第101話 カイン

「違います違います!アイツらは勇者の真の力に嫉妬したから追放してきたスよ!!」

「でもそう言うお前だって『蜜壺使い』の真の力には敵わなかったんだろ?」

「いや、まあ、それは…ほんと…敵いませんでしたが……」



 ロッコがとっても下品な追い討ちをかけている。あとやっぱり敵わなかったんだ。


 そんなオッサンが好みそうな品のない話を聞いたカーラ姫とエイナーザ達は大爆笑している。

 あの人たちも存外に下品だからな。



「やっぱりお前のその勇者の力ってのがそもそも胡散臭すぎるんだよ、ほれ試しにあそこにいるザリガニ達の職業もみてみろよ」

 ロッコがザリガニ達を指差しながらバートに指示をする。



「この力は本当に胡散臭くなんてないんですって。で、ザリガニ?ああわかりました見てみますよ。 えっと……黒いスカーフを巻いてるザリガニが…………『聖女』ッスね……」

「ぶははは!お前の能力どうなってんだよ」



 どうやら黒スカーフザリガニのロザリーは『聖女』だそうだ。

 今度彼女には白魔法のアクセサリーでも渡しておこう。湖で水難者を見かけた時に役に立つはずだ。



「こんなに希少な職業が連発すること今まで無かったんだけどなあ…。ええと青のザリガニは……は?……『水竜』って出てますね…」

「うはははは!!よく見ろよ!!どうみてもザリガニじゃねーか!竜じゃねーだろ!」

「いやでも……」



 青スカーフザリガニのアガサは、コイキングみたく『水竜』に進化とかしちゃうんだろうか。



「勇者ってのは笑いを取るための職業なんじゃねーのか?」

「ほんと、こんなんじゃなかったンスよ。最後に黄色スカーフの…………『竜騎士』………もうやだ……」

「物語でしか竜騎士なんてみたことねえよ!」



 黄色スカーフザリガニのキリは竜騎士か。

 あの三人はエイナーザが連れてきたザリガニだし、何かしらの力が働いたのかもしれないな。



「なかなかに賑やかではないか。そこな新しい青年は皆を笑顔にしてくれる立派な若者であるな。さあ菓子と茶を用意した。遠慮なく食すがよい」

 皆で爆笑しているところにルシティがお菓子を持ってきてくれた。



「ありがとうございます!いただきます!」

 今まであまり菓子を口にする機会もなかったのだろう。バートはとても嬉しそうにお菓子を食べ始めた。



 そこにまたロッコがちょっかいをかける。

「おい、いまその菓子を持ってきてくれた人の職業も見てみろよ」

「ええ?きっと『王宮菓子職人』とかですよ。これものすごく美味しいですもん。 どれどれ、ええっと……………………」

「どうした教えろよ」

 ロッコが鑑定結果報告を急かす。








「………………『魔王』でした」




「うはははははははは!!!!バート君よかったじゃねーか!!さっそく宿敵が見つかったぞ!!ザリガニとパーティ組んで倒してこいよ!!うははは!」



 『絡み男』の異名二つ名は伊達じゃないな。タチが悪いロッコの絡み方が堂に入ってる。

 ちなみにここにいる全員が爆笑しており、かくいう自分も大爆笑だ。勇者侮りがたし。




「わかりました!確かに俺の職業鑑定はおかしくなったんだと思います。ただ勇者の戦闘スキルは本当に強いッスから!一度見てもらってから真に勇者のことを判断してもらえませんか!じゃないと俺が変なことばかり言うから追放されたみたいになるじゃないっスか!」

 バートの職業鑑定は故障したということになってしまった。

 多分おかしいのはここにいるメンバーのせいだと思うんだが。



「大体みなさんは、魔道具に頼らない真の魔法が存在することを知ってますか?」

 バートは顎を上げて薄く笑いながらドヤってきた。


 性欲センサーとか霧になるとか、ああいったものの事を言っているのかな。


「まぁ、知ってるかな」

「知ってるわね」

「うん知ってる」


 皆が口を揃えて「知っている」と答えてしまった。


「いやいやいや、知ったかぶりとかやめて下さいよ!魔道具を使わない魔法ッスよ?見たことも聞いたこともないでしょう?」

 バートは手を広げて皆に訴えている。



 すると葵ちゃんが無言でミーヤのことを指差した。

 その指の先ではミーヤがフワフワと宙に浮かんでいる。


「え?あ!浮いてる?ちょ!それは……魔法…なのかもしれないっスけど、えっとほら、そう! それは蛾が飛んでるようなもんスよ!」

「へえ?あんたアタシに喧嘩売ってんだ?その喧嘩買うわよ。ここじゃ何だからおもてに行きましょうか」

「違うんス違うんス!そう言う意味で言ったんじゃなくて!待ってください」

 ミーヤがバートの襟首を掴んで引き摺っていく。



「じゃあ実際に今から迷宮にでも行って色々見せてもらえば良いんじゃないですか?真の魔法とか戦闘スキルを」

 奥田がそう提案した。



「それイイっすね!俺の凄いとこ見て下さいよ!」

「少し面倒に思ったけど、彼の名誉のためにもそうしようか。んじゃ行く人は準備してきて。ザリガニ達は車をお願いできる?」



 バートの『凄いとこ』を見るために、久々の迷宮行きが決まった。



◇◇◇◇◇


 ザリガニ車に乗って皆で迷宮に向かっている。


 先頭車両の車輪にだけゴムが巻かれているのに気付いた。


「あ、これもう付けてみたんだ?」

 ミーヤに声をかける。



「中空にすることが出来なくてまだ柔らかい皮を巻きつけただけの状態と変わらないのよ」

「確かに中空にするってどうやればいいんだろうな」

 そんな話をしながら移動をしていると、バートがやたらと周囲を気にしている様子が目に映る。



「どうした?気分が悪くなったか?」

「あ、いえ、大丈夫ッス。あのー、あんなに小さい子供達を迷宮に連れて行っても大丈夫なんですか?」

「ああ、子供達は身体を鍛えるためにも定期的に迷宮に潜っているから大丈夫だよ」

「そ、そうなんスね…」

 彼は先ほどから落ち着かない様子だ。



「この今乗ってる荷車は何なんスか?」

「これ?ザリガニ車だよ?知らない?」

「あ、いえ。何回か街で見かけたことはあるっス」

 あるんだ。言ってみるもんだな。そのうち誰も気にしなくなってくれると助かるんだが。



「新人が増えるのであれば、ぜひカニを振る舞いたいと考えておる」

「あ、いいね。土鍋も作ったし採りにいこうか」



 ルシティ的にはもうバートは新人さんなんだな。

 じゃあもう彼の戦闘スキルがどんなものであっても、改装後のアパートには住んでもらおう。

 全然悪意のあるタイプじゃなさそうだし。





◇◇◇◇◇



 魔剣がゴーレムを真っ二つに切り裂いた。


「命令石はいくらでも使うので回収しときなさい!」

「へーい」

 ミーヤがロッコに素材の回収を指示している。

 ここへ来るまでの間、全ての魔物を魔剣が倒しているので何もせずに地下9階まで来ることが出来た。

 久々に正規の入り口から入ったが、従業員階段を使うのとそう変わらない進軍速度だ。


「あ、あの、これって何処まで行くんスか?」

「地下10階のカニんとこに行くよ」

「へ?地下10階!?」

「濡れた果実ではどの辺りまで行ってたの?」

「地下5階までは行ったことがあるんですが、大蜘蛛に苦戦してそれより先には行けてないっス」

「あの蜘蛛の巣がベタベタして倒しづらいもんね」

「え?あ、まあそれもあるんですが、そもそも素早すぎて攻撃を当てることが難しくて…」

 あれ?大蜘蛛ってスピードで何かしてくるような魔物だったっけ?

 記憶の中にある大蜘蛛は、全てゴッドチョップで倒されていたな。本当はやっかいな魔物だったのかもしれない。



「カニは甲殻が硬いだけだからバートでも大丈夫だよ」

「え?俺が戦うんスか?」

「え?バートのスキルやら真の魔法が観たくてここまで来たんだけど?」

「何でゴブリンとかコボルドじゃないんスか?」

「ルシティがバートにカニを振る舞いたいって言ったからだけど……」

「そ、そっスか…、俺のために…」



 バートはそう言うと、そのまま下を向いてしまった。



◇◇◇◇◇

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