第5話 帰宅
「アリカさんのパーティメンバーを紹介して欲しいんです!」
日乃宮ハルカを助けたわけだが、どうやら私にパーティメンバーがいると思われている。
いないよ。
そんなの、私が紹介して欲しいよ。
いや、理由はわかる。
そもそもダンジョンに潜るのに、パーティは組むのが基本だ。
それも深層にもなれば、難易度も危険度も跳ね上がるのだから、単独でダンジョンに入る人間はほとんどいない。
火力を出す人間、防御・サポートする人間、遠距離攻撃する人間が3~4人集まるのが理想だと言われている。
ご、誤解されている!
私に優秀なパーティメンバーがいると思われている!
「アリカさんが癒術師ですよね! なら他の人は火力前衛と防御前衛とかですか!?」
「いえ………」
「なら防御前衛に遠距離火力の変則パーティですか!?」
「違います………」
コメント欄も存在しない私のパーティ構成で盛り上がり始めている。
『サポート枠はヒーラーのアリカさんで確定なんだろ? なら前衛×2で確定じゃないのか?』
『本人が違うって言ってるだろ。遠距離×2じゃないの』
『ヒーラーも遠距離も守る役が必要なのにバランスが悪すぎるだろ。魔術攻撃前提で燃費も悪いし』
『そもそも3人なのか?』
『知らねぇの? 探索者の連携理論では3人が最適なんだよ』
『火力理論は4人なんだよなぁ』
ダメだ、パーティの数まで増え始めている。
これ以上、現実と乖離しない為にも、事実を伝えなくては………!
「あの、パーティメンバーいません」
「え?」
日乃宮ハルカが首を傾げる。
い、言いづらい………!
だがここで言わないともっとこじれる気がする………!
言うしかねぇ!
腹を決めろ。
心を殺せ。
無心で話せ。
「私、いつも一人で潜ってます」
「ええええええええ!? なんでヒーラーが一人で迷宮に!?」
「ソロだからですね」
「え、ソロ!? ソロって一人で潜るあのソロ!?」
「はい」
「上層ならともかく、中層以降は自殺行為と大差ないって言われてるソロ!? 中層、下層には絶対に存在しないあのソロ!?」
え、そうなの?
確かに中層以降でソロ探索者は見ていない。
単純にみんなどこかでパーティメンバーができてソロる必要が無いからだと思ってた。
『ソロ?』
『ソロ!?』
『あの頭のおかしい奴しかいないっていわれてるソロ!?』
『遠回りな自殺って言われてるあのソロ!?』
『ただでさえ珍しい探索者ヒーラーで、しかもソロ!?』
今日一番の凄まじい勢いでコメントが流れる。
反応がツチノコを見つけたとかそういう感じのアレだ。
「も、モンスターはどうしてるの?」
ビックリしすぎて敬語が取れてるハルカに説明する。
といっても、説明は至極シンプルだ。
「自分で殺しますけど」
「ど、どうやって………?」
「どうやって、ですか?」
こくんと、ハルカが頷く。
彼女の目線の先は私の手と、腰を行き来している。
ああ、なるほど。
ヒーラーが武器もないのにどうやって戦うのかって意味か。
『めっちゃすごい迷宮武器もってるんじゃないか?』
『でも素手だぞ』
『アイテムボックスとかあるんじゃないか?』
『んなもん米国最強の探索者くらいしかもってねぇよ』
それなら実演したほうが分かりやすいだろう。私としても変に話すよりも楽で助かる。
「あっ」とか「あの」とかばっか言っちゃうしな。
「ハルカさんの剣貸してもらっていいですか?」
「聖剣【
「ありがとうございます」
お礼を言って受け取る。
では早速、ソロ探索者の迷宮攻略を実演しよう。
服は傷付けたくないので、シャツをぺろんとめくって腹を見せ、そのまま聖剣を腹にぶっ刺す。
「ごぽっ」
あ、刺し方ミスった。
口から血が溢れる。
だが、やること自体は変わらないので、傷付いた胃からこみ上げた血を吐き出して、そのままさっさと剣を抜く。
「あ、あああ!? 何やってるんですか!?」
慌てて日乃宮ハルカが駆け寄ってくる。
先ほどまで興味津々といった感じだったのに、今はなぜか顔面蒼白だ。
『なになになになになになになに!?』
『命の恩人が切腹したあああああああああああ!?』
『きゅ、救急車』
『ばか、ヒーラー呼べ!』
『そのヒーラーが腹切ったんだよ!!』
いや大丈夫だって。
ヒーラーだし。
「大丈夫です、ほら」
「はえ? ええ、な、治ってる………?」
おなかの傷口を見せれば、傷一つない状態だ。
なんのことはない。
簡単に治癒の魔術を掛けてなおしただけだ。
私は強力な属性魔術は使えないので、仕方なくヒーラーになったのだが、ソロでモンスターと戦い、怪我を回復魔術で治し、また戦うを繰り返すうちに、回復が上達したのだ。
今ではほぼ反射的に回復ができる。
まあ私は独学の治癒魔術なので、本職には敵わないだろうが。
なので負傷しても魔力が続く限り回復して戦い続けることができる。
「そしてモンスターを倒すときは、素手」
「素手!?」
「こうやってシュッと」
「あ、あはは。アリカさんって冗談が上手ですよねー」
かつん、とハルカの足に転がっていた何かが当たる。
彼女が拾い上げてみると、それは半透明に輝く宝石のようだった。
これはモンスターを倒した時に手に入る鉱物。
魔石だ。
それも純度からして強力なモンスターのもの。
「ああ、治療中に襲ってきた奴らのかな………」
「ほ、本当に素手なんですか?」
「うん、一応、ここら一帯のモンスターは根絶やしにしといたから。しばらくは安全だと思う」
見れば、あちらこちらに結構な魔石が散らばっている。
結構襲ってきたもんなー。
襲ってきたのは返り討ち。
逃げたのも追いかけて倒したし、道中で見かけたのも倒しておいた。あとは気配のあった奴らも全滅させたし、ここら一帯で魔力を発しているのは私たちだけである。
これで危険なモンスターは、ほぼ死んだだろう。
魔石は持って帰ればお金になるのだが、ソロなのでそんなにたくさんは持って帰れないのがつらいところだ。
バッグを持ってこれば話は変わるが、動きの邪魔になるのでウエストポーチで済ませている。値段は安いけど中層くらいでとれるモンスターの魔石がサイズ的にも丁度いい。
魔石って純度が高いとサイズもでかいんだよな。
「中層モンスターを周囲一帯全滅………? Sランクでもほぼ無理。でも【大砂丘】【紫電】なら、私でもできるかどうか………?」
なにかぼそぼそ日乃宮ハルカが言っているが、どうしたんだろうか。
まあ体調もそろそろ戻って来ただろうし、そろそろ移動してもいいだろう。一応、ここは危険なダンジョンなのだ。
「ここじゃ、なんなので中層のセーフハウスに案内しますね」
「えっ!? はい、お願いします!」
そんなわけで彼女を中層のセーフハウスへ送り届けた。
他に人間もいるので、安全は確保されたも同然だ。彼女はここで迎えを待つとのことだった。
ぜひ、もっと自分と話をして欲しいと言われたが、これ以上知らない人間が彼女の配信をお邪魔するのも悪いだろう思ったので断った。
そのまま自分は用があるのでと言って、ダンジョンを上層へ向かって地上へ到達。
家に帰宅。
風呂に入って飯食って寝た。
はー、疲れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます