第4話 ルール決め

落ち着きを取り戻し、全員集合で話し合いを進めていく。進行役は照光さんだ。


「これからの事を決めていきたいと思うんだが、一緒に住む上で婚約者だとしても最低限のルールがあっても良いと思っていてね。2人はどう思う?」


「それはもちろん必要だと思います!

あと、まだ婚約者の件は了承してません!」


「わ、私も、ルールはあった方が良いと思う」


流石にここは伊集院と意見が合い安心する。ただ、うちのじぃちゃんだけが口を挟んできた。


「ゆくゆくは結婚するんだ、ルール等決めても意味無いじゃろ」


ニヤニヤした顔で言ってくるのもまたムカつく。反論しようとしたら、意外な事に照光さんが間に入ってくれた。


「まぁまぁ、康元さん。ルールを決めた上で過ごした後にルールが無い状態で過ごすと新たな発見もあって倦怠期にならなくて良いんですよ」


「……倦怠期?

伊集院殿がそう仰るならよく分からんが、お任せします」


「ありがとうございます」


じぃちゃんが馬鹿で初めて良かったと思えた。これでしっかり話を進めることができる。


「皆の同意を得られたから、ルールを作ろうと思うが内容は2人に任せたいと思っていてね。

出た案はそのまま部下に言って、書面にしてもらうから安心してほしい」


部下とか書面とか色々ツッコミたい所はあるが、内容を全部投げられると悩むな。

つい腕組みをしながら悩んでいると横にいる伊集院が手を真っ直ぐ上げ、アピールしている。


「じゃあ、心夏から」


「はい!そのお互い呼ぶ時、名前で呼ぶのはどうですか??」


「はぃぃぃぃ??」


「だって、これから一緒に住むから名前の方が良いかなって!」


伊集院は少し照れくさそうにしているが、こっちは異論ありまくりだ。


「だとしても暮らしていくためのルールにはならんだろ!」


「いやいや、遊星くん。

一緒に暮らす中でコミュニケーションは大事だよ、名前呼びはルールに入れよう」


「やったぁあ!おじぃちゃん、ありがとう!!」


「この……孫バカめ!」


とんでもなく伊集院側に有利なルール設定になる気しかしない。

希望通りにルールが通った伊集院は俺の方を向いてくる。


「あの、遊星くん。

私のことは、その、心夏って呼んで欲しいな」


こてんと首を傾げ言ってくる姿は、流石にくるものがある。普通の男子高校生には刺激が強すぎて、素っ気ない態度で伊集院から目を逸らしてしまう。


「………分かった」


「………うん」


伊集院はしゅんとしてしまい、体を元の姿勢に戻してしまった。その姿に少し罪悪感を持ちながら、話し合いの続きに参加する。照光さんは何か言いたそうだったが優しく見守ってくれた。


「名前呼びは徐々に慣れていけば良いと思うよ、さてと他に何かあるかな?」


「じゃあ、掃除担当だとしても互いの部屋には入らないとか」


「そうだね、それもルールに入れよう」


「私、家事全般出来なくてそこはどうしたら?」


引き続きしゅんとしているがしっかりとした意見を出してきた伊集院。

確かにそこは悩みどころだ。さっきのハンカチの件も考えるといきなり分担しても、俺と家が無事ではすまない。覚悟を決め、今度は俺が伊集院の方を向く。


「仕方ねぇ、暫くは俺と一緒に家事するぞ」


「えっ??」


「まだ、春休みで時間あるし学校始まるまでの間は俺が一緒にやる。

いきなり1人なんて心配で任せられないしな」


「心配……。でも、遊星くんの迷惑じゃ」


「いいんだよ、一緒に住むって決めたのは俺だし家事やるって言ったのも俺なんだから!」


「ありがとう……遊星くん」


「おう」


小っ恥ずかしくなって正面を向くと見守り続けてくれた照光さんと目が合った。にこりと笑い話を進めてくれた。


「じゃあ、ある程度方向は決まったようだね。

適宜追加してもらったり変更して良いから、ただ1つだけ私からもルールを設定したい」


「「1つ?」」


「あぁ、夕食後必ず30分は毎日リビングで一緒に過ごして欲しい。

各自部屋で過ごすのは自由だが、同じ所で生活していくのだから歩み寄りも大切だと思ってね」


俺らの事を気にかけてくれているからこそのルールなのだろう。このルールには異論なんて出来なかった。


「分かりました。そのルール設定で!」


「うん、私も賛成!!」


「2人ともありがとう。

では、今決めた事はまた書面で送るから確認してくれ」


「ふぅー」


とりあえず一段落はついた、これからが怒涛の生活になる事は間違いない。あとはもう1つ今日中にやる事がある。俺は隣で少し気を抜いている伊集院の方にもう一度向く。


「さっきは素っ気なくしてごめん!

これからよろしくな、……心夏」


急な事で驚いた心夏は体を少し引いたあと、今日何回目か分からない涙目になり声を少し震わせている。


「うぅ〜、ごぢらごぞ、よろじぐおねがいしますぅ」

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