第3話 美少女をヒールする
「………ふう、こんなもんかな?」
汗をぬぐって、
いやあ、大変だった。
何せ治療中に、血の匂いでモンスターが襲ってくるのだ。
一時的だが片手間でモンスターを叩き潰しながら、治療をするというかなりスリリングな状況になってしまった。
だが、日乃宮ハルカの治療は完了した。
目に見える傷は塞いだし、欠損していた手足も生やした。少なくとも死ぬことはないだろう。
なんなら丁寧に回復を掛けたので傷跡一つない状態だ。
顔色もいくらかマシになったようで、今は穏やかな寝息を立てている。
「うーん、いつ見ても美少女だなぁ」
日乃宮ハルカは美少女である。
それも超ド級の。
整った顔立ちはもちろんのこと、小柄だが抜群のプロポーション、なにより日本人には珍しい白髪―――いや、銀髪のショートボブだ。
光属性の魔力が関係しているらしいのだが、とにかく浮世離れした容姿故に、その人気は絶大だ。
迷宮では、光の魔術を操り、日乃宮家の宝物『聖剣』を振るう姿は芸術そのものらしい。
ついた通り名は『聖剣遣い』。
かっこいい。
そんなわけで日本どころか世界規模の人気者。
男だけでなく、その凛々しい容姿からは女性ファンも相当な数に上るらしい。
一番熱いタイミングの配信では同時接続数が数百万を超えるとかなんとか。
なんというか凄すぎて意味が分からない。
「ぅ………ううん………?」
「あ、起きた」
ハルカが目を覚まして、体を起こす。
やべ、治療の邪魔だったから服脱がしっぱなしだったわ。
別にすっぽんぽんではない。
ないのだが、治療を終えて一息ついていたので、彼女の下着に、私の着ていた制服の上着をかぶせるだけの雑な扱いをしていた。
結果、落ちる上着。
晒される素肌。
「あれ、なんで服が………」
「ゴメン、私が剥いた」
「きゃああああああっ!?」
「声デカっ」
めっちゃビックリされた。
まあ、後ろから声かけたらそりゃそうなるか。
しかし、どうしよう。
起きて話すことを想定してなかったな。
ぼっちが初対面の相手と話すのは、相当にハードルが高いというのに。
え? 何から話せばいいの?
まずは自己紹介からだよね?
「え、ぇえ? ど、どなたですか………?」
「伏見アリカです。よろしく」
「え、は、はい日乃宮ハルカです。よろしくお願いします」
「…………」
「…………」
沈黙が場を支配する。
どうしよう。自己紹介が終わってしまった。
なにか、なにか話題を振らなければ。
「あっ、なんかいい天気ですね」
「天気………?」
思い付きで口走った私の言葉に、ハルカが上を見上げる。
ダンジョンの中でもここは洞窟地帯なので、当たり前のように空はない。よく考えたら天気関係ないわ。
アホかな?
いいえ、ぼっちです。
そもそも、会話をしようとしたのが間違いだったか。
諦め気味に彼女の服を持ってくる。
「これ、服です。治療のために一度脱がせました」
「あ、ありがとうございます!」
ハルカがいそいそと制服を着る。
が、全身ズタズタだったので、当然服もズタズタだ。
行き過ぎたダメージファッション状態に気付いたハルカが顔を赤くする。
「上着貸すんで、どうぞ」
「すみません………」
「あと剣と、配信ドローンもどうぞ、連絡とかしてください」
「っ、そうだ皆に伝えないと!」
ハルカがドローンを立ち上げる。
待ってましたとばかりに、配信用機械がふよふよと浮遊して飛び回る。
「みんなっ、わたし生きてますっ。心配をおかけしました! 場所はたぶん中層の――――――」
日乃宮ハルカが配信を通して連絡を取り始める。
映像コンタクトに流れるコメントにも返事を始めたので忙しそうだ。
よかったよかった。
まああとは何とかなるだろう。
じゃあ、帰ろっかな。
「手も、足も治ってます………! もう終わりだと思っていたのに、私を助けてくれた方がいるんです!」
日乃宮ハルカが駆け寄ってくる。
なんだろう、まだ用事があるのだろうか。
「あの、私と一緒に配信に出てもらっていいですか? その、皆さんに紹介させてもらいたくて」
「あっ、はい。………いや、ちょっと待っ――――――」
「ありがとうございます! 皆さんっ! この方がわたしの命の恩人、アリカさんです!」
なんかめっちゃ嬉しそうに話すので、条件反射で頷いてしまった。
だが、よく考えるとそれは、わたしが配信に映るという事だ。
ぼっち探索者のわたしが、超大物ダンジョン配信者の、超大規模な配信動画に映り込んだというわけだ。
そしたら何が始まると思う?
「えっ、あっ………初めまして………はは」
放送事故である。
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