第8話 爆伸びSNSアカウント


 日乃宮ハルカに見つかってしばらく。


 私は喫茶店にいた。


 放課後まで待ってくれという提案に、日乃宮ハルカは快く頷いてくれた。

 ただし、私が惚けて逃げようとしたことはバレているらしく、「待ってますからね………?」と念押しをされてしまったが。


 まあそれはいいのだ。


 問題は他にある。


「ふ、フォロワー数が爆増している………!?」


 日乃宮ハルカを救出してから数時間。

 私のSNSアカウントのフォロー数が30万人を突破、現在進行形で増加中とありえない挙動をしている。


「なんで………?」


 日乃宮ハルカと待ち合わせるために喫茶店に入って、時間潰しにスマホを覗いたらコレである。


 おかしいよ。


 元が2ケタの登録しかなかったアカウントに、この伸びは異常だ。


 校内の生徒が見てもこんな上がり方はしない。

 いや場合によっては大幅に伸びることもあるかもしれないが、にしたって限度がある。


 答え合わせは意外にも、近くから来た。


「昨日の配信の影響ですね………、ほらアリカさん、一応名乗ってましたし」

「名前だけで、探索者アカウント見つけたってこと?」

「一瞬とはいえ、オーガとの戦闘映像も残ってますから………」


 いつの間にか、向かいの席に座っていたハルカがテーブルにスマホを置く。覗けば確かにアカウントにURLとオーガの戦闘映像の切り抜きが流されていた。


 フォロワー数は、何桁あるんだこれ。


 うわ、すご、数百万人のフォロワーか~。


 格が違う。


 そりゃこんなにフォロワーいたら広まるのも早いわな。


「その、昨日は助けて頂いてありがとうございました」

「え?」


 勝手に納得していると日乃宮ハルカが頭を下げる。

 普段の配信みたいな明るい話し方ではなく、どこか大人びた雰囲気。


「手足も千切れて、助かる見込みも無くて。私、あそこで終わるんだと思ってました。本当に感謝してるんです」

「ああ、いいよ別に。気にしないで」

 

 たまたま、通りかかっただけだし。

 傷を治したのも、腕のいいヒーラーなら同じ以上の治療ができるだろうし。


 困ったときはお互い様というやつだ。


 そのことを彼女に伝える。


「でも、私っ!」 

「どうしてもって言うなら、普通に接してもらえると嬉しいかな………」


 大したことはしてないのに、あんまり感謝されても困る。

 まあ配信で大事故を起こしたとはいえ、一時は有名人になれたのはちょっと嬉しかったしな。


 とはいえ、所詮は一時的なものだろうし。


 異常に増えたフォロワーもそのうち落ち着いて消えるだろう。


「貸してた上着も返さなくて大丈夫だから」

「ええっ、悪いです。 ちゃんと洗って返しますから!」 


 いや、ほんとに大丈夫だから。


 迷宮高専の制服は、ダンジョン探索用の特注仕様なのでかなり丈夫だ。

 とはいえ、ソロで迷宮下層に潜って帰ってくると大抵ボロボロになるので、何度か着た後は、そのまま捨ててしまうことが多い。


 裁縫ができればよかったのだが、その手のセンスが無いので、同じものを何着も購入しているのだ。


 というか、日乃宮といえば英雄の家系であり、日本でも有数の名家だ。


 お嬢様にそんなボロ布を押し付けて申し訳ないくらいだ。


「それより、本当にソロで活動してるんだね………」

「変かな?」

「そんなことは、ある………かなぁ?」


 ハルカが困ったような表情を浮かべる。


 いやホントゴメン、変に決まってるよね!

 ソロなんてやってる人間なんでほとんどいないし、圧倒的少数派だもんな!


「大丈夫、気にしてないから」

「何か事情があるんですか?」

「むかし、ちょっと色々あってね」

 

 パーティ組んでくれる人がいなかったので。とは言わないが。


 如何にコミュ強者の日乃宮ハルカと言えど、ぼっちアピールされても反応に困るだろ。


 なんか訳ありっぽい雰囲気だしとこう。

 だから、あんまり深く聞かないで欲しい。

 

 思いが天に通じたのか、彼女がハッとした表情を浮かべる。


「ごめん、無遠慮だった」

「気にしないでよ、大した理由じゃないから」


 本当に大した理由じゃないから。


 だからそんな深刻そうな顔をしないで欲しい。

 ちょっと申し訳なくなってきたし。


「それよりも、このくらいでいいかな? あんまり日乃宮さんの時間取るのも悪いし」


 相手は天下のSランク探索者様だ。

 Fランヒーラーが時間を取っていい相手ではない。


 あとこれ以上話すと、どんな失言をするかわからないし。


 ぼっちはさっさと退散するに限る。


「あっ待ってください、一つだけお願いがあって!」

「えっ」


 一体なんだろう。


 Sランク探索者からのお願いとあれば、無下には出来ない。




「その、私のパーティ【アストリス】とコラボ配信してください!」

 


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