第12話 Sランクパーティ【アストリス】


 ダンジョン中層へと到着した。

 

 中層といっても、具体的な指標はない。

 ただ、私たちが現在潜っている墓標迷宮は階層式のダンジョンだ。


 階層ごとに環境が一変するタイプのダンジョンであり、場所によっては空や太陽さえも観測できる摩訶不思議な場所だ。


 墓標迷宮は、現在は6層まで攻略が進んでおり、今いる場所は第3層。


 丁度、地上と最前線の中間に位置するために中層とされている。

 鉱物などが採取できることで有名であり、一般的には【鉱山】と呼ばれている。

 

 いつもなら中層を素通りして、そのまま最下層に向かうのが私の日課なのだが、今回はあのアストリスとの合同配信だ。


 私が移動中に戦いを披露したので、今度はアストリスが戦闘をしてくれるらしい。


 私は後方で見学、場合によってはフォローするという事だった。


 一度撤退したとはいえ、迷宮攻略の最前線に立つパーティだ。

 心配するようなことは何もないだろうけども。


『アストリスは国内屈指のパーティだから大丈夫だよ!』

『伊達に迷宮下層攻略してないぜ!』

『連携・火力ともに最高基準だからな』

『前回の事故もあるし、少し慎重に立ち回ってるしね』


 コメントも慣れたような反応だ。 


「なるほどね」

 

 流れるコメントを一瞥しながら、【アストリス】の戦いを眺める。


 上層とは打って変わって、中層はモンスターの質は跳ね上がる。深部に進むほど迷宮は魔物の強さ、能力が純粋に高まってくるのだ。

 

 特に第3層は鉱山地帯。

 力と頑丈さに定評のある魔物、ゴーレムが多数現れる。


 ベテラン探索パーティですら、油断すれば一瞬で全滅する強敵だ。


 だが、アストリスには余計な心配だ。



 ハルカ達を、一言で表現するなら「美しい」戦闘だった。

 

 

「――――――光輝聖剣レディアント、起動」


 閃光が走った。


 瞬間、前方にいたゴーレムが瞬時に真っ二つになる。


 岩塊であるゴーレムを斬り裂くハルカの剣技。

 光属性による威力強化と日乃宮家が保有する聖剣術はあまりにも有名だ。


 気にした様子もなくゴーレムの群れがハルカを襲うが、魔力で強化された矢がゴーレムを破壊していく。


「ちょっと、あんまり無茶しないでよね」


 弓月カザネの援護射撃だ。

 風の魔力を矢に乗せた高威力の狙撃がゴーレムの身体を正確に撃ち抜いていく。

 

 前衛の攻撃を支援する後衛火力。

 極めてシンプルかつ強力な戦術連携だ。


 当然、カザネに気付いたゴーレムが、まずは彼女から潰そうとするが――――――


「ここは、通さん」


 ――――――巨大な黒騎士がゴーレムを阻む。

 

 土御門クロガネが2メートルは超えるゴーレムを大盾で押しと止め、そのままメイスハンマーで粉砕する。


 極めて強力な防御能力と、一撃粉砕の攻撃力。


 危なげない戦闘だ。

 攻撃、防御共に隙が無い。


「………鮮やかだね」


 パーティの基本は2前衛1後衛とされている。

 パーティ編成に差はあれど、攻守ともに優れた役割を実現させるのが、探索者の腕の見せ所だ。


 アストリスは基礎的な役割を、高度なレベルで実現させているわけだ。


 シンプル故に隙が無く、美しく、そして強い。


 極めて王道な三人連携トライセッション

 アストリスのSランクは伊達じゃないというわけだ。


『どーよ、すげぇだろ!』

『これがアストリス………! これがSランク………!』 

『実際、ゴーレム群相手に立ち回れるのはすげーよな』

『ちなみにアリカ氏ならどう戦うん?』


 え? 私?


 ………真正面から、叩いて砕くかなあ。


 所詮、岩だからそこまで硬くないし。

 動きがとろいから群れでも関係ないし。


『草』

『脳金すぎる』

『岩だからそこまで硬くないってどういうことなの???』

『ゴーレムを素手で砕く女、強い』

『弱点ないんか???』


 あんまりないよ。


「ソロだからね」


 怪我はヒールで自分を治せるし。

 なんなら守るべき味方もいないし、理論上ほぼ無敵だ。


 やはり、ぼっちは最強なのか。


『;;』

『おいやめろ悲しくなる』

『俺もいないぜ』

『俺も………』


 コメント欄が急に暗くなる。

 思ったよりもぼっちの人口密度が多いな。


「アリカさん!? 配信がお通夜みたいになってます!?」


 やべ。


 本当にごめん。


 ぼっちでマジですまない。




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