第5話 親への報告

心夏の涙がおさまり帰宅しようと動き始めた時、重大な事に気づく。


「てか、じぃちゃん父さん達に話してあんの?」


空気が一瞬凍りついた気がするが、あっけらかんとじぃちゃんは俺にウインクしてくる。


「いや、まだじゃよ!

話せば分かるから、今日言っておけ!」


「このクソジジイ、いつまでも俺に任せやがって」


「安心せぇ、反対なぞされんから。

じゃ、伊集院殿我が家で1杯やりましょう」


「はぁ?なんだそれ……」


「えぇ、それはもちろん。

心夏はどうする?」


「えっ、んー、家に帰ろうかな!」


家に帰るのが憂鬱になりながらも、全員で玄関に向かい外に出る。あっという間に陽が落ちており、少し肌寒い。照光さんが鍵を掛け、その鍵を俺に渡してきた。冷たい金属の重みを感じ、俺の心も少し重くなる。


「この鍵は遊星くんに、家に帰ったら心夏にも渡しておくよ。」


「無くさないようにします」


「よろしく頼むよ。

この生活で困ったことがあればなんでも言ってくれ、これが連絡先だから」


照光さんは名刺を渡してきた。そこには会社名と肩書きである代表取締役会長と印刷されている。思わず名刺と照光さんの顔を交互に見てしまう。


「えっ……、こんな人がなんでじぃちゃんの知り合いなんですか」


「ははっ、細かい事は気にしないでくれ」


「細かくないです!!

でも、まぁ、色々納得しました……」


「暇な老人だからいつでも連絡してくれ。

じゃあ、そろそろ行こうか」


名刺を無くさないように財布に仕舞い、先に歩いている3人に着いてエレベーターに乗る。狭いエレベーターで心夏と肩が少しぶつかり、目が合う。微笑んでくる、心夏に目が離せず胸が騒ぐ。


チーン


エレベーターが到着を告げ、我に返る。早く広い所に行きたくて先に出たじぃちゃんの後を早歩きで追い、エントランスから外に出ると1台の黒い車が止まっていた。不思議に思っているとエントランスから遅れて出てきた心夏に照光さんが声をかける。


「心夏、あの車で家まで帰りなさい」


「うん、……ありがとう。

皆さん、お先に失礼します!」


車の用意まであるなんて、生活レベルの違いを感じる。心夏は車まで歩き俺らに会釈をした後、そのまま扉を開けて乗り込んだ。

そのまま車が走っていくのを見送り、俺らも解散する。

さっきまで騒がしかったせいか、肌寒い夕暮れの帰り道は少し寂しく感じる。


───────────────────────


家に着くと、夕飯が出来ているのか美味そうな匂いがしてくる。靴を脱ぎそのまま匂いのする、リビングに行くと家族全員集合となった。

まだスーツ姿で席座っている父『泉原康介イズミハラコウスケ』と、出来上がった料理を運んでいるエプロン姿の母『泉原明美イズミハラアケミ』。


「あら!遊星、お帰り!」


「母さんのご飯出来てるぞ、遊星も早く座りなさい!」


「もう、お父さんったら急かさないの!」


「ごめんごめん、温かいうち食べた方がもっと美味しいと思って」


料理を運び終わった母さんはそのまま父さんの隣に座り、料理を取り分けてあげている。

まぁ、この会話で何となく察してほしいが2人は結婚して18年目なのにラブラブなのだ。息子がいようと関係ない程に。


「とりあえず、手洗ってくるわ」


「うん、早く戻ってきなさい」


「へいへい」


生まれながれにずっとあの調子だが、思春期の息子にはちょっとしんどい。それに今日はいつもと違って、報告しないといけないこともある。少し落ち着きを取り戻し、リビングに戻り2人の対面に座る。


「お待たせしましたー」


「「「いただきます」」」


母さんが作ってくれた料理を食べ、もう食べる機会が少なくなるのに少し寂しさを感じる。


「母さんの料理、やっぱ上手いな」


つい出てしまった言葉だが、父さんと母さんは驚いた顔をして心配してきた。


「遊星がそんな事言うなんて、明日雪でも降るんじゃ……」


「いつもならばーって食べて終わりなのに!」


「なんだよ、人が折角褒めてんのに!」


「もちろん嬉しいけど、急にどうしたのよ?」


2人とも首を傾げ俺を見てくる。今が言うチャンスだと思い、箸と茶碗を置く。


「あっ、あのさ……。

今日じぃちゃんに呼び出されて、その、違う所で住めって言われてさ」


「「………?」」


「じぃちゃんが勝手に決めた婚約者と1年間住むことになったんだ!!」


「「えーーー!!」」


2人とも席から立ち上がり、あたふたしている。


「何それ、お義父さんからなんも聞いてないけど!!」


「この間会った時も相談さえされなかったぞ!」


「俺だって今日初耳だったよ!

でも、じぃちゃんは2人共反対せんとか言ってたけど……」


「あんのクソジジイ……。

私達の可愛い息子に何してんじゃ」


「母さん!ちょっと落ち着いて!」


若くして結婚した2人。特に母さんはまだ若い頃の血が騒ぐようで、父さんが必死に抑えている。


「あとで、話聞いとくから遊星はご飯食べたら部屋戻ってなさい!」


「あっ、わかった」


「クソジジイ……、最近大人しくしてたと思ったらあの野郎」


「母さん、戻ってきてぇ……!」


母さんの怒り姿を見ながら、急いで夕飯をかきこむ。

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引退した元国民的アイドルのNEXTSTAGEは俺の嫁!?〜生活力0な嫁との結婚生活(仮)〜 花見 はな @secret-garden

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