第60話 自分だけ天鱗は出ない
翌日も朝から守護霊探しに出掛けていた。
「やっぱり大聖堂で交霊ブッパしちゃおうよ」
「やけになってはダメですよ」
「せやであんちゃん、やけはあかん」
「何でフロガエルが着いてきてるんだよ」
本人の弁によると、同じ守護霊が居た方が説得もしやすいとの事だが、確かに彼の言う通りだと思ってしまったため連れていくことになった。
「今のワシの姿はカエルやさかい、今日は水辺の方へ探しに行こうや」
「ぬいぐるみだと水吸っちゃうだけだろう」
◇◇◇◇◇
フロガエルのリクエストに応えて港エリアまでやってきた。
この辺りは一部治安の悪い場所もあるため、広い通りに沿って散策を行なっている。
「ムキムキの男ばかりいるな」
「汗臭そう」
「色街の方が好みやわ」
港で働く男性を見て三者三様の感想を口にした。
「港と水辺と働く男達。これだけの要素があるならここで交霊すれば見つかるよねえ?」
「今のワシは交霊中やから直接は見れへんけど、この場所なら守護霊の二、三人は見つかると思うで」
「でもずっと人が途切れませんねえ」
今も視線の先では、定期船から大勢の客が降りてくるのが見える。
そしてその客の中にいた女の子がこちらを指さして言った。
「おかーさん、あのカエル喋ってた!」
「ちょっ!!」
フロガエルが遠慮なしに喋りまくるので、やっぱり人に聞かれてしまっていた。
「そうねー、可愛い妖精さんかしらねー?」
そういって親子は手を繋ぎながら街の中心方面へと歩いて行った。
「………」
「大丈夫やない?」
「それほど珍しくないのかも?」
「妖精って一般的なのかも?」
リオやアプラのような常識的な感覚に欠けるこの三人にはいまいち判断ができなかった。
◇◇◇◇◇
その後も港エリアの大通りに沿って散策するも、条件に見合った場所は一向に見つけられなかった。
「もう路地裏も探してみようや」
「危ない連中に会いたくないじゃん?」
「私が戦いますから大丈夫ですよ」
「いやいや、なるべく戦いを避ける選択をだね…」
三人目の守護霊探しは依然として難航しており、道の端でこれから先の行動について話し合っていると、路地裏の方から穏やかではない話し声が聞こえてきた。
「あいつら何処行きやがった!」
「ふざけんな!もう金は受け取っちまったんだぞ!」
「獣人がここいらで目立たねえ訳がねえだろ!さっさと探せや!」
そしてその声の出どころと思われる目つきの悪い男達数名が路地裏から現れ、頻りに辺りの様子を伺った。
「『あいつら何処へ行きやがった』って生で聞けて感動してる」
「ヤクザ者ってやつですかね?」
「なんや人を探しとるみたいなや」
男達はしばらくの間大通りを見渡し、目的の『あいつら』が居ないことを確認したのか、再び路地裏へと引き返していった。
「どうします?」
「個人的には一切関わらずに立ち去りたいところなんだけど、一応はあいつらの話に出てきた獣人達を探しだして、無体を強いられてはいないかだけは確認するよ」
「どうみても悪人だったやん?」
「もしかすると法に則った正当な理由や権利を持ち合わせた上で、獣人達を探しているかもしれないしね」
「まあ可能性は無いこともないですね」
「先ずはアイツらよりも先に獣人を保護しなきゃいけないんだけど、人数と土地勘はあっちの方が上だからなあ」
娼館にいる仲間に応援を頼みたいけど、そんな時間が残っているのか怪しい。
「でしたら私に任せて下さい。多分見つけることができます」
ネスエには獣人達を探し出す方法があるらしい。
「何か人探しの魔法でも使えるの?」
「似たようなものですが少し違います」
サキュバス特有の能力だろうか?
背中から羽根を生やして空から見つけ出すとか、眷属を呼び出して人海戦術に頼るとか?
「性欲センサーです」
「え?」
「性欲センサーです」
全く同じことを2回も言わせてしまった。
「私はサキュバス固有の能力として他者の性欲を視認することができます。その能力を頼りに夜な夜な誘惑する相手の元へと行くのが我々の種族の特徴です」
性のサンタクロースみたいだな。
「その能力は建物などの障害物を無視することができるので、今現在小さな性欲が複数固まっている場所をこの付近で特定すれば、おそらくそこに獣人達は居るはずです」
障害物貫通は破格の性能だ。
「今隠れて震えている獣人達はきっとそれどころじゃないはずなので、非常に小さな性欲を示していると思います。あー、命の危険を感じて取り急ぎ交尾をおこなっていたらその限りではありませんが」
さすがに隠れ忍びながらやってはいないだろ。
「ということで、早速探しに行ってみましょう。ちなみにジュンペーの昨晩の性欲は『6』で、今は『9』です」
「え?ちょっと? 普段から俺の性欲って見られちゃってるの? それって何段階評価なの? 数字が大きいとどうなの?」
「急ぎましょう」
ネスエはそう言うと、路地裏の奥へスタスタと歩いて行ってしまった。
「ちょっと!? 9ってどうなの? それって恥ずかしい数値だったりしないの?」
◇◇◇◇◇
ネスエの性欲センサーは優秀で、あっさりと獣人の居場所を特定してみせた。
「この中に二人分の性欲がみえます」
そうネスエが指し示した建物は、港エリアでは幾らでも見かける何の特徴もないただの倉庫だった。
倉庫の入り口はもちろん施錠されており、この入り口の他には出入り可能な箇所は見当たらない。
こうなっては入り口を蹴破ろうか火球をぶち当てようかと逡巡していると、フロガエルが鍵穴を数秒だけ覗き込み、その直後にあっさりと解錠してみせた。
「カラクリが単純やねん」
「泥棒じゃん」
「今はそないなこと言っとる場合やあらへんて」
三人で倉庫内へと侵入し、念の為に入り口を閉じておく。あのヤクザ達がこの倉庫の前を通りかかったとしてもすぐには気付けないだろう。
倉庫内は暗く埃っぽい。壁際に木箱や麻袋などが積み上げられているのがうっすらとだけ見える。
「あの辺りです」
ネスエが教えてくれた方へと近づき声を掛けた。
「あー、こんにちは。貴方達がそこに居るのは分かっています。私はこの街で迷宮探索家を営んでいるジュンペーと言うものです」
挨拶は大事。
「先ほど外でガラの悪い男達が貴方達を探しているのを見かけ、もしかすると保護が必要なのかと思い声を掛けさせていただきました。我々は貴方達に危害を加えることは決してありません。出てきてお話を聞かせてくれないでしょうか」
「ちと堅苦しすぎると思うわ」
「うっさい!」
フロガエルがダメ出しをしてきた。
すると倉庫の奥から二つの人影が這い出てきて、こちらに話しかけてくれた。
「貴方達は味方なの?」
隠れていた獣人は二人おり、まだ小さな子供のようだった。
「せやで!ワシらは正義の味方っちゅーやつやわ!そない奥におらんとこっちきーや」
「ひっ!!!カエルが喋った!!」
妖精さんは一般的ではなかったようだ。
◇◇◇◇◇
倉庫の奥に隠れていた獣人は、まだ成人もしていない二人の姉妹だった。
話を聞くところによると、隣の国で行商人をしていた父親とともに、荷馬車に乗って街から街へと移動している時にガラの悪い男たちに襲われ、二人は攫われたらしい。
◇
二人は木箱に詰められて船へと運び込まれ、今朝方この港に着いたそうだ。
港に着いた後は誰かに売り渡されるような話を耳にしたものの、木箱から出された時に足枷を嵌められ柱へと繋がれてしまったため、逃げ出すことも出来なくなったらしい。
だが嵌められた枷は子供を想定して作られたものではなかったせいか、無理をして足を引っ張ればどうにか外すことができ、見張りの隙をみて逃げ出すことに成功する。
無理に枷を外したせいで足に怪我を負ってしまったので走ることも出来ず、一旦は近くの物陰に隠れてやり過ごそうと画策した。
ちょうど近くの倉庫で荷物の出し入れをしているのを見かけ、人目を盗んで倉庫内に侵入した。
そして外側から鍵をかけられたので今まで隠れていることが出来たそうだ。
◇
杖を持って念じる。
「傷を癒したまへー!」
光が二人の足首を照らし、みるみるうちに傷が塞がっていった。
残っていた枷もフロガエルが一瞬で外す。
「よし」
「あ!痛くない!治ってる!」
「ほんとだ痛くない!」
獣人姉妹の傷が癒えたことを確認してから立ち上がる。
腕を伸ばし肩をぐるぐると回してから自身の頬を両手でピシャリと張る。
「っしゃ!やるか!」
「せやな」
「そうですね」
「で、どないするん?」
フロガエルが尋ねてきたのでそれに答える。
「そんなの決まってるだろ」
杖を両手持って高らかに掲げた。
「神に祈る!!」
◇◇◇◇◇
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