第3話

僕の心臓が激しく鼓動を打つ。


リリィの手元から剣が抜かれ、その刃は微かな光を反射して鋭く輝いていた。


黒の衛兵たちも何かしらの動きを見せる。呼吸が一瞬、止まるような緊張感が辺りに漂っていた。


「君たち…一体、何をするつもりだ?」


僕は声を低くして言った。


ただの監視団ではないような気がしてきた。


明らかに僕たちを排除しようとしているのだが、いつ行動を起こすのか分からない。


すると黒の衛兵の一人が、わずかに鼻で笑った。


「特に何もしようとしていない。ただ、お前らのような存在が、どんな影響を与えるかは分かっている。お前らはただの…邪魔者だ」


その言葉に、僕の背筋が凍る。


異世界に来たばかりで、どうしてそんな風に「邪魔者」と見なされるのか、全く理解できなかった。


しかし、その言葉の裏には何か重大な意図が隠されている気がした。


リリィが僕に向かって一瞬視線を投げ、軽く頷く。


彼女はもうすでに覚悟を決めているようだった。


僕はさらに警戒を強めるとともに、心の中で次の行動を冷静に考え始める。


「僕たちはただ、街に向かっているだけだ」


僕はそう言ったが、その言葉がどれほど無力かは分かっていた。


黒の衛兵たちは、そんな理由では納得しないだろう。


「街?」


黒の衛兵の一人が、皮肉っぽく口を歪めた。


「お前たちのような存在が街に入ることが許されるとでも思っているのか?」


その瞬間、僕の脳裏に一つの疑問が浮かんだ。


もしかすると、この世界には異世界から来た者、つまりよそ者を排除する仕組みがあるのではないか?

そもそも、どうして僕が異世界人だと知っているのだ?


リリィは関係ない。狙われているのは明らかに僕だ。


僕はリリィに視線を送り、わずかに首を振った。


無駄な争いを避けるため、少しでも情報を引き出す方がいいと感じたからだ。


「君たちが監視しているのは、単に『よそ者』だけじゃないだろう?」


僕はゆっくりと問いかけた。


「何か、もっと大きな理由があるんじゃないか?」


黒の衛兵たちの中で、冷ややかな笑いが漏れた。


「よく気づいたな、小僧」


その声には、少し驚きが混じっていた。


「だが、言っても無駄だ。お前が何を知ろうとも、お前がここで生き残ることはない」


その言葉に、リリィの手元から微かな魔力の波動が漂い始めた。


それは彼女の剣から放たれる力で、まさに一触即発の状況が訪れようとしているのを感じ取った。


「いい加減にしろ!」


リリィが突然、大きな声で叫びながら剣を振りかざした。その瞬間、剣から放たれた魔力が空気を震わせ、一瞬のうちに周囲の木々がざわめいた。


「お前たちがどうしても戦いたいなら、構わない。今すぐ覚悟を決めなさい」


リリィは剣を構え、戦闘態勢に入った。


僕は彼女の横顔を見つめ、少しだけ心を落ち着けながら思った。


この場面での戦闘は避けられないかもしれない。ならば、最初に動かねばならない。


ごめん、リリィ。

この状況に巻き込んでしまって、本当にすまない。


「リリィ!」


僕は低く叫び、彼女に指示を出した。


「後ろから僕が錬金術で君を援護する!」


その言葉を聞いたリリィは、すぐに身をひるがえして黒の衛兵たちとの距離を縮め、素早く一人に向かって駆け出した。


彼女の足元から、魔力の渦が立ち上がり、剣がその力を増幅させる。


同時に、僕はバッグから今から繰り広げる戦闘で最も役に立つ道具を取り出し、素早く準備を整えた。


「行け!」


リリィの一閃が、黒の衛兵の一人を切り裂こうとする。


衛兵たちはそれに対抗するかのように、手にした武器から黒い魔力を放ちながら、次々と動き出す。


僕はその隙を狙って、バッグから取り出した材料を調合し、その一瞬の隙にリリィがもう一度剣を振りかざす。


戦闘の幕が開けた。



黒の衛兵団は合計で10名。


リリィの剣が空気を引き裂き、黒の衛兵の一人に迫る。


その瞬間、衛兵は素早く横に身をかわし、剣の切っ先が地面を打つ音が響いた。


しかし、その動きはほんの一瞬の隙に過ぎなかった。


僕はその隙を見逃さず、手に持った材料を一気に調合し、即席で魔法の粉を作り出す。それをリリィの背後に瞬時に放った。


「リリィ! 粉の中に入れ!」


僕の声に反応して、リリィはすぐさまその魔法の粉を踏み込んだ。粉が足元で爆発し、瞬時に周囲に白い煙が立ちこめる。


その煙は視界を遮り、黒の衛兵たちは一瞬動きを止める。


その瞬間、リリィは自らの位置を変え、煙の中から疾風のように一閃を放った。


煙の中でも、彼女の剣から放たれる魔力は驚異的で、まるで視界を越えて、敵の動きを予知しているかのように正確に突き刺さる。


一人の衛兵がその一撃を受け、悲鳴を上げながら後退するが、すぐに魔力を集中して立て直そうとする。


しかし、リリィはその隙を見逃さない。


「動きが鈍いぞ!」


彼女の声が、煙の中から響く。


それと同時に、再び剣が振り下ろされ、もう一人の衛兵の防御を打破する。


仲間が圧倒されていることに気づいたもう一人の衛兵も動こうとしたが、僕の手から放たれた次の錬金術の攻撃が地面を震わせ、その動きを止める。


「くそっ!」


衛兵の一人が舌打ちをしながら、手にした魔法の杖を空中で振り回すと、黒い魔力が一気に集まり、広範囲に広がる衝撃波を放った。


「リリィ、下がれ!」


僕はすぐさまその波動を察知し、彼女に警告を送る。リリィはすぐにその場から跳躍し、危険な範囲から飛び出した。


だが、衛兵の魔力攻撃は続く。地面を抉り、周囲の木々を根こそぎ引き裂いていく。


「間に合わない!」


そのとき、僕は急いでさらに一手を打つ。


この世界の自分の記憶を最大限まで振り絞りながらバッグの中から特別な材料を取り出し、それを一気に調合して大きな瓶に詰め、魔力を注ぎ込む。


これが『壊れた魔石の欠片』を含んだ『爆薬』。爆発すれば、煙にいるもの全員が魔法を使えなくなる。


名付けて『魔法封印薬』。


周囲の魔力を一時的に封じ込めるポーションだ。


「リリィ、今だ!」


僕はその瓶を力いっぱい投げ、空中で破裂させる。瞬間、周囲の魔力が吸い込まれ、あたりの空気が静寂に包まれる。黒の衛兵たちが魔力を使えなくなり、動きが止まる。


「これで少しは足止めできるはず!」


リリィはすぐさまその隙に飛び込み、一気に最後の一撃を放つ。


衛兵の一人がそれを避けようとしたが、リリィの鋭い眼差しと剣の動きに反応する間もなく、その剣は確実に目標を捉えていた。


地面で動けなくなっている仲間と同じように、衛兵は地面に倒れ込む。


これで全員、戦闘不能にさせることができた。


一瞬、静寂が広がり、僕たちはその場に立ち尽くしていた。


リリィが息を整えながら、僕の方を振り返る。


「どうやら…すぐには終わりそうにないわね」


僕はその言葉に頷きながら、周囲を警戒した。


黒の衛兵はまだ完全に倒したわけではないが、少しだけ休憩ができるようになった。


「とりあえず、次の一手を考えよう」


リリィは剣を鞘に納めながら、少しだけ肩をすくめた。


「わかったわ。今のところ、私たちはどうしても戦わなければならない運命にあるみたいね」


その言葉が、これから向かうべき道を暗示しているように感じた。


敵は明らかに僕たちを排除しようとしている。


だが、どんな目的で、そして誰のために—それはまだ謎のままだ。


「行こう。次に進まないと、今度はもっと手強い連中が待っているかもしれない」


リリィはそう言って歩みを進める。その背を見送りながら、僕も歩き出した。


まだ、僕たちには分からないことが多すぎる。だが、確かなことは一つだけ。


これからの道のりは、予想以上に厳しいものになるだろうということだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界転移、今回は錬金術師として成り上がります! 鏡つかさ @KagamiTsukasa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ