異世界転移、今回は錬金術師として成り上がります!
鏡つかさ
第1話
目を開けた瞬間、身体が重たく感じた。
冷たい空気が肌を撫で、足元に広がる土の感触が新鮮だ。
耳を澄ませば、森のざわめきと、どこからか鳥のさえずりが聞こえ、風が木々を揺らしている。
その全てが、僕が今まで知っていた世界と違う場所であることを物語っていた。
僕、桂木隼人は、確かに自分の部屋の中にいたはずだ。しかしどこを見ても明らかにここは自分の部屋ではないことに気づく。
目の前に広がる景色は見たことがないものばかりだし、空の色さえも違う。頭をかすめる不安を振り払うために、深呼吸をしてみる。
「落ち着け自分」
自分の声が森の静けさに溶けるように消えていった。
心臓の鼓動が激しい。
もしかしてだけど、
「異世界に転移した、のか?」
そう、記憶が物がっている。
目の前に広がる景色も確かに異なる世界のものだ。
それも、ただ異世界というだけではなく、未知の魔法や技術が息づいている世界だと、僕は実感することができた。
体を起こし、周囲を見回す。
僕が目を覚ましたのは、森の中だった。
木々が高く、葉は濃い緑色で、まるで時間が止まったかのように感じる。
だが、僕はこの場所にいるだけでは何も始まらないと分かっていた。
せっかく別世界だし、探索でもしようか。
そう決めると、身の回りを整理し、持っていたバッグを取り出す。
中には、記憶によれば僕が最も頼りにしていた錬金術の道具がしっかりと収められていた。
瓶や瓶の中にはさまざまな液体、鉱物、そして一度も使ったことのない植物が詰め込まれている。
どうやら、この世界でも錬金術の知識が通用するらしい。少なくとも、僕にとっては希望の兆しだ。
「まずは材料を集めるところからだな」
そう呟きながら、僕は歩き始めた。
◇
近くにある草むらや木々の下を探りながら、さまざまなポーションを作られるために必要な素材を見つけていく。
材料には僅かな魔力があることに気づいた瞬間、僕の内側で何かが震える。
魔法と錬金術は密接に関係している。僕のような錬金術師にとって、それらの力はもはや日常の一部だ。
しばらく進んだところで、ふと足を止めた。視線の先に、倒れている女性が見えた。長い髪が乱れ、服は引き裂かれている。
傷だらけの体に、血が滲んでいるのが見て取れた。すぐに駆け寄り、その様子を確認する。
「しっかりしてくれ!」
思わず声を掛けると、女性の瞳がわずかに動いた。息を荒げ、目を開ける。
だが、彼女の体調はひどく衰弱している。傷口が深く、治療を急がなければ命に関わるだろう。
「……回復薬があれば、少しは持ち直せるか」
僕はすぐにバッグを開け、数本の瓶を取り出した。特に回復力の強い薬草を使ってポーションを調合し始める。
錬金術の知識を駆使して、血の止まった傷を癒やし、体力を取り戻させるための薬を作り上げる。
その間、女性はじっと静かにしていたが、息が落ち着いてきたのがわかった。
「これで少しは楽になるはずだ」
薬を女性の唇に流し込むと、彼女はうっすらと目を見開き、次第に顔色が良くなっていった。驚いたことに、回復の速度は非常に早い。ポーションの効果は絶大だった。
「あなた…一体?」
女性の声がかすれながらも聞こえた。
その瞳に、感謝とともに疑念が浮かんでいる。だが、彼女が話し続ける前に、僕は答える。
「僕は桂木隼人。錬金術師だ」
彼女は少し驚いたような表情を見せ、しばらく黙っていたが、やがてゆっくりと顔を上げた。
「……錬金術師か。私はリリィ、冒険者をしている。ありがとう、助かったわ」
リリィと名乗るその女性は、もはや痛みを感じなかったか、ゆっくりと立ち上がろうとしたが、まだ足元がふらついているようだった。
僕は倒れる前に彼女を支え、立ち上がるように手伝う。
「無理をしない方がいいよ。僕が君にあげたのは効果があまり強くない回復薬だ」
つまり回復薬(弱)。
もっと強い回復薬を作るための材料が足りなかったので、彼女の命に別状がない程度の薬を作った。
「そのまま一人でこの森を脱出するのは危険。近くの街まで見送るので一緒に行こう」
そう提案すると、リリィは少し考え込み、やがて頷いた。
「街か……うん、わかった。街行こうか」
そう言うと、僕と一緒に行くことにした。
二人で森の中を進むこととなった。
目的地は、近くにある小さな街だ。だが、何故かわからないが、途中で何かが起きるような気がした。
周囲が静まり返り、何かが僕らの行く手を遮ろうとしているような気配がした。
「気をつけて。何かが近づいている」
僕の警戒心が鋭く働く。リリィもその気配に気づいたのだろう、視線を鋭くして辺りを見渡している。
「何か……」
その言葉を聞いた瞬間、暗闇の中から何かが迫ってきているのを感じ取った。
「来る……」
次の瞬間、闇の中から不穏な影が現れ、僕らに襲い掛かってきた。
僕の心臓が高鳴る。
◇
闇の中から現れた影は、漠然とした形をしていた。
目の前に現れると、急にその姿が鮮明になり、巨大な黒い獣のような姿が浮かび上がった。
鋭い爪を持ち、異常に大きな牙が口から覗いている。
その目は赤く、血のように光り、僕らをじっと見つめていた。
リリィが小さく息を呑んだ。
「この魔物…見たことがない…!」
その声は震えていたが、冷静さを欠くことはなかった。
僕も、錬金術師としての直感で、それがただの魔物ではないことがわかった。
これはおそらく、魔法によって生み出された存在だろう。まるで僕らを狙って、この森に潜んでいたかのようだ。
「くっ、仕方ない!」
僕はバッグから錬金術の道具を取り出し、素早く反応する。
記憶によれば、錬金術の戦い方は主にさまざまな効果を持つ薬を作って攻撃することだ。
そして真っ先に頭に浮かんだのは爆薬とその作り方。
爆薬を作るには土と『爆虫』が必要だ。
幸いなことに、バッグの中にはちょうど「爆虫」がたくさん入っていた。ひとつ取り出し、次に周囲の土を集めて、二つの材料を調合し、魔力を注ぎ込む。
これで簡単な爆薬を作ることができた。
戦いの中で錬金術を使うことはリスクが伴うが、今の時点ではそれしか方法がない。
「リリィ、後ろに下がれ!」
リリィは一瞬戸惑ったが、すぐに僕の指示に従い、後ろに退避する。
その間に、僕は手にした瓶を振りながら中身を調整し、爆発を引き起こす準備を整えた。
できた瞬間、瓶の中から強い光が放たれ、静かな空気が一変する。
「来い!」
僕はその瓶を、魔物に向かって投げつけた。瓶が地面に落ちると、激しい爆音とともに、強烈な光が魔物を包み込んだ。
魔物は一瞬驚いたように後ろに跳ねたが、すぐにその姿勢を立て直し、再び僕らに向かって牙をむき出して突進してきた。
だが、その間にリリィが素早く動いた。
彼女は手にしていた剣を抜き、力強くその身を魔物に向かって投げ出した。
その剣はまるで魔法のように輝きながら、魔物の腹部を貫いた。
「今だ、ハヤト!」
その瞬間、僕は再度錬金術を使い、今度は矢を作る。
弓はないが、僕が持っている唯一の魔法、『フォース』を使えばなんとかなる。
土から作り出した鋼鉄の矢を『フォース』を使って一気に魔物に向かって放った。矢はまっすぐに魔物の胸部に突き刺さり、その身を震わせながらようやく倒れ込んだ。
「う…うまくいったか…?」
リリィが息を切らして言った。
彼女の顔は汗だくで、体力を消耗している様子だったが、何とか魔物を倒すことができたようだ。
僕も肩を大きく上下させながら、安堵の息を吐く。
「大丈夫か? リリィ」
僕が声をかけると、彼女はふらふらと立ち上がりながら、頷いた。
「うん、なんとかね。ありがとう、ハヤト。また君に助けられたわ。でもさっきの魔物、なんだったのかしら。わたし、見たことがないし」
リリィの言葉に、僕は言葉を詰まらせた。
確かに、これほど強力な魔物が出現するということは、何か大きな力が働いている証拠だ。
異世界に転移したばかりで、まだ全てが分かっていない僕にとって、この世界の深い部分には何かが隠されていると感じ取ることができた。
「そあな。とりあえず、また何かが出る前に、早く行こうか…」
「そうだね」
そう言うと、二人は再度、歩き始めるのだった。
しかし二人は見ていない。
大きな木の後ろに身を隠している人物が。
「異世界の転移者よ。わたしの計画に邪魔させるわけにはいかない。覚悟しなさい」
そう人物が言うと、その姿を消す。
これから何が起こるのか、隼人はまだ分からないが、確実に、この世界には自分の知らない何かが待ち構えている。
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