第96話 ジャミロ
「この迷宮核って壊しちゃえばいいの?」
「せっかく何で持ち帰ればいいんじゃないですか?」
魔族の男が吹き飛んで壊した玉座の中から迷宮核が出てきた。
迷宮核とはバレーボールほどの大きさをした青い石の玉で、ヒルハが持ち帰ればいいというので記念に貰っておくことにした。
「これで迷宮化は解けますよ」
そうヒルハから聞いて安心し、城の人たちに見つかる前にさっさと退散することにした。
◇◇◇◇◇
このままリフオクに帰ると湖上で夜になってしまうので、水門橋で一泊することになった。
その際、水門橋の長官に「カーラ姫は無事」だと言うことを、王城の人へと伝えてもらうように言付けた。もちろん黒塗りヘビーメタル軍団の詳細は伏せてもらうようお願いするのを忘れない。
明けて翌日、ようやくリフオクの街へと帰還を果たした。
乗っていた罰当たり船は人目に触れてはならないので、岩場の秘密ドックに格納する。
その際「これを元に戻すのは勿体無い」とミーヤと奥田が言い出したため、新たに3隻代わりの水中翼船を新造する事が決まった。
新たに作る船は既存の木造船の形に左右されないため、守護霊組としても全力を出せると張り切っていた。
◇
「ぶへー疲れたー」
テーブルに突っ伏しながらボヤく。
「此度のこと誠に感謝する」
隣の席に着いたカーラが恭しく礼を言ってきた。だが彼女には何も非はない。悪いのは運だけだ。
「礼を言われるまでもない。大人の一般的な行動だよあれは」
「流石にそれは言い過ぎであろう。財も相当に投じたはずじゃ」
「あれしきの投資でカーラの安心が得られたのなら破格の買い物だったよ」
「格好をつけすぎじゃ」
自分でも少々格好つけすぎた気はしたが全ては本心だ。若者が健やかに過ごせる未来にこそ投資のしがいがある。
風呂から上がった奥田が髪を拭きながらこちらに向かってきた。
「この後は初夜ですか?」
完全にオッサンの発言だ。性別が男だったのなら炎上必至のまごうことなき100%セクハラ発言。
「そんなわけないだろう。俺はミカ王国から付け狙われたりはしたくないし、犯罪に手を染めたくもない」
さすがに未成年の王女に手を出すほどの無謀さは持ち合わせていない。
「でも常人だと気が狂ってしまうほどの性欲を抱えているんですよね?」
奥田にもあの時の魔族とのやりとりはしっかりと聞かれていたようだ。
「あれは何かの間違いだろう。アイツの性欲センサーが壊れていたに違いない」
「そんな事はない。私もあれほどの至近距離からジュンペーを直視したら目が潰れる」
突然現れたネスエが、あの魔族の性欲センサーが壊れていなかったことを証言する。
「そ、その性欲を正常値まで吸い取ってもらう事って可能?」
自分では別段異常を感じられないのだが『常人なら気が狂うほどの』と言われて段々と怖くなってきた。
「それは可能だけど、真っ当な手段でその性欲を受けてめてくれる相手がいるのだから、その人達にちゃんとお願いするのが人間として自然」
とてもサキュバスの発言とは思えない、人の営みを慮った言葉に打ちのめされる。
「ええい!もういい!風呂で抜いてくる!」
「排水口が詰まるのでやめて下さいよ」
奥田の発言を無視してその場から逃げ出した。
◇◇◇◇◇
翌日、アルフレッド王子付きの間者メイド二名の処遇について考えあぐねていた。
リフオクの街の衛兵に突き出そうと思っていたのだが、彼女らはミカ王国での犯罪者なのだから向こうで裁かれなけらばならなかったのだ。
ミカ王国の人間に見つからないよう、人知れず去ることを優先してしまったため、そのまま連れて帰ってきてしまった。
「彼女達って重犯罪を犯してたりする?」
「あの二人はジナーガ王国に情報を流していた罪しかありませんよ」
ネスエがそう答えてくれた。
「ならこのまま居てもらっても危険でもないか……。 では君たち二人もこの娼館拠点で暮らしてくれ。部屋は申し訳ないけど二人で一部屋を使ってもらう形でお願いするよ。君たちも好きで間者をしてたわけじゃないとは聞いてるから、なるべく自分達が楽しく過ごせるよう努力してみてくれ」
「わかりました」
「よろしくお願いします」
後々ミカ王国から身柄の引き渡しを要求されでもしたら、カーラ姫にお願いして要求を突っぱねてもらおう。
◇
泊まり島で救出した元奴隷達の中で、元いた場所に帰れそうな人達の帰還が始まった。もちろん帰還を望まない人はここに残っても良いことを伝えてある。
帰還するにあたって、必ず美咲会の腕利き2名を護衛のため連れていってもらうことにし、旅の安全性を重視した。
当面の生活費も持たせてあるため、帰ってからしばらくの間はお金に困る事はないだろうが、もし帰還先で辛くあたられたり白眼視されるような事があればすぐにリフオクへ戻ってくるようにも言い含めてある。
エイナーザの歌によって心身は回復しているとはいえ、他者からどう見られてしまうかは分からない。
彼女らがこれ以上辛い思いをしないように全力で支援する心算だ。
尚ジナーガ王国への帰還を希望している人達については少し待ってもらっている。
魔族がジナーガ国内で悪さをしている事が判明しているのでそれが片付くまでは我慢してもらう。
帰還直後にトラブルに巻き込まれてしまっては元も子もない。
ジナーガ王国に居るとされている同郷人の調査依頼を出してそろそろ3ヶ月になる。
見つかる見つからないに限らず第一報くらいは届いてもよさそうなのだが一向に連絡は届かない。
一度ジナーガ王国の調査を自前で行ったほうがよさそうだな。
◇◇◇◇◇
亜人メンバー達にも元住んでいた場所への帰還を支援する旨を伝えたが、故郷が遠すぎたり、そもそも故郷の場所が分からなかったりしたので、その全員がリフオクの街で暮らすことを選んだ。
彼らは亜人だけあって様々な特性を持つが、人間と一緒に暮らしていく上で大きな障害となるような特性は無いとのことだ。
しかし『好み』というものはしっかりと存在しており、例えば魚人達などは水辺を特に好んだ。
久々に中庭へ出てみると、池の中で魚人のワッコとザリガニ達が何やら作業を行なっているのを見かける。
その作業を眺めるために、いつもの定位置であるベンチへと移動すると、すでに先客が座っていた。
「あぁ、ジュンペーさん。こちらどうぞぉ」
ベンチに座ったまま尻をモヌモヌ動かして奥へとずれてくれたのは、バトルエロシスターのケイアだ。
彼女は純粋に借金を抱えているので、故郷には戻らずここに住んでいる。
ちなみに何で稼ごうとしているのかは知らない。
「ああ、ありがとうごさいます。 彼等は池で何をしているのか分かります?」
「池にクワイ?を植えているそうですよぉ。あとあそこに居るのは全員女性なので『彼女ら』ですよ」
彼女らの性別を全然知らなかった。
ザリガニ達は元より、魚人の性別も分かりづらいため今までずっと男だと思って接していた。何か失礼なことを言ってしまってはないか心配になる。
「女性だったんですね。あとクワイとはなかなか通なものを植えてるんですね」
彼女らはクワイなんて何処から手に入れてきたんだろうか。確かに植えつけには適した時期だとは思うが、自分からその知識を話したこともないし、この街で売っているのを見たこともない。
松下さん?奥田?葵ちゃんなのか?
「あれって食べれるんですよねぇ? 早く食べてみたいんですがいつ頃になったら収穫できるんですか?」
「冬に入ってからですよ」
「そんなに掛かるんですか! お腹空いちゃいますねぇ」
クワイ収穫まで何も食べないつもりなのか。
「ふふふ、冗談ですよぉ」
カラカラと笑う彼女もまた以前よりリラックス出来ているように感じる。そりゃあ聖職者が奴隷にされるなんて相当な負担になるだろう。
いや誰であっても奴隷はいやだな。
身内の人数も大幅に増えた今、皆にはより一層幸せになってもらわねばなと強く思った。
◇◇◇◇◇
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