第52話 異世界でおなじみの悪党

 大量の荷物を抱えて階段を上るのに苦労をしたものの、手に入れた略奪品を冒険者ギルドまで運び込むことに成功する。


 略奪品はかなりの量となるため一旦ギルドの倉庫へと運び込まれ、そこで査定を受けることになった。

 査定が終わった後は、買取に回すものと自分達で引き取りるものとを選択する必要があるため、ここでロッコと隼人くんにお願いして、娼館にいる他の仲間を呼んでくるように頼んだ。


 倉庫内の略奪品をギルド職員であるリオとアプラに見張っていてもらい、その間に職業訓練棟へと赴き、本日講習会に参加しているメンバーに倉庫へ来るように伝えた。


◇◇◇◇◇


 タイミングが良かったせいか、誰一人欠けることなく全員がギルド倉庫に集まることができた。


 目の前では「この布をオサートちゃんのドレスに仕立て直します」「ダイニングにシャンデリアつけましょうや」といったやり取りが盛んに行われており、普段は見ないような活気に包まれている。

 ミーヤも人形のフリをして葵ちゃん肩に乗っていたが、興味のあるものを見つけては飛びついてしまっているので、他のギルド職員にバレやしないかヒヤヒヤさせられた。



「これ返しておくね。扉は施錠しといたよ」


 ルシティに借りていた金ピカの鍵を渡した。


「ああ、手間をかけたな。それで、あれに見えるおなごが私の居室の奥で眠っておったとな」


 ルシティの視線の先には、顎に手を当てて白磁のティーセットを吟味するネスエが居た。


「ネスエちゃんね。ルシティの家族かと思ってたけど、面識はないんだよね?」

「うむ。隣の部屋にかようなものが眠っておったとは一切知らなんだわ。ただ家族か……。今まで私の隣に住んでおったのなら、あのおなごは家族とも言えような。そういう点で言えば、ジュンペーたちも既に私の家族に違いないな。ふふふ」



 自分も奥田も日本では既に血縁者を全て亡くしており、家族と呼べる存在がいなかったため、いまのルシティの言葉によって胸が一杯になった。


「まあ、時間がある時だけでも彼女に気を掛けてやってくれ」


「言われるまでもない」


 そういって二人は笑った。



◇◇◇◇◇


 略奪品の乱取りも大体落ち着いて、全ての査定が終わった頃には日も落ちてしまい、外はすっかり暗くなっていた。

 予定では娼館に帰ってルシティの料理を食べるはずだったのだが、今から準備していてはさらに遅くなりそうだったため、急遽ギルドの食堂で夕飯を食べることになった。

 一部の略奪品を抱えたままで。



「おつかれさまー」


「「「おつかれさまー!」」


「えー、一部の人には既に紹介したと思いますが、あらためて紹介させていただきます。彼女はルシティの実家の隣に住んでいたサキュ、えー、名前はネスエさんです。よろしくお願いします」


「ご紹介にあずかりましたネスエです。皆様どうぞよろしくお願いします」



 ギルドの食堂内であやうくサキュバスって言いそうになったので反省をした。


◇◇◇◇◇


「絶対シャンデリアを付けたらカッコよかったですって」

「あれって8万輪で売れたんだよ?」

「え?そ、それなら売った方がよかったかもっすね」



 皆が欲しい物を引き取った上で、残った物をギルドに売ったら莫大なお金が手に入ってしまった。

 もう後何年かは全員が働かなくても暮らしていけるほどの額だ。


 これで隣の国の震源遺物さんを探しに行く際にも、相当な贅沢旅行ができると喜んだ。


「大型魔道オーブンを購入してもよいだろうか!」

「全然構わないでしょ。5台くらい買っても平気だよ」

「1台で十分なんだが……。ああそれで思い出したわ。今日役場に行ってきてな、飲食店の営業許可を得てきたぞ」



 今朝ルシティが役場に行くと言っていたが、それが理由だったのか。この街って魔物にも許可をくれるんだな。


「あの拠点がある地域には近所で働く若い女が多くいるのでな、簡単な焼き菓子を拠点の前で販売しようと考えているのだ。女本人も菓子は好きだろうし、その女に熱をあげている男どもが土産として購入するだろうと、ミサキと一緒に考えておったのだ」



 これには正直驚いた。

 まさか既に地域のマーケティングまで済ませて事業計画を立てていたとは。

 ミサキが一枚噛んでいるとは言え、迷宮から出てきて日の浅いヴァンパイアがお菓子屋さんを企画するなんて………面白すぎる!!!


「この程アプラに頼んでおいた自動泡立て器の試作器も実装されたのでな、ゆくゆくは生クリームを使った菓子の販売も予定しておるわ、ふふふ」


「あれ完成したんだ?」


 アプラが答えてくれた。


「ええ、ウナギ管を使って水車を回し、その動力を木べらへと伝える形のものを作りましたわ。使った水を再び貯水槽へと還元する関係で現在は少し大型にはなっていますが、あと少し手を加えれば小規模の店舗でも設置可能な大きさにまで小型化できるかと。また木べら部分と歯車比は任意で切り替えることが可能ですので、攪拌動作だけではなく、篩(ふるい)で小麦粉のダマを取り除くための振動動作や、生地の練り上げ動作などにも対応可能です。大規模工場には向いておりませんが、機械の小ささを売りに、パン屋をはじめとする各種小規模店舗に絞って売り込んでいけば、この街の機械占有度合を我々で牛耳ることは早晩に可能かと存じます」



 あれ?どうしちゃった?我々で牛耳るって何?なんかヤバいな?また自分だけ置き去りになっていないか?



「ロッコはもっとシャンデリア占有率とかに夢中になろうな」

「急にどうしたんすか」



◇◇◇◇◇


 食事を終えた一行は、略奪品を持って娼館への帰り道を歩いていた。

 申し訳程度の明かりが灯されてはいるが、路地は依然として薄暗く、日本のような安心感からはほど遠い。


 ネスエが両手で大事そうにティーセットを抱えている姿はとても可愛らしい。

 ティーセットに限らず気に入ったものを手に入れてそれを大事にすることは、自己の成長に欠かせない要素だったはずだ。

 生まれてから数時間かもしれない彼女もまた、これからもずっと健やかに過ごしていけるよう心から願った。



 薄暗い路地を皆で歩いていると、横合いから見窄らしい姿をした二人の子供が飛び出してきた。


「おいオサート!なんでお前がそんな綺麗な服を着て歩いてんだよ!宿紹介の上納金くすねてその服買ったんだろーが!」



 子供の怒鳴り声を聞いて、すぐさま松下さんが自身の後ろにオサートちゃんを隠した。


 あれ?これはまた奥田好みのイベントなのでは?

 そう思って奥田の方を向くと、案の定キラキラした目で子供達を見つめていた。


「今しがた手に入れた莫大な金。事業の立ち上げと拡大のために必要な人員。教科書やノートに使えそうな白紙の本。まだまだ余っている娼館の部屋。そして食うのにも困っていそうな薄汚れた子供達……」


 奥田が何かブツブツ言いながら汚れた子供の前まで歩いていく。


「完璧です!!!」


 そう子供に向かって奥田が大声を上げると、すぐに目の前にいた子供の一人の襟首を掴み、宙へと持ち上げ宣言した。


「今すぐ他の仲間を連れてこい!30分以内に全員を集められなければコイツを殺す!」


「「「えええええ!!!」」」


◇◇◇◇◇

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る