第41話 仲間になりたそうにこちらをみている

 このままでは元の国へ帰還する方法が見つかる前に、何からの障害が皆の前に立ち塞がり、帰還が叶わなくなるだろう。

 故にそうなるよりも前にもう少し厳格なルールを設けるべきである。


「ごもっとも」


 奥田はそう言うし、自分もそう思う。


 皆で草案を作り、それをこの世界の出身者に見てもらい、最終的なルールがを決めようとしたが、そもそも現時点で秘匿している技術や研究があれば、結局真実が他者に露呈してしまう為、一旦全てを話すことにした。


「という感じで、向こうの世界の物品を魔道具に組み込むと、出力が格段に増加します」


「なっ・・・」


「という感じで、我々は身体能力が向上しやすいです」


「なっ・・・」


「といった世界に住んでいたので、この世界の文明度も数百年分は押し上げることができます」


「・・・・・」


「あとは?」


 リオがキレ気味に聞いてきた。


「ルシティは迷宮の地下9階にいたヴァンパイア」


「はぁ!?」


 これらの報告を踏まえて、我々のルールづくりが行われた。


◇◇◇◇◇


①向こうの世界の物品は娼館から持ち出さない。ただし内側に着る衣類と、武器は除く


②秘匿技術の研究は娼館内でしか行わない


③一人で娼館から出ない


④ルシティはやむ得ない場合を除いて霧やコウモリに変身しない


以上である。


 奥田は黒猫マントを装備できないことに不満を漏らしている。

 自分もメモ帳などを娼館に置いていくことになるので少しだけソワソワする。

 ルシティは自分専用のルールが設けられたことに異議を唱えている。

 葵ちゃん、隼人くん、オサートちゃんは先に寝たので明日にでも伝える必要があるな。


「一先ずはコレで運用していきましょう。問題が発生するようなら都度、修正・変更をする形で」


 そしてそこからは雑談となった。


「もう何というか、今まで叙爵を目指していたことがバカらしくなったわね。今日知り得た情報や物品を一つでも国に上げればすぐにでもそれが叶ってしまうわ」


 アプラはそう溢す。


「でもアプラ自身は魔道工学で何か作るのは好きなんだろ?」


「まあそうね。学園でも夢中になって物作りや勉強に励んでいたわ」


「じゃあ俺たちからのアイデアを幾つか形にしてはもらえないか?」


「あら、それは素敵ね。何か思いついたら話してみてちょうだい」


 アプラは何か憑き物が落ちたような柔らかい表情になっていた。


「そういえば、魔道具を連続稼働させるような道具やアイデアって無いの?常に握ってないといけないから、風呂を沸かすのも結構大変でさ」


「もちろん存在するわよ。魔道コンロなんかはいい例ね。手で触れていないと炎が消えてしまうコンロなんて使いづらいもの」


「ああ確かにそうだな。アレはどうやって連続稼働させているの?」


「ゴーレムが落とす命令石という材料を魔道具に組み込むと、一度発した命令を繰り返し行ってくれるわ」


 まさかのあの疲労確定ゴーレムがそんな材料を落とすだなんて。


「ちょっと奥田さん?ゴーレムの残骸を確認してましたよねー?」


 奥田を軽く問い詰める。


「待ってくださいよ、確かに確認したのは私ですけど、魔石と鉄しか落としませんでしたよ?」


 そこにアプラから答えが告げられた。


「その一見鉄に見える物質が命令石ですわ。魔道具に組み込む時に命令石の大きさを変えると、実行する命令をどのくらいの時間を繰り返すか調節できます。小さく切ったものを組み込めば数秒繰り返すようになり、大きいものを組み込んだ場合には長い時間を繰り返すようになります」


「ごめん奥田。確かにあの時『鉄が出た』って言ってたね」


「見た目だけで判断しちゃダメなのね。一度魔物図鑑を読み込みたいな」


 奥田と共に反省した。

 次回はちゃんと拾って帰ろう。


「魔物図鑑で思い出したんだけど」


 リオが声を掛けてきた。


「ルシティさんって魔物なんですよね?どうやったら今のような関係になれるんです?」


 その質問にルシティが答えた。


「うむ、私は人間達が定めた分類では魔物に属するのであろう。私が迷宮にいたときにジュンペー達がやってきてな『こんにちは、ここに住んでいるのか?』と声を掛けてきたのだよ。なので私からも普通に返答をして今に至る」


「声を掛けてって・・・何でそんなことを」


 リオの残った疑問に答える。


「それは俺たちがこの世界の常識を全く知らないからだな。ゴブリンが実はこの世界でいう人間かも知れないし、オークが立派な国を興してるかもしれない。だからまずは挨拶することにしてるんだ。だけど本当に会話ができるルシティに出会った時にはビックリしたよ。たまたま翻訳の腕輪を身につけていたことも功を奏したね」


「どんな魔物にも挨拶をしてたの?」


「ゴブリンやオークと遭遇した時も毎回最初は挨拶をしたよ」


「な、なるほど。そして翻訳の腕輪ですか」


 確かにルシティと遭遇した時に翻訳の腕輪を装備していなかったら会話できなかっただろう。

 あの偶然に感謝をしなくては。


「できたよ」


 唐突に奥田がそういう。


「厨房にあった魔道コンロから命令石を抜き取って、サーモンロッドに組み込んでみたの。そうしたらちゃんと手を離しても稼働するようになりましたよ」


 奥田が改良したサーモンロッドを見せてもらう。彼女の言う通り、手を離しても杖の先に灯した小さな火が消えなくなった。


「ねえ貴方達、その杖はちゃんと魔道具ギルドか政府からの認証を受けて、都市認証板が組み込まれているのかしら?」


 アプラがそう問いてきた。


「・・・・・」


「つまり震源遺物を組み込んだ魔道具は、認証板無しで都市内部での魔法発動が可能と?」


「・・・・・」


「例えばそれを手にした侵略国家は何をするのでしょうね?」


「・・・て、敵対国や侵略目標の国内で都市を破壊すると思います・・・」


「ふーん、その辺りの常識は持っているみたいね」


 ドリル美人が見下ろす形で蔑んだ目を向けてくると、なんとも。


 そしてアプラが席から立ち上がってから言う。


「では明日から、わたくし、リオさん、ロッコさんの手が空いた時、他の全員に対してこの世界の常識を知ってもらうための授業を行います。参加は強制です。授業の内容は講師である私たち三人が事前に話し合いを行い、内容が被らないよう心掛けます。市民の買い物の話、都市政府の話、各種ギルドの話、この世界で飼われている家畜の話など、内容はざっくばらんに話をさせてもらいますわ」


「願ってもないことです。ありがとうございます」


 そうお礼を伝えた。


 この世界の常識をより多く身につけないと、ふとした言動で人目を引き、よからぬ者を引き寄せかねないからな。この授業の提案は物凄く助かる。


 その後も雑談は続いたが、眠くなったもの達から順に部屋へと帰っていき、今夜の宴は自由解散となった。


◇◇◇◇◇

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