第65話 ゴッドチョップはチョップ力
迷宮で見かけた硬質化したスライムの死骸からヒントを得て、スライムの粘液と糸袋の粘液とを混ぜ合わせたらプラスチック樹脂っぽい素材を作ることができた。
軽さ、丈夫さ、多少の弾性、この新素材はこれからの時代を担う夢の素材となり得るだろう!
まぁただのプラスチックなんだけど。
「これめちゃくちゃ凄いじゃないですか」
「今回に限って言えば、自分を褒めたい」
「容器、船、防具、家具、何でも作れますよ」
「まあそうなんだけど、耐食性とか耐水性とか色々と検証してからだな」
プラスチック的なものができたとは言え、その特性はプラスチックとは全然違うかもしれないので、これから何日か掛けて検証しなければならない。
「こういうテストって守護霊たち好きかな?」
「たまに検証が好きな人っていますよね」
「僕がやろうか?」
突然声をかけてきたのはトバガエルだった。
「え、いいの?退屈かもしれないよ?」
「だって全く新しい素材なんでしょ?それに触れれるなら光栄だよ。やり方を教えてくれる?」
「お、おう。じゃあ簡単に検証項目を説明するよ」
トバガエルにざっとした検証項目を説明し、他にも何か思いつくなら遠慮なく試してほしいと伝えた。
「じゃあ物置で試してくるね。足りないものがあったらまた声をかけるよ」
「換気だけは気をつけてくれ」
「わかったー」
そういうとトバガエルは物置の方へと走っていった。
「退屈しないと良いけど」
◇◇◇◇◇
翌日、朝から定期船の商会へと行き、紹介状を渡して面会の約束を取り付けようと思っていたら、商会長さんはすぐにでも会ってくれるとのことで、そのまま面会へと突入した。
「初めまして。美咲会に所属しておりますジュンペーと申します」
「よく来てくれましたね。ここの商会長をしているオスカーと申します。先日はうちの商会のために大蛇の牙を採ってきてくれたそうで、本当に助かりましたよ」
「いえいえ、あの時はたまたま我々の手が空いていただけでして」
「何をおっしゃいます。その日のうちに地下10階の素材を持って帰れるなど、並の冒険者ではできますまい」
「過分なお言葉をいただき恐縮です」
よかった。悪い印象は持たれていないようだ。
「して本日は我が商会からの依頼を受けていただけるのでしょうか?」
ん?何の話だ?
「あ、いえ、本日は港湾ギルドの加盟条件に関してお話を伺いたいなと思いまして」
「なるほど、そうでしたか。ジュンペーさんの商会ではどのような港商いをするおつもりで?」
「はい、舟運業を営みたいと考えております」
「なるほど、確かに舟運業ならば港湾ギルドへの加盟が必要ですな。港湾ギルドへ加盟するには、ギルドの役員3名以上の推薦が条件となってまして、私もその役員の一人ではあるのですが、私の他にも役員の人間と繋がりはお持ちなので?」
これ何か聞き出そうとしているのかな?
全然その辺りの作法が分からない。正面突破しかないか………。
「いえ、魔道具店セクスさんからたまたまオスカーさんのお話が聞けただけでして、他の方への面識は一切持ち合わせておりません」
「ふむふむそうでしたか。では私の方から残りの2名には話をつけておくので、先ほど少し話したうちの商会からの依頼を受けてはいただけないでしょうか?」
迷宮系の依頼をこなすことでギルドに加盟できるならかなりラッキーなのでは?
迷宮が全く関係のない依頼なら逆に辛いが。
「どういった依頼なのでしょうか」
「皆さんの実力なら達成は可能かと思うのですが、先日お願いした大蛇の牙を…5本、手に入れて頂けないかと」
ん?なんか個数を言い淀んだな?
ウナギ5匹だよな?
何か問題でもあるんだろうか。絶滅したとか?
「5本…ですか……」
一応ためらってる風な雰囲気を出しておこう。
「いえ!わかります。大水蛇は見つけるだけでも何日もかかるとは聞き及んでおります。しかし我々としても新船を導入して事業の拡大を考えておりまして、どうにかお願いできないでしょうか」
もしかして弱ったカニで釣り出す方法は一般的ではない?
だから大蛇の牙は希少であり、それを複数揃えてくれるのであれば、新しい商会が業界に参入してきてしまう不利益すら飲み込めるのか。
そういえばいつかの報酬も凄まじかったな。
風呂場のシャワーに使うようなもんじゃないんだ。
「わかりました。オスカーさんのためにも何とかしてみましょう!」
「本当ですか!こちらからも是非お願いします」
商会長と握手をしてその場を辞した。
◇◇◇◇◇
「ロッコ、ウナギ筒ってそんなに希少だったの?」
「あっしには地下10階の獲物なんて分かりやせんて」
そう言えば100ポイント未満の冒険者だったな。
「カニパーティのついでに狩るようなもんじゃなかったんだな」
「あの喜びようを見るにそうなんでしょうな」
「今日採りに行っても、五日後くらいに納品しようか」
「そうすると冒険者ギルドへの提出を回避することになるのでダメですぜ」
あの絡み男がギルドの決まりを守ろうとするとは!!
「じゃあもう、今日はたまたま入れ食いでした的な感じで納品しちゃうか」
「そっちの方が真っ当ですね」
◇◇◇◇◇
娼館拠点へと戻り、昼食を摂りながら皆に話す。
「港湾ギルドへの加盟条件として、地下10階のウナギ5本採ってきてって依頼を受けたんだ。ついでだから地下10階のカニを本格的に調理して食べるつもりだけど誰か一緒に行く?」
まさかの全員参加希望だった。
松下さんはルシティの実家へ白紙の本を取りに行きたいという理由もあったが、他のメンバーはカニが食べたいという理由だけで参加希望を出してきた。
「子供たちもミッツ姉妹も守護霊一派もリオアプラも行くのか」
「社会見学を兼ねております」
松下さんはそう言う。
「じゃあ全員で行くか!みんな鍋の具材を背負え!」
◇◇◇◇◇
背中に大鍋や野菜を背負った大集団でゾロゾロと北冒険者ギルドへ向かっている途中、小綺麗男ことリダイを見かけたのでそのまま連れてきた。
子供達や獣人姉妹、守護霊一派とリダイの冒険者登録をしてみたら、意外なことに問題なく全員が登録できた。
冒険者ギルドは懐が広い。
いい機会なのでリオやアプラ達も『水暁の橋』へと所属変更し、計26名で迷宮へと向かった。
◇◇◇◇◇
ギルド内から迷宮まで、常に好奇の眼差しに晒されながら進み、迷宮内に入ることでようやく一息つくことができた。
「やっと人の目から逃れられた」
「流石に大人数過ぎましたかね」
「宴会ならコレくらいの人数は普通だろ」
「迷宮に宴会をしに行くことが普通じゃないんすよ」
浅層階では松下さんに監督をしてもらいながら、子供達に魔物を倒してもらった。
一番先輩であるオサートちゃんが手本を見せ、それを真似て皆が火球を放っていた。
中には威力を高くしすぎてゴブリンを消し炭にしてしまった子もいたが、地下二階に着く頃には皆が適切な威力を覚えたようだった。
なお、最も筋が悪かったのは小綺麗男リダイだ。
我々の戦闘スタイルに慣れてもらうため、リダイにも同じことをしてもらったのだが、固定概念が強いせいなのか威力の調節に手間取っている。
「く、国が落とせますね………」
いつかのロッコと同じ感想を口にしていた。
地下2階からはリオとアプラも火球体験に参加していた。
元より戦闘経験のある二人は、適切な威力の調整がうまく、短時間で杖の操作をものにしていた。
地下3階のゲジゲジには皆の代表としてフロガエルが大騒ぎしてくれた。
自分より怖がっている人を見ることで冷静になれたので彼には感謝している。
地下5階では新素材を大量に使う予定があるのか、守護霊一派が率先して材料集めを行なっている。
流石に遠回りしてまでスライム狩りをすることはできないので、今回は大蜘蛛素材のみで我慢してもらった。
地下8階から現れるゴーレムの相手は、今回はスレッジハンマーを持ってこなかったので、全てエイナーザにお願いした。
ゴッドチョップで次々にゴーレムを砕いていく姿は圧巻であり、子供達にもやり方を教えていたが、あんなもの誰にも真似できんだろう。
そしてようやく地底湖へと到着した。
◇◇◇◇◇
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