Fランクのぼっち少女探索者、実は史上最強の回復使い~根暗ですがSランク配信者を助けたらバズり散らかしました~
赤雑魚
第1話 配信事故
意識が______飛んでいた。
「う、ぁ............?」
身体中の痛みに少女の意識がはっきりしてくる。
視界に入るのは薄暗い洞窟の天井だ。
ずるずると景色がゆっくりと動いていることから、自分はナニカに引きずられているようだった。
視線をずらせば、頭に角を生やした巨人とでもいうべきバケモノが目に入った。
ダンジョンに棲む凶悪なモンスター。
その怪力と強靭な肉体による白兵戦はベテラン探索者ですら喰われかねないほどに強力で、パーティでの戦闘が推奨される危険種だ。
このモンスター、というより人型の魔物に襲われて負けたが最後。男は肉として食われ、女は繁殖に利用されるのは有名な話だ。
自分が足を掴まれて引きずられているのは______まあそういう事なんだろう。
(逃げるのは.........無理、かな)
常人ならば一目でわかるほどの傷を、少女はその身に負っていた。
顔の右半分に火傷、左腕部と右足を失っており、肩から腰にかけて巨大な斬痕が開いている。
重傷を通り越してすでに致命傷。
なんなら毒まで打ち込まれている。
まだ死んでいないだけでも幸運というべきなのが少女の状態だ。せめてもの救いは魔物に弄ばれる前に死ねるということだろうか。
『ヤバいって!』
『死ぬ! ハルのんが死ぬ!』
『早く救援こいよ!!!!』
『今でても中層に間に合わんだろ...』
『そもそも傷が………』
『終わった』
配信用のコンタクト越しにコメントが流れるのを、力なく眺める。
視聴者も混乱しているらしい。
コメント欄は阿鼻叫喚といった具合だ。
まあ、こんな放送事故になれば当たり前だが。
(どうして、こうなったんだっけ………)
いつも通りのダンジョン配信の筈だったのだ。
攻略メインの配信とはいえダンジョンの下層。
今回は情報収集も兼ねての探索活動。遭遇するモンスターも各々で対応できる実力もパーティメンバーの他二人にはあった。
ただ、想定外だったのはモンスターの異常な活性と襲撃だ。
突如現れた魔物の群れとの戦闘。視界を埋め尽くすほどの頭数に圧されたところを、突如現れた異常に強力な魔獣に襲われた。
なんとかパーティの二人は転移アイテムで逃がせたけれど、自分はこんな有様だ。
モンスターたちにズタボロにされ、オーガの戦利品にされている。
自分の手に残っているのは、最後まで折れることのなかった魔導剣だけだ。
回復薬も使い切った。
魔力ももう残っていない。
自分はここで孤独に死ぬ。
それだけを動けなくなったまま、不確かな意識の中で冷静に理解した。
『パーティを編成してる。すぐ助けに行く』
『ハルカ! 絶対に諦めないで!』
パーティ仲間のメッセージを見て、途切れ途切れに苦笑する。
流石にそれは無茶だろう。
彼女たちが転移したのは地上だ。
ここは迷宮攻略の最前線、魔獣の巣窟である第6層だ。どう頑張っても間に合わないのは本人たちもわかっているだろうに。
自分はここで終わりなのだ。
未練も悔いもあるけれど、どうにもならない。
じくじくと身体の熱と血液が失われるのを感じながら目を閉じる。
『まて、誰か来たぞ』
『救援か!?』
『いや距離的に野良パーティ!』
『この最深部に!? 一体どこの高ランクパーティだよ!?』
『助かるなら何でもいいよ!!』
暗くなる視界の端で人影を捉える。
それはハルカと同じ迷宮高専の制服を着た少女だった。
塗り潰したかのような黒の瞳、夜空を思わせる黒の長髪。なんの武器も持たずに、初めからそこに居たかのように彼女はそこに佇んでいた。
大鬼がどこか怯えたような唸り声を上げる。
なにか恐ろしいものを見たかのような、震えた鳴き声。
そこまでが限界だった。
ハルカが意識を失う瞬間、最後に見たのは黒髪の少女のブレるように動く手と、同時に弾け飛んだオーガの生首だった。
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