第2話
二人はしばらく無言で歩き続けた。
足元に広がる草むらが静かに揺れ、木々の間から差し込む陽光が、時折二人の顔を照らす。
だが、先ほどの戦闘の余韻が心に重くのしかかっていた。
「さっきの魔物、やっぱりおかしかったね」
と、リリィがふいに口を開いた。
「うん…あんなに強い魔物は、見たことがない」
とはいえ、魔物や魔法はファンタジー小説などによく登場するものだと思うが、リリィの言葉を聞いた限りでは、少なくともさっきのような魔物が存在するはずがない。
「それに、あんなにしつこく襲いかかってきたのも…」
リリィは視線を少しだけ前に向け、言葉を続けた。
「なんだか、私たちを狙ってるみたいだった。偶然じゃない気がする。」
僕は黙って歩きながら考え込む。この異世界に転移してきてから、あまりにも多くの不確定要素が多すぎる。
魔物が出現したこともそうだが、魔法や錬金術の力が通じる世界だということ自体が奇妙だ。
「もしかしたら、あの魔物もただの獣じゃなくて…誰かの召喚獣だったのかもしれない」僕がつぶやいた。
「召喚獣…?」リリィが目を見開いて僕を見た。
「うん。何か大きな力があの魔物を操っている可能性がある。動物が単独で動くのではなく、誰かの命令で動いている感じがした。」
リリィは一瞬、足を止めて考え込み、そして再び歩き始めた。
「それなら、私たちが森を出る前に、もっと危険なことが起きるかもしれないね。」
「そうだな…だからこそ、早く街に着いて、安全な場所を確保した方がいい。」
僕は周囲に注意を払いながら歩き続けた。
その時、ふと前方に小道が現れた。草木が自然に開けてできたような道で、明らかに人の手が加えられた痕跡があった。
道の脇には簡単な看板が立っていて、僕が見慣れない文字が書かれていたが、なんとか文字が読むことができた。
「街が近いみたいだ」
僕はその看板を指さして言った。
リリィは少し安心した表情を見せ、頷いた。
「良かった…この先に街があるなら、もう少しだね。」
だが、その安堵も束の間、再び何かが近づいている気配がした。背筋を冷たい汗が流れ、足音が少しだけ速くなる。
「またか…」リリィがつぶやく。
「気をつけろ、リリィ」
僕は声を低くして言った。
その時、再び草むらから不穏な気配が立ち込めた。
さっきの魔物のような獣ではないが、何か不安を煽るような力が僕らに迫っている。
リリィもその気配を感じ取ったのだろう、手に持っていた剣をしっかりと握り直した。
「今度は、何が来るんだ…?」
そういうと、直ちに、道の先から黒い煙が立ち込め、視界が一気に覆われた。
煙の中から浮かび上がるように、複数の影が現れた。
「人間…なのか?」
僕は驚きとともに声を上げた。
煙の中から現れたのは、どう見ても人間の姿をした一団だった。
しかし、その目つきや装い、そして彼らが持っている武器から放たれる威圧感は、普通の人間とは思えなかった。
「よそ者か…」
その中の一人が低い声で言った。
リリィが一歩前に出て、警戒を強める。
「あなたたちは、誰?」
その問いに、男性の一人が冷ややかに笑った。
「俺たちは『黒の衛兵』。よそ者を監視するように努められてる者だ」
僕はその言葉に耳を澄ませ、すぐに状況を理解した。
『黒の衛兵』という名は、どうやらただの軍隊や冒険者団ではなく、もっと異常な存在のようだ。
彼らはよそ者、つまり異世界から来た者たちを監視し、あるいは…排除する者たちのように思えた。
「よそ者の監視?」
とリリィが言った。
その問いに対して、黒の衛兵の一人がゆっくりと答えた。
「そうだ。お前の友達みたいなよそ者をね。あいつみたいなヤツら、すごい力を持つ者が多い。だから我々は、その動向を探るために活動している。」
「すごい力を持つ者…」
僕はその言葉に疑問を感じつつも、警戒を緩めなかった。
「あなたたちは、何を求めている?」
その質問に、黒の衛兵の一人がわずかに唇を歪めた。
「ただ、お前の存在が危険かどうかを確かめるだけだ。」
その瞬間、僕は再び心の中で警戒を強めた。この一団が、ただの監視団体であるはずはない。彼らの言動からも、何か裏があることが感じ取れる。
「リリィ!」
「わかってるわよ!」
言うと、剣を抜くリリィ。
異世界に転移してからたった30分しか経っていないのに、もう知らない奴らに命を狙われている。
帰りたい。
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