第4話 配信事故配信


 私は今、笑えているのだろうか。


「アリカさんもダンジョン用コンタクトをしてますよね?」

「は、はい………」

「じゃあ配信につながせてもらいますね!」


 ダンジョン用コンタクトとは読んで字の如くダンジョン用コンタクトである。


 つねに魔力と電波でオンラインと化しており、よほどの悪環境でない限り常にネットに映像を繋ぐことができる。本来はダンジョン内での犯罪防止の役割がつよいのだが、性能が高いのでそのままダンジョン配信にも使える優れものである。


 ダンジョン配信者はもちろん、その他探索者達も装備している。


 当然、防犯目的で私も装備しているのだが、今はその機能が恨めしい。


 いまからでも、配信勘弁してもらえないかな………。


 でも自分から空気壊すの気まずいしな。


 ああ、そうこう言ってる間に配信が繋がってしまった。

 

 視界の端に半透明のコメント欄が現れてコメントが流れ始める。

 日乃宮ハルカにアクシデントがあったからだろう、生存を喜ぶコメントや、安全を祈るコメントが凄まじい勢いで流れている。

 正直、下手をすると目で追えない勢いだ。


 これが世界規模の人気配信者の視界なのか。


 すごい。


 感心していると、配信ドローンが私を映し始める。


『だれ?』

『誰?』

『知らん』

『わからん』

『誰だろうとハルのんの恩人だろ。崇めろ、敬えよ。でも誰?』


 まあそんな反応だよね。

 

 光のオーラを放つ超絶美少女配信者ハルカから打って変わって、映されたのはロクに切ってもいない黒髪の地味高専女子である。

 私だってそんな反応するわ。


「紹介します! 私を助けてくれた命の恩人! アリカさんです! 拍手! ぱちぱち~!」

「………………」

「………あの、アリカさん?」

「っは!? ッフふふううっふ、伏見アリカです! ひいひ癒術師ヒーラーやってます!」


 あぶねぇ。


 人前にいること考えたら緊張で意識飛んでた。

 

 上手く話されなければ! 

 失敗してたら終わる、何が終わるかは知らないが終わってしまう。


「私は、日乃宮ハルカ! アリカさんと同じ迷宮高専生で、Sランクの剣士職させてもらってまーす!」

「あ、はい。知ってます………」

「今日は本当にありがとうございました! アリカさんがいなかったら、………きっと私死んでました」


 日乃宮ハルカが頭を下げる。

 合わせるようにコメント欄が急激に流れ始める。

 

『まじでありがとう』

『ハルのんとこうして話せるのは貴方のお陰です。本当にありがとうございます』

『サンキューな』


「あ、いえ。たまたま通りがかっただけなので………」

「正式なお礼は後日させてもらうので! その、アリカさんにお願いが」

「え!? ななっ、何ですか?」


 Sランク探索者かつ超絶人気配信者からのお願いって何!?


 こっちはFランクの底辺探索者なんだが?


 落ち着こう。


 日乃宮ハルカは人気者。

 つまり陽キャだ。


 そして私は陰キャ。


 陽キャが陰キャに頼むことといえば金貸して~とか、三十秒以内にポーション買ってこい、とか他人の尊厳をやや踏みにじるかつ、周囲から許される頼みごとが定石。

 日乃宮ハルカほどの陽キャなら――――――私の基本的人権全てを要求しても許されそうだ。


「うう、身ぐるみ全部で勘弁してください」

「なぜ服を脱ぎだすの!? やめて! 落ち着いて!」


 制服に掛けていた手を、大慌てで止められる。


『なんだこの女!?』

『突然脱ぎだそうとするな』

『さっきから目線が合わねーぞ』

『てか、よく見ると可愛くないか?』


 理不尽な要求じゃないなら、一体なんなんだろう。


 案外簡単なお願いなんだろうか。


「んん! アリカさんにお願いしたいのは、アリカさんのパーティメンバーを紹介してほしいんです! いまは席を外してるみたいですけど、お礼させてほしいんです!」





 ………んん?

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る