第95話 パロ

 今は城の食堂でルシティの作ってくれた揚げ餃子のようなものを食べている。


 中に入っている腐りかけの肉が異様に美味い。

 魔剣が丹精を込めて挽肉にしてくれおかげだろうか。


 そしていま皆より早く食事を終えたネスエとヒルハの魔族組で、大広間にいる人間を尋問してもらっている。


 もちろん口頭で「あなたは間者ですか?」と質問するようなものではなく、一度全員眠らせてから夢の中で尋問をするらしい。

 さすがはサキュバスだ。



「カーラを国に戻さなくても大丈夫なんですか?」


 そう奥田が質問してくる。


「もとよりカーラは政務には携わっていなかったんだし、国の運営に関しては問題ないだろう。 命が無事であることは水門橋の兵士たちから話は上がってくると思うのでいいとは思うが、迷宮化を解いて暫くしてから一度顔を見せには行くべきだろうな」


「それにしても先輩にしては大胆な提案をしましたね」


「どうせ国はアルフレッドが継ぐんだし、変な期待を懸けられた人物が近くに居ない方が円滑に事が進むだろ? あとは友好国への政略結婚の駒として使われる道があるけど、それもジナーガ王国相手だろうってカーラ本人が言ってたし、今更あんな国に嫁がせたくないじゃん? まあ俺のわがままかな」


「へー、先輩はもっと消極的に動くと思ってましたよ。国に帰したカーラをリフオクとの貿易とかで下支えするような」


「それも考えたんだけど、14の子が誘拐までされたんだぞ? もうそういう目に遭わせるのは絶対に嫌なんだよ。 だから目の届く場所に……」


「ふーん、目の届く場所ですかー。まぁ分からなくもないですが、帰ったら私と二人きりの買い物に付き合ってくださいね」


「ええ?何でそう。いや、分かった。付き合うよ」



 奥田には心配かけっぱなしだな。



◇◇◇◇◇


 尋問を終えたネスエ達が二人の女性を引き摺りながら食堂へと戻ってきた。


「王子付きのメイド二人が間者だった」


「危なっかしいなおい!もう作戦第二弾まで用意されてたんじゃないのか?」


「ただの監視かも知れない」


 そんなに内部まで間者が入り込んでいるのなら、カーラと共にジナーガ王国へ同行した従者達も間者だった可能性が高いな。


「じゃあこの二人は縛って船に積んでおこう」



 ここで一つ疑問が浮かんだのでヒルハに質問をした。


「何でこの迷宮って魔物や魔族がいないんだ?」


「それはこんな危なっかしい計画にわざわざ参加する魔族がいないからですよ。 ここで契約しようものならばっちり証拠も残りますからね」


「言われてみればそうか。 あとは迷宮核の場所か」


 この質問に対してヒルハは即答した。


「絶対玉座にあります! こんな馬鹿なことをしでかす輩は玉座が大好きですから!」


「じゃ、じゃあ玉座の間に行ってみようか」



 食事の片付けを終えた一行は玉座の間へと向かった。



◇◇◇◇◇



「ホントにいた」

「愚かだな」

「暇そう」

「リサイクルゴミ」


 玉座の間の重厚な扉を開けると、ヒルハの言う通り、そこには玉座で居眠りをする魔族が座っていた。

 こちらの存在に気づくと驚き玉座から転げ落ちる。


「な、な、な、何だ貴様らは!」


 涎を拭きながら立ち上がった魔族は、人間で言うと20代前半くらいの容姿をした若々しい男だった。


「あれってバカ王子ではないんだよね?」


 一応ヒルハに確認をしてもらう。


「はい違います。 同じくらいの馬鹿面ではありますが別人です」


「あれは私と同じ種族」


 そうネスエが言う。


「じゃあアイツもサキュバスなの?」


「違う。インキュバス」


 そういえば男版の夢魔はインキュバスと言うんだったな。

 股間に立派な角笛が付いていないから失念していた。



「貴様ら、あの警報の罠をどうやって回避した!」


 唯一の防御装置が機能しなかったので疑問を感じているようだ。



「はっ!!貴様はカーノ家の娘! なるほど、そう言うことか!!」


 魔族の男はネスエをみつけて何か勝手に納得している。

 このまま話させておけば色々聞けるかも知れないが、先ほどから彼の言葉に誰も返答をしておらず、さすがにそろそろ可哀想なので一応声を掛けることにした。


「初めまして。ナーザ王国の冒険者パーティ水暁の橋に所属しているジュンペーと申します。 貴方がこの城をこんな風にしたご本人の方なのでしょうか?」


 人違いだと不味いのでしっかりと尋ねておく。


「ふんっ!人間風情が何をしに此処へ来た! この城、そしてこの国を我がものとするのは必然!何人たりとも邪魔なぞさせんぞ」


 自分に酔っているのか言っている事がイマイチ理解できなかったので皆に相談する。


(今のあれってアイツが城を迷宮化させたって意味で合ってるよね?)


(あれだと誰かに迷宮化してもらって、アイツがそれを管理してる的にも聞こえましたよ?)


 そう奥田は見解を話した。


(我がものとするって言っていたので、現時点ではまだ我がものになっていないんじゃないですか?)


 葵ちゃんはそう疑問を呈した。


(もう一度ハッキリ言ってもらった方が良いんじゃないですか?)


 ヒルハからの提案だ。


(よし、じゃあそうするか)



「なにをコソコソと話しておるか! 貴様、我を愚弄するつもりか!」


「あー、すいません。今一度ハッキリとお聞きしておきたいのですが、この国を陥れて、この城を迷宮化させたのは貴方ですか?」


「ふんっ!先ほどからそう言っているであろう。 指示を受けてではあるが、この国を調略し、この巨大な城をも迷宮化させたのはこの我だ! どうだ恐れ慄くがいい!!」


 よし。人違いではなさそうだ。


「ご丁寧に説明していただきありがとうございます。 ではカーラ姫に辛い思いをさせた報いとして一発ぶん殴らせてもらいます」


「くははは!! 矮小な人間がこの我を殴るだと!? 笑わせてくれるわ。掛かってくるがよい!」


 本人の許可も得たので、魔族の男へと近づいていくと、男は手のひらをこちらに向けて高笑いをした。


「ふはははは!!我に楯突いたことを後悔するがいい!!」


 男は手のひらをこちらに向けたままずっと笑っている。




「ふはははははは!!!」





 特になにも起きないのでそのまま歩いて行くと、男は明らかに狼狽えだした。




「な、何故効かぬ! 常人なら既に気が狂っているほど性欲を高めておるのに!!貴様は何故普通でいられる!!」



「え?」


 いま気が狂うほど性欲を高められてるの?




 尚も男はこちらに手のひらを向けて念を送ってくるが、特に変化はみられない。


「おかしいではないか!! この状態で普通でいられるはずがない! まさか性欲のない種族だとでも言うのか!? 性欲センサーで確かめてくれるわ!」


 あ、この人もそのセンサー持ってるんだ。



 男はこちらに真剣な眼差しを向けてきた。



「ぎゃああああああ!!!目が!!目があ!!」



 というか今の俺って夢魔の目が潰れるほどに性欲マシマシになってるの? このままで大丈夫なの? 怖いんだけど。



 両目を押さえて苦しむ男の前へと辿り着き、大きく息を吸い込む。



『うちのカーラを悲しませた報いを受けろ!!』



 右の拳に力を込めて、目を押さえている男の両手ごと顔面を思い切りぶん殴った。




「があっ!!」



 殴られた男は玉座を粉々にしながら後ろへと吹き飛んでいく。



「ええ!?」


 魔素の成せる技か、自分でも驚くほどの威力がでて、相手が吹き飛んでいった。


 殺してしまってはいないかを確認するために慌てて男へと駆け寄ると、ピクピクと痙攣はしているものの、どうにか生きているように見える。


 男が生きていたことにホッとしていると、いつのまにか近くにはエイナーザが立っていた。


「ひっ!!!」


 エイナーザを見て慌てて男から離れる。



「では私からも報いを」


 エイナーザはそう言って男に向かって手のひらを向けた。


 すると男の頭上に小さな穴が開き、穴の中から出てきた大量の羽虫が男を細かく千切りながら穴へと運んでいく。


 そして羽虫が最後の一片を運び終えると穴は閉じ、男が倒れていた場所には何も残っていなかった。




「り、リサイクルですか?」


 恐る恐るエイナーザに尋ねてみる。


「栄養です」


 『一体何の栄養だよ!!』と聞くことはできなかった。


◇◇◇◇◇

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