第61話 部位破壊

 両膝を地面につけて目を瞑り、両手で掴んだ杖を高く掲げて祈りを捧げる。




(女神様、女神様、我が業務連絡をどうか聞き届けて下さい)



………。



(はいもしもしこちらエイナーザ。ジュンペーさんどうされました?)


 良かった。声が届いた。


(少しトラブルに巻き込まれてというか、自らトラブルに首を突っ込んだのですが、おそらくこの後に戦闘になるかと思い、援軍要請のために連絡いたしました)


(あらあらそれは大変ですね。では皆に繋ぎますので少々お待ちください)


 そんなこと出来るんだ……。


(はい、ではどうぞ)



(あーあー。業務連絡、業務連絡。ただいま港エリアの倉庫にて、隣国から誘拐されてきた獣人の女の子2名を保護した。 これから誘拐犯である無頼漢多数と戦闘になることが予想される。 戦闘員はただちに甲類装備着用のうえ、交戦予測ポイントまで急行せよ。 繰り返す。 戦闘員は甲類装備着用のうえ、交戦予測ポイントまで急行せよ。 今より10分後、空に向かって光球を撃ち上げるのでそれを目印に集合せよ。 以上!)



(エイナーザありがとう)


(どういたしまして。では後ほど)


◇◇◇◇◇


「いまのは何!?」

「あんちゃんの力か?」


「違う違う、エイナーザに頼んで使わせてもらった能力だよ。ってかフロガエルにも聴こえてたんだな」


「びっくりしたでほんま」


 どうやら守護霊達にも連絡が届くようにしてくれたようだ。本当にありがたい。今度何か美味しいものでも持ってお礼しよう。



 そして獣人姉妹の前にしゃがみ込んで声をかける。


「二人とも、今からおにいちゃんの仲間が助けに来てくれるからもう少しだけ待っててね。後で一緒に美味しいご飯を食べようね」


「うん」

「わかったー」


 こんなにも健気な姉妹を見ていると、誘拐組織に対しての怒りがどんどん溢れてくる。



「もし乱戦になるようだったら二人は姉妹を守ってあげて」


 ネスエとフロガエルにおねがいする。


「わかりました」

「おう、任せとき」


「ところでフロガエルって戦えるの?」


 さすがにカエルの姿で戦うのは厳しそうだ。


「なにゆうてんねん!そこらのやつには負けへんて」


 戦い方が気にはなるけど、本人がそう言うなら大丈夫なんだろう。


「じゃあ宜しく頼むよ」



 そろそろ時間かな。


◇◇◇◇◇


 扉を開いて一番最初に外へと出た。

 警戒しながら周囲を見渡すも、人の気配は一切しない。


 肩にフロガエルを乗せたネスエが、姉妹と手を繋ぎながら外へと出てきた。


 振り返って声を掛ける。


「じゃあ合図を送るね」


 杖を上向きにして構え、奥田の真似をして詠唱をした。



「光あれ!」



 杖の先から空に向かって光球が放たれ、昼の明るさにも負けない輝きを撒き散らしながら上昇していき、地上から50mほどの高さで停止した。



 倉庫の前には比較的広めの道が通っており、左右と正面のどちらにも伸びている。


 仲間が駆けつけてくるなら、娼館の方角的にも右の道から来るだろう。


 割と緊張しているので早く来てくれないかなぁと皆の到着を待ち侘びてはいたが、お約束を違えることなくガラの悪い男達が先に到着した。


 ヤクザ者は十人ほどが集結し、その多くの者は交戦的な視線を遠慮することなく向けてきており、平和的な人間など一人も混ざってはいなさそうだった。


 反社会的集団の中央にいた、比較的小綺麗な身なりをした男がこちらに向かって話しかけてくる。


「なあおにいさん、そこにいる獣人はウチで預かっている客でね、悪いんだがこちらに渡してくれるかい?」


 そういやさっき『既に金は受け取ってしまっている』って話していたな。

 この姉妹を取り戻さないとメンツが丸潰れになるんだろう。

 こう言ったやりとりには全然慣れていないけど、仲間が来るまではなんとか場を持たせたいところだ。


「それはおかしいですね。 彼女達は今からウチで食事をすることになっていましてね。本当に申し訳ございませんが再来週あたりにまた約束を取り付けて頂けますか?」


 すると今話していた小綺麗男が、隣にいた大男の方を向き、顎をしゃくって指示をした。


 何が場を持たせるだ。速攻で戦闘に突入しちゃったじゃないか。

 もう少しくらい慇懃な嫌味合戦をしようぜ。


 指示を受けた大男は集団の中から飛び出し、こちらに向かって歩いてきた。


 胸ぐらを掴もうとして伸ばされた手を、身体を沈めることで躱しつつ、男の軸足めがけて蹴りを放った。


 骨をへし折る嫌な感触が足を伝わってくる。



「ぐああああああああ!!!」



 辺りに絶叫が響き渡った。


 大男の膝は曲がってはいけない方向へと曲がり、その痛みのせいか大袈裟に地面を転げ回っている。



 一連の遣り取りを見た小綺麗男はすぐに他の男へと指示を出し、それ受け取った男は集団の後ろへと走って何処かへ消えた。


 再び小綺麗男が話しかけてくる。


「おにいさん、暴力は良くないよ。ウチの部下が痛そうにしてるじゃないか」


「確かに痛そうだ。悪いことをしたな。教会にでも行って慰めてもらえ」


 しまった!聖歌教のやんごとなきお方がこっちに向かってるんだった。いまのセリフは無しで。


 気を取り直して今度はこちらから話をすることにした。


「貴方達は獣人の子を攫ってきたんですよね? でしたら貴方達全員をぶちのめさないといけないので此処に全員を呼ぶことって可能ですか?」


「はぁ?」


「もし全員を連れてくるのが難しいなら、貴方達の事務所的な場所を教えてもらえませんか?」




「おい、もういい加減にせえよ?」


 ちょ、早い早い!あんたんとこの増援だってまだ駆けつけてないじゃん!ええい。



「いい加減にしろだぁ? いいか、子供を攫って怪我させるようなクズはな、聖歌教のトップが許しても俺が許さねえんだよ!!!」


 しっかりと啖呵を切ったところで上空から奥田の声がした。


「先輩いいぞー!!やっちまえー!!」


 声のする方を向いて奥田を探すと、倉庫の屋根の上でポーズを決めたフル装備の皆がいた。



「おー、やっときてくれた。怖かったんだからな」


◇◇◇◇◇


 奥田の話によると、どうやらロッコとオサートちゃんと松下さんは娼館で子供達を護衛するために残ってくれたそうだ。


 こちらの増援が揃ったところで小綺麗男が声をかけてきた。


「おい、てめぇらどこのもんだ」


「俺たちは水暁の橋って組のもんだ。覚えとけ」


「ああ?聞いたことがねえな?まあいい、全員死ねや!」


 小綺麗男の言葉に合わせて全ての路地からヤクザ者共が大量に雪崩れ込んできた。


 全員が手には刃物を持っており、殺意が漲っている。


「皆んな一応殺さないように」


「「「了解!」」」



 隼人くんが投げるクナイがヤクザ共の膝に次々と刺さっていく。えぐい。


 葵ちゃんの放つ極細の熱光線が相手の膝を打ち抜いた。稲葉姉弟は膝狙いすぎ。


 奥田は襲いかかってきた相手の足首を躊躇うことなく切り飛ばしている。ひいいいい。


 ルシティが掴み上げた人間は、一瞬で白髪の老人へと変えられていた。こっわ何あの能力!!


 ネスエが触れた相手は、地面に倒れてビクビクと腰を動かしており、周囲には栗の花の匂いが漂った。それって。


 ミーヤたち守護霊一派はどこにそんな力があるのかわからないが、ヤクザ達を真正面から殴り倒していた。しっかりと強いな。


 自分に向かってきた相手には、先ほどの大男戦と同じく丁寧に膝を割って地面に転がした。



 50人近くいたヤクザ共をあらかた処理をしたあたりで、小綺麗男が逃げ出そうとしたところ、葵ちゃんが素早く膝に穴を開けていた。怖い。



 周囲は死屍累々の有様で、全員が呻き声をあげながらグニャグニャとのたうち回っている。


 倒れていた小綺麗男を奥田が掴み上げて質問をした。


「ねえ、あんたたちのボスんとこに案内しなさい」

「くっ!誰g…」


 男は必死に抵抗してみせようとしたが、拒否の言葉を最後まで言うことなく、奥田に足首を切り落とされた。


 路地には男の叫び声がこだまする。


「もう一度聞くわ。ボスはどこ?」


「貴様らに…」


 今度は反対側の足首が切り落とされた。


 え?彼女はいったいどこ育ちなの!?




 それから数回同じやり取りをし、小綺麗男の脚が膝あたりまで無くなったところで漸く気絶をした。


 すると奥田は白魔法の杖を使って男の脚を再生し、頭から水をぶっ掛けて覚醒させる。


 目を覚ました男に対して全く同じ質問をする奥田。


 そしてついに男が折れた。


◇◇◇◇◇


 出血のひどい者だけは止血をし、獣人姉妹が隠れていた倉庫にヤクザ全員を放り込んだ。


 ルシティとネスエが見張りをしてくれると言うのでそのままお願いし、残りのメンバーでボスの元へと向かうことになった。



 ヤクザと戦った場所から程近い位置にそれはあり、古い倉庫を改良した建物が彼らのアジトらしい。

 入り口を守っていた男達の足首を、一切会話を交わすことなく切り飛ばした奥田は凄い。


 建物の最奥にいたボスと思しき人物に会うと、挨拶よりも先に奥田が足首を切り落とした。


 杖で止血だけを行い、話し合いの場が設けられることとなった。

 いやいやこの状態で話し合いなんて出来るわけがない。


 震え青ざめるボスから獣人姉妹をどこから攫ったのかを聞くと、隣のジナーガ王国から攫ってきたことが判明した。

 ついでに獣人姉妹の売り先を聞くと、知らない貴族の名前を言われたので、その名前を紙に書かせることにした。


 そしてアジトにいたヤクザ全員を、先ほどの倉庫まで引きずって連れて行き、一旦全員を倉庫の中へと監禁する。


◇◇◇◇◇


「さてどうしよう」


「燃やします?」


「いやいやいや、それは流石に」


 奥田の暴力的発想が止まることを知らない。


 全員を殺すわけにもいかないので、一人一人から今まで犯した罪を聞き出して紙に書いてもらい、その紙を首からぶら下げてもらった。


 罪を隠していないかを確かめる術はないので、その点は目を瞑ろうと思ったのだが、話を聞いていたネスエが「私なら確認できる」と言うのでお願いしてみたところ、彼女はヤクザの額に手を当てて「本当」「本当」「嘘」と、次々と紙に書かれた罪状の真贋を判断していった。


 嘘と判定された者の足首を奥田が切り落としていくと、自発的に嘘をついていたと白状するものも現れ、概ね紙に書かれていることと実際の罪は等しくなったと結論づけた。


◇◇◇◇◇


 犯した罪を書いた紙を首からぶら下げた50人以上のヤクザ共をロープで一繋ぎにし、衛兵詰め所まで歩かせた。


 もちろん最後には「罪を償わなかったり、再び罪を犯すようなら両足首を切り落とす。ただし、食うのに困って路頭に迷いそうならばすぐに冒険者ギルドのリオに連絡しろ」と脅していた。


 リオ大丈夫かな。


 これにて一応は獣人姉妹救出作戦は完了し、皆で娼館拠点へと帰還した。


◇◇◇◇◇

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