第2話 我、ぼっちヒーラーなり
「はぁ、楽して強くなりたいな~」
薄暗い洞窟をてくてくと一人で歩く。
他人に聞かれれば笑われるような、馬鹿みたいな言葉をつぶやくが、どうせ誰も聞いていないので良しとする。
わたし、伏見アリカはぼっち探索者である。
探索者とは迷宮を探索し、資源や宝物を手に入れたり、魔獣を倒したりする者の総称だ。
私はその中でも特に希少とされる、凶悪な迷宮を単独で攻略する人間。
何者にも縛られない孤高のソロ攻略者である。
ちなみに、多種多様なモンスターが跋扈するダンジョンにおいて、死角を無くし短所を補い合うことができることから、探索者同士でパーティを組むのはほぼ常識だ。
必然的に安全度外視で一人でダンジョンを潜るという行為をする奴は、いかれた馬鹿しかいないというのが通説だが、私だけは違うと言わせてもらおう。
少し運が悪くパーティを組めなかっただけなのだ、私は。
ダンジョン探索者になった理由は、確か活躍して周りからチヤホヤされたいからとかだった気がする。
まだ純粋だったあの頃の私は、ウキウキで探索者デビューを果たしたのだが、自分が人と関わるのが少し苦手だという事を忘れていた。
一定の需要がある
何度かはパーティを組んだのだが、どれも続かずに解散したり、離脱してしまった。
そんなこんなで、迷宮専門高校の先生には学校始まって以来の逸材(悪い意味で)と言われてしまう始末である。
最初は悲しくて泣いた気もするが、今ではいい思い出だ。
いまでは一人で戦って、一人で傷を治して、また一人で戦う立派なソロ探索者だ。
最近はレベリングと称して、迷宮下層でモンスターを見つけ次第、片っ端から倒して回るのが趣味だ。
その日から月日が経ち「一人でも別に寂しくねーし? むしろ気楽だしメリットしかないでしょ」と思うようになった頃、今日も今日とてソロでのダンジョン潜行をしていると、大鬼と遭遇した。
滅多に中層には出てこないタイプのモンスターだったのでビックリしてしまった。
咄嗟に拳でぶん殴って鬼は殺したが、問題はこの後である。
「日乃宮ハルカさん、だっけ.........?」
学校の生徒が瀕死で転がっていた。
手足が千切れているし、顔も半分焼けているが、間違いなく日乃宮ハルカだった。
彼女のことは多少は知っている。
というか、ダンジョン配信という一大コンテンツの有名ライバーを知らない奴の方が少ない。
しかもSランク探索者。
超希少な魔力タイプである光属性の探索者として有名だし、迷宮高専では誰とでも仲がいい人気者だ。実力ある探索者としてパーティを組み、迷宮攻略に励んでいる、なにからなにまで私とは対極に位置する人間である。
同じ学校なので私も挨拶くらいはしたことがある。
挨拶くらいしかしたことないけどな!
まあ配信用の魔力ドローンも浮いているので間違いないだろう。
状況から察するに探索中に引き際を見誤ったか、何かしらのイレギュラーに巻き込まれたか。
どちらにしても一度の失敗で命を落とす。
ダンジョン探索ではよくある話だ。
だが、今回は私がいる。
「聞こえますかー、治療しますよー」
呼びかけながら、地面に転がる彼女を抱えて気道を確保。
装備に血が付くのは割り切って、彼女の身体を雑にまさぐる。
「四肢欠損と火傷、あとは刃物?で斬られたのかコレ。あとは毒? 内臓はみ出てるし.........」
診断を手早く済ませて、ゆっくりと頷く。
うん。
普通に致命傷だわ。
良識ある探索者なら救命じゃなくて介錯するレベルだ。
回復用の高級ポーションを使っても生きるのは難しいだろう。そもそもあれって持続回復系だから即効性はあんまりないし。
最初の頃は使っていたのだが、普通に自分をヒールする方がコスパがいいので使わなくなったんだよな。
「ひゅ………ふ………っ」
完全に意識を失っているし、呼吸が完全に末期のアレだ。
わりと一刻を争う状態だ。
たぶん今頃、大慌てで救援に向かうパーティとか組まれてるんだろうなぁ。
配信ドローンも位置情報は送り続けてるだろうし、救助隊もたぶん辿り着けはするだろうけど、その頃にはハルカは死んでるよなぁ。
「非常事態だから訴えないで………いや、訴えないでください!」
まずは主を心配するようにふわふわ浮いていたドローンを叩き落とします。
動かないように電源落として、ポケットに突っ込みます。
「よし」
これで目撃者はいなくなったのでオッケーです。
今からここは法の目が届かない完全な無法地帯のダンジョンとなりました。人が滅多に来ない下層なので犯罪とかなんでもやりたい放題です。
それでは遠慮なく服を脱がしていきましょう。
「いや違うんだよ、やましいことしてるわけじゃないし」
誰もいないのに早口で言い訳する。
今頃、配信は滅茶苦茶に荒れてるだろうなぁ。
だが、しかたないのだ。
治療とはいえ、日乃宮ハルカの素肌をネットの配信で流すわけにはいくまい。
女の子が気を失っている間に服を脱がして身体をまさぐるなんて、一発役満スリーアウトな字面だが治療のために必要な事なのだ。
そんなことより後でセクハラで訴えられないかの方が心配だ。
ダンジョン内でのヒーラーの地位は低いのでよく訴訟沙汰になる話は耳に入ってくるのだ。
「って、うわ。本当に酷いな」
全身ズタズタ、しかも巨大なナニカと戦ったのか、体半分が潰れている。生きているのが奇跡みたいな状態だ。
だが、
傷口を軒並み露出させたところで、さっさと回復魔術を使用する。
淡く輝く魔力を両手から発生させてながら、ふと気が付く。
「………そういえば他人治すの久しぶりだな」
大丈夫かなコレ。
普段は自分しか治療しないせいで、なんかうっかり変な治す方してしまうかもしれない。
まあ、丁寧に行けば大丈夫だろ。
治癒の光を纏った手を傷口に当て傷口を塞いでいく。
顔の火傷は割と浅いようなのでささっと修復する、はみ出た内臓は手持ちのポーションで洗って身体の中に戻していくのも忘れない。
雑に回復魔術を撃ちこんで治せなくもないが、どうせなら綺麗に仕事しておこう。
変に傷痕が残ると訴えられるかもしれないからな………。
「おっ」
死にそうだった日乃宮ハルカの表情が和らぐ。
どうやら死ぬことだけはなさそうだ。
あとは訴えられなかったら最高だよなーとか考えながら、少女の残りの傷の修復も手早く進めるのだった。
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