第6話 森での邂逅
《ルーク視点》
目が覚めると、青空が広がっていた。
一瞬、兄たちがまた変な悪戯をしかけてきて、天井でもぶち抜いたのかと思ったが、その悪戯をする兄たちはもういないことを思い出す。
心地の良い目覚めだ。
バケツで頭から臭い水をかけられることしかなかった僕からしたら、太陽の光で目覚めることがこんなに心地良いとは思わなかった。
まだぐっすりと寝ているコンとココンの頭を撫でてから起き上がり、湖の側へ歩いて行く。
夜の空気で冷やされた澄んだ水で顔を洗うと、たちまち目が覚めていく。
「よし、今日ものんびりしていくぞ!」
僕は大きく背伸びをして、気合いを入れるのだった。
――。
顔を洗ったあとは朝ご飯――といきたいが、生憎と昨日の夜調子に乗ってお肉を食べ過ぎたせいで、あまりお腹が空いていない。
あと、朝から焼き肉というのは少々胃にもハードだ。
よって、今日はお昼ご飯まで我慢。
今日の夕方あたりに果物でも探しに行って、明日用の朝ご飯は調達しておこう。
――。
「よし! お前達は好きに遊んできていいぞ!」
『コン!』
『ココン!』
起きてきた二匹のためにイノシシ肉のあまりを食べさせたあと、頭をわしゃわしゃと撫でてから送り出す。
実は、昨日僕が寝ている間にどこかへ行ってしまうんじゃないかと心配していたのだが、どうやら杞憂だったらしい。
この子達、ずっとここに居座るつもりのようだ。
僕としては同居人が増えるのは大歓迎なので、喜ばしいことである。
オレンジ色の尻尾をブンブン振りながら森の中へ駆けていくコンとココンを見送った僕は、小屋の中に入った。
これから、小屋の床を作るのだ。いつまでも土のままというのは、落ち着かないからな。
床に使うのは、昨日壁用に作った木の板だ。
それを、小屋の隅から順番に並べていく。ただ並べるだけでは不安定な床になってしまうので、板の厚さおよそ2センチのうち半分が土に埋まるように配置。
休憩も挟みつつ二時間ほどかけて床を埋め終えた僕は、昨日切り倒した木の切り株に座って一息ついていた。
日は大分高く昇っていて、ぽかぽかした初夏の陽気が心地良い。
しばらく日向ぼっこをしていた僕の耳に、不意にズンという低い振動の音が飛び込んできた。
「なんだ?」
随分と遠くで、何かが暴れている?
見やれば、遠くの木々から鳥たちが一斉に飛び立っているのが見えた。
思わず立ち上がった僕の元に、丁度何かが起きているらしい方向からコンとココンが駆けてくる。
『コン!』
『ココン!』
高い声で鳴き、僕のズボンの裾を加えて引っ張る二匹。
え? あそこに行けってこと?
それとも逃げろ?
よくわからないが、ズンズンという地響きがどんどんと近くなってくる。
これはマズい。進行方向にある我が家が何者かに壊されるかもしれない。
僕は反射的に、その方向へ向けて駆けだした。コンとココンが悲痛な叫び声を上げている。あ、僕に逃げるように言っていたのか。
その事実に少しだけほっこりした。
――。
木を避けて走り続けていると、突然視界が開けた。
と同時に、あるものを見つけて僕は「あ!」と大きく声を上げる。
全高3メートルはある巨大な虎のようなモンスターがそこにいた。
木々が鬱蒼と生い茂っているはずの森でここまで視界が開けていたのは、あの硬い大木が根元から力任せになぎ倒されていたからだ。
そして、そのモンスターの視線の先には、一人の少女。
「くっ! 何よコイツ! 全然攻撃が効かないじゃない!」
冒険者と思しき少女は、王国ではあまり見ない形の剣――たしか刀と言ったか? を持って、果敢にモンスターへ立ち向かっている。
全身泥だらけ、傷だらけな姿を見るに、おそらくずっとジリ貧な戦いを続けてきたんだろう。
「やぁあああああああ!」
裂帛の気合いと共に刀を振るう少女。
が、虎型モンスターの口から伸びる白銀の長い牙によって、あっけなく弾かれてしまう。
「なっ!」
『グルゥァアアアアッ!』
虎型モンスターが吠え、同時に鋭い爪の生えそろった前足を、少女へたたき付ける。
「ぐっ!」
辛うじて刀で爪の直撃を避けるも、相手の
「うっ……」
苦しげに呻く少女。
そんな少女へ、無慈悲にモンスターは歩みを進め――
「やめろぉおおおおおお!」
そのとき。
僕は、咄嗟に叫んで走り出していた。
無能と罵られて伯爵家を追放された先は、魔獣の森でした~僕を追放したせいで実家は地獄を見てるらしいが知ったことじゃないので、美少女達とスローライフを楽しみます~ 果 一 @noveljapanese
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