第11話 ぼっちの本領/Fランクの暴君
極東探索者協会にはランク制度というものが存在している。
それは本人の大まかに魔力、身体能力、技量をもとに算出されるある種の区分けである。
自身の迷宮内での実績を元にランクは上がっていく仕組みになっており、実力・実績を考慮した最終的なランクが本人の実力とされている。
そして日乃宮ハルカは、測定当時からSランク判定。
希少とされる「光属性」の魔力保有者、そして日乃宮家に伝わる聖剣術の鍛錬によって、その実力は人の到達点とされるほどの逸材だ。
ハルカ自身はまだまだSランクとしては未熟だと考えているが、その実力は本物である。
故に、日乃宮ハルカは思う。
______では、伏見アリカはどうか?
彼女のランクはF。
魔力、身体能力、技量すべてが底辺クラスに与えられる最弱のランクである。
だがそれ自体は珍しい事ではない。
一般人から志望される探索者なら当たり前、そこからは本人の努力と成長次第で実力は伸びるものだ。
アリカもおそらくはそのタイプ。
おそらくはランク更新をしていなかったのだろうが、実力は下層ダンジョンの難度からしてBランク程度は必要だ。
オーガや周辺の魔物を倒せるならAランクはあるだろう。
そして、武器を使わない戦闘スタイル。
高レベルの回復をこなす、Aランク相当の技量特化の格闘術の使い手。
それこそが彼女の正体だ。
そう思っていた
「なに、これ………」
ハルカが呆然と呟く。
場所は迷宮上層から中層の間。
アリカの紹介を兼ねた軽めの配信という事で、移動がてらモンスターを退治しながら中層まで移動、という形で配信をしている。
じゃあ実演のために、道中の敵はアリカが倒すという本人の提案を受け、進んでいる最中だ。
『ちょ、はや、え? はや!?』
『ガチで素手!?』
『モンスターが見えた瞬間に死んでるぞ!?』
『挙動が人間の動きじゃねぇ!!』
怪物が、暴れていた。
ダンジョンの魔物は多種多様だ。
比較的安定した環境からオーク、ゴブリン、魔狼、トレント等の魔物が存在する。
それら全てが見えた瞬間に殴り殺されていく。
アリカが行なっているのは近付いて殴るの単純な動作のみ。
それだけですべてのモンスターが死んでいく。
オーク、ゴブリン、魔狼、トレント。
多種多様な魔物がなぐられた瞬間に爆散する。
あとにはぶち撒けられた体液と内臓、そして魔石。
地を、壁を、あるいは天井を。
重力など無いかのように跳ねまわり、魔物を滅殺していく。
強化なしでは速すぎて目で追うのがやっとな状態だ。
アリカの殺戮の後を、ハルカ達アストリアが追随するような形。
「これは、すごいね」
「………身体強化だけで、これほどの実力か。ぜひ、一度手合わせ願いたいな」
カザネとクロガネが唸る。
なにせ、魔力の身体強化だけでこの動き。
探索者の本領である【魔術式】も使わない。技量もクソもないただの拳の威力で、すべてのモンスターが一撃で死んでいく。
『技量特化の格闘スタイルじゃなかったのかよ!』
『おかしいな、黒髪美少女の鮮やか戦闘映像が見れるって聞いたんだけど』
『速すぎてモンスターが爆散するところしか見えねぇ』
『ご、ゴリラじゃ、ゴリラがおる』
『ゴリラはこんな素早くモンスター倒せねぇよ』
あまりの惨状にコメント欄も戦慄している。
アストリアの配信接続数が加速度的に伸びていく。
「こ、こんな人が、ソロにいたの………!?」
ハルカが興奮気味にアリカを追って走る。
身体強化は一級品。
こんな強化ができる人間は日本に数人といない。
Aランク?
とんでもない。
彼女のランクはそんなものに収まらない。
「………待ってください!」
ハルカが身体強化で加速する。
もっと知りたい、もっとアリカのことを理解したい。
胸から湧き上がる感情に戸惑いながら、戦場を駆るヒーラーの少女を追いかけた。
***
「皆ついてこれてる、よね………?」
うーん、ちょっと身体強化を緩めるべきだろうか。でも普段の半分くらいの速度だしな………。
不味いな、パーティの移動感覚が分からない。
空気読めない奴だと思われてしまうのは困る。
「あ、付いて来てるな。じゃあ、もっとスピードを――――――いやいや、さすがに」
アストリアの驚愕を、配信の悲鳴と、日乃宮ハルカの興奮を知らないままに、戦場を駆けるFランクぼっちが一人。
自分のSNSのフォローが現在進行形で爆増していることを、彼女はまだ知らない。
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