第64話 ロッコにお任せ

 朝から倉庫の改修具合を視察した後、資材補充と先日のお礼を兼ねて製材所へ向かった。


 製材所のおじさんは『端材を渡したら次の商売に繋がった』と喜んでくれていた。

 ちなみに手渡したお土産は途中のお店で買ったフルーツの盛り合わせだ。




 製材所での用事を済ませ、昼食を取るために娼館拠点へと戻ると、娼館の前でルシティが露店を開いていた。



「お、ついに販売開始?」

「うむ、色々悩んだ結果『ドーナツ』の販売をすることにしたぞ。うちは魔道具のおかげで薪代が殆どかからんからな、揚げ物と相性が良いのだ」

「売れ行きはどうなの?」

「私の身なりが露店に見合っていないのかあまり売れてはおらぬな。少し手を加える必要がありそうだ。 お昼ご飯はすでに作って厨房に置いてあるので好きに食すがよい」

「いつもありがとう。何か手伝えることがあったら声をかけて」

「うむ」


 ついに飲食店がスタートしたか。

 それにしてもドーナツとは考えたな。

 バリエーションも増やしやすいし、買ってすぐに食べる必要もないから時間的余裕も多い。

 ルシティは見た目がエレガントすぎるし顔が恐ろしく美しいので近寄りがたいってのはあるな。       

 可愛い販売員を配置したら一気に売れ始めるんじゃなかろうか。


◇◇◇◇◇


 昼食を食べ終え、お茶をすすってのんびりとしていたら、外出をしていたロッコが帰ってきた。


「ダンナ、やっぱり舟運業の許可は条件を満たせなかったので、飲食業の許可だけ取ってきやしたよ」


「ああ、予想通りか。なんて名前のギルドへの加盟が必要だって?」


「港湾ギルドってとこみたいっすね。漁船や運搬船、定期船なんかの港を利用するあらゆる船のギルドみたいっす」


 随分と包括的だな。スワンボートを留めても加盟を求めてくるんだろうか。


「加盟条件って役場で聞けた?」


「いえ、役場ではダメだったんで、港湾ギルドの場所だけは聞いてきました。港エリアにギルド会館があるみたいっす」


「いきなり乗り込んでもダメだよなあ?やっぱり一度定期船の商会長さんに話を聞きに行こうか」


「力づくっすね」


「いやだから違うって」


 商会長さんに会いに行くのにロッコ以外で同行する人はいないかと呼びかけてみたところ、何故かフロガエルが同行を希望し、そのフロガエルを抱えていたネスエもついでに来ることになった。


 フロガエルは水中翼船が作りたくて仕方がないらしく、港湾ギルドに関しての行動なら是非とも連れて行ってほしいそうだ。


「よし、じゃあ行こうか」


 こうして我々一行は、港エリアへには行かず、南区の魔道具屋を目指して出発した。


◇◇◇◇◇


「先日は夜分遅くにご迷惑をおかけしてしまい誠に申し訳ございませんでした。こちらはお詫びの品です。どうぞお納めください」


 そういって道中で購入した焼き菓子詰め合わせを渡した。


「全く老人を夜遅くにこき使うんじゃないよ。それはそうと最近は派手にやってるそうじゃないか」


「いえいえ、目の前のことで精一杯ですよ」


 いきなり定期船商会に乗り込んでいくのも非常識だと思い、商会長と面識のある魔道具店のお婆さんに紹介状を書いてもらおうと考えここへやってきた。


「今日は魔道具目当てじゃないんだろ?私も忙しいからね、早く要件を言ってごらん」


 そう促されたので事の経緯を話し、紹介状を書いてもらえないかお願いをしてみた。


「なるほどね。別に書いてやってもいいんだが、ちょうどお前達に頼みたいことがあったからそれと交換って事でどうだい?」


「わかりました。依頼をお受けします」


「依頼内容も聞かないでよく返事をしたもんだねえ。私がとんでもない依頼をしたらどうすんだい」


「お婆さんは我々に無理を言うような方でないことは分かっておりますので」


「よく言うよ」


 お婆さんからの依頼はまたも迷宮素材収集だった。目当ての素材は『スライムの粘液』だそうで、魔道具製作で使う薬品の材料となるらしい。


「スライムの粘液はガラス瓶に入れておかないと性質が変わってしまうから、皮袋や金属の容器じゃあいけないよ。道向かいの工房でガラス瓶は取り扱っているからそこで準備していきな」


「わかりました。すぐにでも採ってきます」


「今から行くのかい?なら紹介状を書いて店を開けて待ってるよ。気をつけて行くんだよ」


「はい。では行ってきます」


◇◇◇◇◇


 目的のスライムが地下5階という、我々にとっては割と浅層に出現するため、ガラス瓶を購入した後はそのままの足で迷宮にやってきた。


 恒例のゲジゲジエリアに足を踏み入れると、同行していたフロガエルが大騒ぎしていた。


「あかんて!あかんて!脚多いのはあかんて!」


 見た目はカエルなのに中身は伴っていないらしく、虫を見て恐怖するカエルは中々に新鮮だった。



 地下5階に到着するも、行く先には大蜘蛛ばかりが現れ、伝家の宝刀ロッコを振りかざしながらスライムを探し回った。


「糸袋がいっぱい手に入るのは嬉しいけど、依頼の品は早いところ確保しておきたいなあ」


 ギターの弦に使う分の糸袋は先日の時点ですでに確保してあるので、今日手に入れた分の使い道は特に決まってはいないが、細い紐は何かと使い勝手が良いので、大蜘蛛を倒した数だけ全部回収していった。



 通路の先にまたもや大蜘蛛が現れ、いい加減うんざりとした気持ちで近寄って行くと、どうやらその大蜘蛛は絶賛食事中だったようだ。


「なんか食ってますよ」

「ひいいいいいい」


 悲鳴をあげているのはフロガエル。

 自分と奥田が元々担っていた役を代わってくれたので嬉しい。声は上げなくてもしっかりと怖いままだが。


「大蜘蛛って何食べてんの?」

「冒険者だったらどうします?」


 ネスエが怖いことを言ってきた。


「や、やめてよね」




「あー大丈夫みたいっすよ、これスライムを食べてるようですわ」



 手早く大蜘蛛を倒したロッコが、食べられていたスライムを見せてくれた。


「へー、コレがスライムか。なんか思ってたよりブヨブヨしてないね」


「いや?スライムはそんなことないっすよ?」



 ロッコが食べられていたスライムの死骸を剣の先で突く。



「なんかこのスライム硬いっすね。本当はもっとブヨブヨっすよ。身を守るために硬くなったとかっすかねえ?」



 自分も杖の先でスライムを突いてみたが、確かに硬質な感触が返ってきた。


「んーーーーーーーー」


「どうしたんすか?」


「あー、いやいい。そのスライムの中身はお婆さんの言ってた『スライムの粘液』なの?」


「あ、そうっすね。コレも回収していきやしょう」




 その後はスライムも何匹か見つかり、お婆さんから頼まれていた以上の粘液を手に入れることができたので、北冒険者ギルドまで一気に帰還した。




◇◇◇◇◇




「え?そんなに持ち帰るんすか?」


 ギルドでの査定を終え、引き取り品の選択をする際、大蜘蛛の糸袋とスライムの粘液は売らずに全て引き取ることにした。


「この材料にちょっと興味が湧いてね」



 引き取り品を背嚢へと入れ、お婆さんの店へと向かう。

 魔道具店はお婆さんが言っていたとおり、すでに日が暮れているにも関わらず開いていた。


「お待たせしました。依頼の品です」


「本当に仕事が早いねえ。毎回お前たちに依頼したいよ。そうだコレを渡さなきゃね」


 そういって定期船商会への紹介状を差し出してきた。


「はい確かに。突然のお願いを聞いてくださってありがとうございました」


「こっちとしても欲しい材料が手に入ったからお互い様だよ。ここへはいつでも来ていいからね。用事がなくてもたまには顔を出しな」


「はい。ありがとうございます。つぎはまたうちで作った美味しいものでも持って伺います。ではまた」


 無事目的の紹介状を手に入れることができ、一行は娼館拠点へと戻った。





◇◇◇◇◇




「うっひょーー!!マジで出来たーー!!」



 歓喜の声がダイニングに響き渡る。


「先輩、何作ったんですか?」


 たった今完成した板を奥田に手渡す。


「え?これって………」








「出来たんだよ!プラスチックっぽい素材が!」





◇◇◇◇◇

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