第6話 吸血鬼の戦い方
屋根の上から飛び降りてきたのは三人の吸血鬼たちであった。それらは黒い装いをして顔には仮面をつけていた。
「撒き餌だ」
そういったモルティム言葉の意味はアレシーにはわからなかった。意味について聞こうとしたがそれより早く敵が攻撃を仕掛けてきた。その手には短剣をもっていた。
「銀製だ。壊さないように気をつけろ」
そこは傷つかないようにしろではないのかと思いながらアレシーは敵の手首をつかみ攻撃を止めた。そのことに驚いた様子の敵は強引に抜き取ろうとしたが、力はアレシーの方が強いようで、以前、アレシーは手首をつかんだままだ。アレシーは敵の腹部へとけりを入れた。その衝撃でその敵は吹っ飛んでいったが、すでに残りの二人がアレシーに向かって短剣を振っていた。
両腕をあげて防御しようとしたが、それよりも前にモルティムによってその攻撃は止められた。
「それではだめだ。銀の武器を受ければ再生を阻害される。できるだけ受けるな。それにさっきの攻撃もだ。吸血鬼同士の戦いについては前に一度説明をしただろう」
説明を受けた記憶はアレシーの中にはなかった。
「知らない」
「いいか。不死に迫る再生能力を持つ吸血鬼を相手取るときは目、首、四肢のいずれかを狙え。動きを封じるのだ。殺しきるなど後から考えればいい」
モルティムは捕まえていた二人の吸血鬼をアレシーが蹴っ飛ばした一人の方へと投げ飛ばした。
「さあ、仕切り直しだ。安心しろ。こんな雑用を任されているようなやつらの力などたかが知れている」
再び、三人がアレシーたちに向かってくる。そのうち二人はモルティムの方へ向かっていった。アレシーはさっきの一人と再び対峙することとなった。
「目、首、四肢か。それに武器も注意しておかないと」
モルティムの教えを繰り返しながらアレシーは眼前の吸血鬼を見る。短剣を左手に構えている。そのまま踏み込みアレシーに向かって横なぎに剣をふるってきた。それを先ほどと同じように手首をつかみ止めようとしたが、すぐに右手による打撃を受けてしまった。そのうえ何かを持っていたらしく、がつぶされた。
「ぐあ」
思わず手首を話してしまうと、再度剣がふられる。残った右目だけでの対処は厳しいかと思い後ろに飛びながら一度よけ、敵の攻撃をかわすとすぐに再度踏み込み打ち下ろすように、敵を頭から殴りつけた。
「あがっ」
悲鳴のような声をあげながら敵は倒れ込んだ。この隙にと倒れこんでいる敵の左腕を踏みつぶした。
取れた腕から剣を奪うとそれを敵の首に向けて振りぬいた。胴と首が分かれた。これでいいのかと思いながらモルティムの方を見ると、すでに勝負終わっているらしく、倒れ込んだ二人の吸血鬼とただ悠然と立っているモルティムがそこにいた。
「そうだ。それでいい。基本的な吸血鬼同士の戦いというのは行動力の奪い合いと考えておけ。戦闘の最中に殺しきることなどよほどの実力差がなければ不可能だ」
「これでどうするの」
「殺しきるには幾つかある。まず銀の武器による殺傷。銀の武器による攻撃は傷の再生を阻害する。より簡単に吸血鬼の体内より血をなくし再生できなくなれば勝ちだ。その吸血鬼は死ぬ。他には心臓や頭を完全に破壊することでも可能だ。しかしその場合は純銀の武器な道具が必要になる。」
「純銀? これは違うの」
アレシーは奪った短剣を見せる。
「違う。下っ端に純銀を渡す奴はいない。最低限の阻害ができる程度に混ざり物が含まれているだろう」
「じゃあ、この場合はどうするの」
「少々時間はかかるがつぶしきれ。阻害されずとも傷がつけば少なからず血は出る。もう再生ができなくなるほどに攻撃を加えるのだ。こんな風にな」
そういったモルティムは転がっている吸血鬼の頭を完全に破壊した。次に胴体も蹴り上げると、その蹴りの威力に耐えられなかったのか、破裂するかのようになくなった。
「ここま完全にでつぶしきればいくら吸血鬼であろうとも再生はしない」
モルティムの真似をしてアレシーも転がっている吸血鬼の首を踏みつぶし、体の方も念入りにすりつぶした。
戦いが終わりアレシーはあたりの様子を見て少し考え込んだ。そこは血が大量に飛び散っていたうえに、壁もいくつも壊れている個所があったからだ。
「これって大丈夫なの?」
「何を気にする必要がある。どうせ俺の街ではないのだ」
みもふたもないが確かにその通りではあるとアレシーは納得した。
「それでなんでこいつらは私たちのことが分かったの?」
「別の血族の血にはわずかにだが差異があるものだ。それをかぎ取り警邏をしていたこいつらが来たということだ。」
「それって大丈夫なの。また襲ってきたりしたら」
「これだけ奴らのちが流れてしまえばもはや判別は困難であろう。お前のその目も早く治しきれ」
アレシーのつぶされた目はいまだ再生の最中であった。
「意識しろ。他のことに使っている血の力を再生することだけに集中させるんだ」
そう教わったアレシーは左目のあたりに力を入れてみた。そうすることで確かにだんだんと力が集中していくのが分かった。少ししてくるとアレシーの目は治った。
「ん。大丈夫」
「ならば飯にするぞ」
「おっ。血を吸いに行くの」
「馬鹿が吸血行為と食事はまた別だ。吸血鬼にも味覚はある。人間と同じ料理を食べたりもするのだ」
アレシーは少し残念であった。どうせならば、並以上の階級の血が飲みたかったからである。もしや吸血行為は贅沢に当たるのかもしれないとアレシーは少し不安になった。
血族たちの宴 ~新米吸血鬼が吸血姫と呼ばれるまで~ 蛸賊 @n22
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