がすくらいはぼっちの私にもできる。私レベルのぼっちになると、普通の人間をよそおったコミュニケーションも多少は可能だ。


 ある一定のレベルに達したぼっちは、自分をぼっちと悟らせない擬態を身につけているのだ。


 まあ、うっかりするとすぐにボロがでるが。


「私も楽しかったです!」

「それは良かった」


 あ、そうだ。


 皆に回復ヒール掛けとこう。

 いつもソロなので忘れていたが、そういえば私はヒーラーだった。目に見える負傷は特になかったが、最後に全員のケアをしておくのがマナーというものだろう。


 というわけで回復魔術を発動。


 手から淡い緑の光を放って、【アストリス】へヒールを掛ける。


「わぁ、心地いいです!」

「まって、範囲回復まで出来るの? あれって高等技術じゃなかったっけ?」

「………疲労が抜けていくな。この質の回復は医療現場でもなかなか見ないが」


 何か言われているが、まあ悪い反応ではないようだ。


 むしろもっと褒めて欲しい。


「ま、こんなもんかな。それじゃあ私はこれで」

 

 まあ、ぼっちが長居するのは良くない。

 彼女達の場を乱さないように、適度なタイミングで離れるのがベストだろう。


 というわけで、伏見アリカはクールに去るぜ。

 

「待ってください!」

「えぇ、なになに日乃宮さん!?」


 と思ったら普通に日乃宮ハルカに引き留められた。


 がっちり手を握られているので逃げることも出来ない。


 というかこの一年生、結構スキンシップ多いな。

 私が男だったら、勘違いして血迷った挙句、思い切って告白して振られるまであるぞ。


「実は、アストリスの打ち上げをしようと思っていて。その、良ければアリカさんも一緒に、と」

「あー……………」


 正直、家帰ってごろごろしたい。

 

 ――――――とは流石に言えないので、アストリスのメンバーに助けを求めることにする。


 暗に帰りたい旨を、弓月カザネに目で訴える。

 

 頼む、部外者がいると微妙な空気になるだろう? お願いだから帰らせてくれ。


「いいんじゃない? 私もソロの立ち回りとか聞いてみたいし」

「右に同じ」

「!?」


 馬鹿な、OKだと!?


 こいつらコミュ力が高すぎる。

 Sランクパーティはコミュ力までSランクだってことか。


 私の負けだ。


 どうやら、打ち上げのお誘いが確定したらしく、観念していると。



「――――――ハルカじゃないか、もう大丈夫なのかい?」



 唐突に、意識の外から探索者が、割り込んできた。



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