第7話 ヒロインと出会いました
勢いよく駆け込む僕。
まだちゃんと使ったことのない《身体能力強化》のスキルを自身にかけ、少女とモンスターの間に割り込む。
そして――
「ぐっ!」
振り下ろされた豪腕を、素手で受け止めた。
『ガゥッ!?』
虎型のモンスターは、信じられないものを見る目を僕に向ける。
「え、うそ……!?」
少女は、僕の後ろでへたり込んだまま、呆けたような呟きを上げていた。
自分でも、そんなまさか? と思う。
とりあえず肉壁にでもなろうと《身体能力強化》をかけて割り込んだが、少し腕が痺れる程度で済んでしまった。
レベル1のときは、50mを1秒早く走れるくらいの強化幅でしかなかったのに、とんでもない成長ぶりだ。
『グゥアアアアアアアアッ!』
獲物を狩り損ね、激高したモンスターが吠える。
そのまま、反対の腕を力一杯振るってくるが。
「せいっ!」
こちらも今度は反撃に出る。
振り下ろされる腕にカウンターを合わせるようにして、右腕を突き上げる。
ぶつかる爪と拳。
僕の拳に触れた虎型モンスターの豪腕が、あらぬ方向に折れ曲がる。
『グワッ!?』
「悪いけど、家の近くで暴れないでくれ!」
今度は《絶対斬撃》のスキルを腕にのせ、怯んだモンスターに踏み込んで手刀を振るった。
――たった、それだけだった。
あらゆるものを切り裂く権能を宿した腕は、自慢の牙諸共モンスターの首を切り落とし、断末魔を上げる間もなく絶命させてしまった。
「あ、やば」
僕は冷や汗を流す。
殺してしまったのはやり過ぎだっただろうか?
《絶対斬撃》……う~ん、使いどころは考えた方がいいかもしれない。
「まあいいか」
僕は、背後でまだへたり込んでいる少女を振り返った。
非常に可愛らしい子、というのが第一印象。
燃えるような赤髪と、紅玉色の瞳を持つ、僕と同い年くらいの女の子だ。
しかし、なんと言っても特徴的なのはその出で立ちだろう。
王国ではまず見ないオシャレな髪留めに、花柄の服。腰には、刀を帯刀している。大分昔、書庫に忍び込んで漁った文献に、こんな感じの服を着る文化の国があると書いてあったような――
「そ、そんな……ランクAの“ヘル・タイガー”を、あんなあっさり……」
放心状態だった少女は、僕を見ると恐る恐るといった様子で呟いた。
「あ、あなた一体、何者なの?」
「僕は……」
そう言われて言い淀む。
何者? 僕は誰なんだ?
伯爵家の人間……じゃないよな? もう追放されてるし。
少女の反応を見るに、かなり警戒されているらしい。
まあ、自分が手も足も出ないモンスターを瞬殺した得体の知れないヤツなのだから、当然か。
「ねぇ……僕って何者なのかな?」
「……は、はい?」
その言葉に、今度は少女の方が目を丸くした。
しばらく無言の時間が流れる。
それから、不意に少女がぷふっと吹き出した。
「っはははは! 何よそれ! 大真面目に困った顔で「僕は何者なのかな?」って! これじゃあ、警戒してた私がバカじゃない!」
「あ、ああ……」
なんか笑われたのは面白くないが、警戒を解いてくれたならよかった。
少女はひとしきり笑い飛ばした後、瞳に浮いた涙を拭いながら言った。
「助けてくれてありがとう。私はアカネ。よろしく」
「ぼ、僕はルークって言います。よろしく」
僕は、アカネと名乗った少女が差し出した手を握った。
無能と罵られて伯爵家を追放された先は、魔獣の森でした~僕を追放したせいで実家は地獄を見てるらしいが知ったことじゃないので、美少女達とスローライフを楽しみます~ 果 一 @noveljapanese
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