第100話 そして伝説へ
娼館拠点の両隣にはアパートが建っており、老夫婦が住んでいた側のアパートは買い上げることができた。
しかしもう片方のアパートに関しては今まで一つの話も届けられてはいなかったので、買い取れないものなのかと半ば諦めていたのだが、昨日になってようやく行政府からアプラへ買取条件に関する連絡が届いたそうだ。
「改装後もそのまま住まわせてほしい、か。そう言っているのは一人なんだよね?」
「はい。他の住人は斡旋された新住居への移転を了承済みとのことです」
「その最後の一人は何で移転を了承しなかったんだ?変な住居を斡旋されたりとかしたのか?」
「それがですね、その方は今まで所属していたパーティの貢献度を保証とした賃貸契約をなされていたのですが、先日そのパーティから追い出されたそうで、他に保証人になってくれる人物にもあてがなく、新たに賃貸契約を結べない状況にあるそうです」
冒険者パーティの貢献度って賃貸保証人の代わりになるんだな。
この世界では信用情報を取り扱う会社もないだろうから、冒険者ギルドの貢献度も立派な信用保証になるってことか。
「なるほど、それで今の住居から出て行きたくないって言ってるんだな。 でも改装後は新たにウチと賃貸契約を結び直すんだろ?その時に弾かれないのか?」
「それはアパートの新たな所有者であるジュンペーさん並びに美咲会が決めた賃貸条件によりますね」
そうか、自分たちが『どんなやつでも入居可』と条件設定をすれば問題ないのか。
「今すぐ会いましょう!その人は主人公に違いありません!」
近くで話を聞いていた奥田が突然会話に入ってきた。
「主人公って何だよ」
「だってその人は所属していたパーティを追い出されたんですよね? じゃあ間違いなくその人は『追放系の主人公』ですよ。 きっとゴミスキルと呼ばれているスキルしか所持していない事でパーティのお荷物となって追放されたけど、そのスキル真価を知ることで覚醒するタイプですって」
久々に奥田の異世界先生が出たな。はじめは胡散臭く思っていたけど、魔素絡みの話は割と正鵠を得ていたから聞き流すことも出来ないな。
「じゃあその人に一度会ってみるか。このまま住む場所を失ってしまうのも気の毒だ。無害そうな人だったなら改装後のアパートに住んでもらっても構わないし」
アプラにお願いをして、隣のアパートに住むその人を娼館拠点に呼び出してもらうことにした。
◇◇◇◇◇
「初めまして。私は美咲会所属のジュンペーと申します。本日は急なお願いにも拘らずお越しいただき誠にありがとうございます」
「あ、どもっス、バートって言います。さっきなんか、今の部屋をそのまま借り続けれるって聞いたんで来ました」
借り続けれるかどうかは人となりを見てから考えるつもりなんだけど、初めにそうでも言わないとわざわざ知らない人のところまでは来てくれないのだろう。
彼を無事に連れ出せたアプラの機転に感謝しよう。
バートさんは高校生くらいの年頃をしており、冒険者をしているだけあって体格もそれなりに良い。
髪を短く整えた姿は結構な好青年に見え、何故所属していた冒険者パーティから追い出されてしまったのかを、その見た目から予想することは出来なかった。
「現在バートさんが住まわれているアパートをうちの商会で買い上げる予定がありまして、買い上げた後もバートさんは引き続きあのアパートを利用したいと伺ったので、一度お話だけでも聞けたらと思い、本日お呼び立てした次第です」
「あ、はい、で、俺は何をすれば部屋を借り続けれますか?」
「いえ、特に難しいお願いをするわけではありません。こちらからの質問にお答えいただければそれで結構です」
「分かりました。何でも聞いてください」
部屋を継続して借りたいってだけの話なのに、面接みたいになってしまって彼には申し訳ないな。
「ではまず最初に、貴方は所属していた冒険者パーティから追い出されたと聞いたのですが、差し支えなければその理由を教えてもらえませんか?」
「あー、それっスか。…俺は別に何も悪くないんスよ。ただアイツらは俺の職業が『勇者』だってことに嫉妬?して俺を追い出したんスよ」
お?早速来たか?勇者だと。
バートの後ろに立っている奥田が満面の笑みを浮かべているのが見える。
「えっと『勇者』?と言うのは──」
「あー、俺の故郷では十六歳になると教会で儀式を受けるんです。そこで何かしらの職業を神様から授かるんですが、俺の場合は超希少な『勇者』だったんスよ」
チラッとエイナーザの方を見ると、彼女はこちらを向いて首を横に振った。
エイナーザが授けたものではないんだな。
「『勇者』はすげえ職業で、他人の職業を見れたり、攻撃スキルなんかも使えるようになるんスよ」
スキルって何だよ。『技能』とは違う意味で翻訳されているのか?
「職業が見れるって言うのは、貴方が勇者の力で船大工さんを見れば『船大工』って判明するってことですか?」
「いや違います。その人が持つべき本来の職業が見れるんスよ。この辺りの人達って教会で職業拝受の儀式をしないじゃないですか?だからその人の本当の職業に就けていないんスよ」
どうやら彼の地元で信仰されている宗教は聖歌教ではないようだ。
「本当の職業ですか…。ちなみに私の本当の職業で見れますか?」
「見れると思いますよ。ええっと──」
バートはこちらを真剣な表情で見つめてきた。
「…………。」
「アナタの職業は……『当たり屋』です」
「は?俺の本当の職業が当たり屋?」
「あははははは!!先輩にピッタリじゃないですか!!ゴブリンに挨拶してから返り討ちにしてるし!!」
「うはははは!!ダンナすげえっすよ!」
「ヒィイイお腹痛い」
「わらわは当たり屋と結婚せねばならんのか」
「助けて!お腹が!お腹が!!」
皆から散々に笑われている。
大体なんだ、職業『当たり屋』って。そんなもんで食っていけるわけがないだろう。
「おい、俺だけ笑われるなんて許さんぞ!皆も職業みてもらえよ!!」
「じゃあ私の職業を見てください」
奥田が最初に名乗りを上げた。
「じゃあ見ますね。ええっと……え!? アナタの職業は『剣聖』です!! 凄い!!俺と一緒に魔王を倒しに行きませんか?」
「ホントに!?やっぱ剣聖かー!薄々自分でも剣聖じゃないかなーって思ってたんすよねー」
薄々自分が剣聖かと思う事なんてあるわけないだろ。
「何処の魔王を倒すおつもりですか?」
「え?」
ヒルハがバートに対して質問をした。
そりゃあ自国の王を倒すだなんて言われたら彼女も気になるだろう。
「え、えーっと何処のと言われても…」
「私はケイスガイン魔王国の民ですので、魔王ケイスガインを倒すというのであれば貴方とは敵同士になりますね。逆に敵国であるミジッタ魔王国と戦うのであれば協力することもできるかもしれません」
彼女の国にも係争国があるんだな。
「あ、いや、勇者の職業を授かったからそういうこともそのうちあるのかなー程度で……」
「そうでしたか。では倒す魔王が決まりましたらまたご連絡ください」
「は、はい……」
この世界でも魔王の存在は知られているんだな。
「当たり屋の先輩?今日から私のことは剣聖様って呼んでもイイんですよ?」
「ちっ!奥田の方が当たり屋に相応しいだろうが!」
「じゃ、じゃあ次はあっしの職業をみてください」
ロッコも名乗りを上げた。
「あ、あ、はい見ますね。 ええと………え?え?アナタの職業は『国王』って出てますね……。実際になるのは難しいと思いますが、その、頑張ってください……」
これは結構順当な職業がでたな。
元国民とか集めることができれば国を興すことくらいは出来るんじゃなかろうか。
「あー、あっしはまだそういうのに興味が持てないかなーって」
「そ、そうですよね。国王なんて言われても困っちゃいますよね。なんかすんません」
『まだ』と言うことは、そのうちは興味を持つって事だろうか。
もしこの先ロッコが立ち上がると言うのなら、絶対に力を貸そう。
「なんか連続ですごい職業が出ちゃいましたね。いつもはこんなことないんスけど」
当たり屋もその『すごい』に含まれているのだろうか。
「じゃあ私も見てもらえますか?」
次は松下さんがいくようだ。もうこれは占いを楽しんでいる雰囲気に近いな。
「わかりました。いきますね。 アナタの職業は『お母さん』です」
「あらあらまあ!お母さんですか!ふふふ良いですねえ」
松下さんはとても嬉しそうにしているが、彼女は未婚だし子供もいない。そもそも『お母さん』って職業なのか?
「お母さんって職業は俺も初めて見ました。お母さん自体は街にもいっぱい居るはずなんですけどね」
やはり何か少し変な職業だったようだ。
しかし本人はいたって嬉しそうだから問題はない。
「ここは特殊な人たちが集まっている場所なんですか?」
「いやー、まぁ少しだけ変わり者が多いくらいかな……」
バートめ。なかなか鋭いではないか。
「ところで君はどんなパーティから追放されたんだ? やっぱり勇者に相応しい『大魔法使い』や『聖女』だったりするような人が集まったパーティだったの?」
「あ、いや…その…」
「ん?」
突然言い淀んだ彼の姿に訝しむ。
「その、パーティ名は『濡れた果実』っていうところだったんですが……」
また凄い名前のパーティだな。いつだったかロッコが教えてくれたパーティ名に含まれていた気がする。
「じゃあ『聖騎士』とか『精霊使い』とか?」
真面目に勇者をやっていくならそれくらいの職業じゃないと釣り合わないだろだろう。
「……………?」
「『性女』と『性騎士』、『蜜壺使い』の女性達で構成されていたパーティでした……」
「「お前ただのドスケベじゃねーか!!」」
皆からの声が重なった。
◇◇◇◇◇
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100話までお読みいただき誠に有難う御座います。
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